悲しい理論


触れたいのに触れない。
触れるつもりがないのに、知らないうちに手を伸ばしてしまう。
その指先にあるのは、ただの後悔しかならない。そこまで分かっていても、感情は体と一つになれない。馬鹿なことだ。
「悲しいということを知っているか?遊馬」
カードをいじっている途中、凌牙は遊馬に声をかけた。突然で何を言っているかわからないけど、とりあえず遊馬は頭を傾いた。
「悲しいって、辛い時のことだろう?オレだって分かっているぜ」
だが、なぜか凌牙はただフッと笑って、自分に苦笑した。なんとなく馬鹿にされている気分だ。
「なんだよ、シャークと一年しか違わねぇけど、オレだって悲しい気持ちを知っているって」
「そうじゃない。…お前は、分かっていないんだ。遊馬」
触れないように手を伸ばし、指先は頬に触る直前で止め、ふと遊馬は、凌牙はつらそうに自分を見ていたことに気付いた。
「悲しいことはたくさんある。だが、オレにとって悲しいことはな、遊馬」
「?」
―――触れたくても触れない。
触りたくても触れないモノ。気付くつもりがないのに気付いたこと。関わりたくないのに関わられてしまう。
「守りたくても手に入るつもりがないのに、手に入れたいと思う自分が、悲しいんだ」



2011.11.13