「……あら。こんにちわ、神代君」
「…こんにちは。」
毎週の日曜日の午前に、ある少年は必ず病院に来る。涼しい日も、暑い日も、雨の日も、寒い日も、彼は必ず彼女達の前に現われる。小さな、一本の花を持って。
「今日もあの方の見舞い?じゃあここに名前を書いてください」
「…はい」
キレイな文字で名前を書く動きに、看護婦は思う。目の前の少年は13…今は14だけど、なぜか彼からは少年ではない雰囲気を感じる。中学生なのに、今時の中学生ではなく、寧ろ高校生に感じるかもしれない。
あと、字がキレイで少し大人っぽい。
「…いい男になるね、あの子」
どんな日でも、必ず毎週で同じ時間に見舞う少年。看護婦とは関わっていないけど、もし毎週もあの女性のために見舞ってくれる人がいたら、すごく幸せだと思う。
例え、この形を望んでいなくても。

「………少し、遅れた。すまねぇ」
自動扉を閉め、白い病室で眠る女性に声をかけ、凌牙は少し苦笑する。
花瓶を差し替え、水を入れて新しい花を置く。チラリと外を見ると、彼は窓を開き、風が優しくカーテンを揺らしていく。
今日はいい天気だ。
「午後は約束があって、長く居られねぇ。来週は一日を付き合うぜ」
響いてくる命の音。
白という色に包まれる空間の中に返事はなく、ただ機械によってつくられた音が凌牙の耳に届いてくる。
小さな、生命の息と心臓の旋律。
「今週は、バカなヤツに出会ったぜ。ヘボデュエリストで、夢はデュエルの世界チャンピオンになるってな。アイツの噂は聞いたことがある。学校下手一のデュエリストだ」
ピッ、……ピッ。
「今日はアイツとデュエルするって約束している。…アイツにはイラッとしたぜ。諦めずにチャレンジすれば、何もかも手に入れるヤツを、ぶち壊したかった。…………この世界に、」
強く拳を握り、凌牙は辛そうに口元を歪み、微笑んだ。
「手に入れないモノと、取り戻せないモノがあるんだろ?」

――――――でなければ、オレは
お前を失わずに済めたのだ

「必ず、起きろよ。…昔みたいに、オレを罵ってもいいから」
以前と違い、自分より力が強い腕は細くなり、悲しいくらい軽い手を握り、凌牙は優しく、強く掴んだ。
「オレはずっと、待ってやるぜ」

例え一年でも、数年でも、一生でも
オレは絶対 お前を捨てねぇ

――――――待っているぜ



生きて、
咲いているに続く。
2011.11.13