一日目。

パシャっと体に打ち込む水の花。
トキが元に戻り、雨が続き、車にはねられる寸でのところで、少女は無事だったのだが、あの一瞬彼は振り返る余裕さえなかった。
彼…彼とアストラルは負けた。
誰だかわからず、無理やりデュエルを申し込まれた戦いに、彼らは負けたのだ。
何もできず、ただやられっぱなしだった。
あの後のことははっきりと覚えていない。少女・小鳥に家の前まで付き合わされたけど、帰る前の彼女はずっと心配した顔だ。
傘を小鳥に貸し、走る足音が雨の中に消えるまで彼はずっと家の玄関前に立っていた。
しばらくすると彼は入ろうと思った。そう考えたのだが、なぜか足は動かず、ただ雨の下に濡れられるだけだった。
どれくらい経ったか、彼は足元を下げ、家から離れ、水の道に入りはじめた。
ただ暗く、深く、雨の旋律の奥に歩きつづくその姿に、
「なにをしている」

―――――少年は足をとめた。

暗い闇の中にひかる道。雨でありながら町の騒ぎを止まらない人とモノの音。そこに少年は足元を止め、ゆっくりと振り返る前に大きな影は自分を被っていく。
冷たい感覚は消えていった。
「…ここで何をしている」
「………………」
まるで海の中に輝く希望のひかりのようだ。
はじめに自分を被る影を見上げ、そこには傘という認識が頭に出ると紫色の髪が視線に入り、やがて紅赤の両眸は相手を映り、
「…しゃっ、―――……ぅ…」
「!」
紺は紫の腕に倒れた。
糸が切られた人形のように、シャークを見ると遊馬は目を閉じ、口の言葉も終わらせずに意識を放したまま落ちる。
突然の行動にシャークは腕を伸ばして少年を受け取った。…が、正直にいうと彼は目の前の状況に混乱した。
「オイ。遊馬、っオイ!」
体が冷たい。雨と同じような体温が腕に伝わってくる。なぜ雨の中にいるか、なぜ彼を見るとすぐに倒れたのか、倒れるならなぜ彼が来る前に倒れないのかなど、ツッコ みたいところは山ほどあるけど、彼は口と閉じることにした。
「……あ。なに、あの子どうしたのかしら」
「倒れているわよね?まさかケンカ!」
「やだっ大丈夫?救急車を呼んだ方が…」
(ぁあちくしょっ)
どうせ聞いても欲しい応えが出ないと知っているからだ。
「迷惑をかかる後輩だ!」
集まっていく人々を気にせず、右腕を自分の肩に回させ、シャークは遊馬の肩を支えながらチラリと自分を覗く人たちを睨み、雨の街を後にした。