少し注意したいところがあります。
この短編の設定は昨年、ヨハ十学パロWEBアンソロに使われていた設定です。(私も参加者の一人でした)
ヨハンは教師で十代は生徒。元の設定には覇王はいませんが、ここにはいます。
そしてもう一つ。
この話は覇レイでございます…。無理な方はどうか退避してください!;
それでもよろしければ、下からどうぞ!





















思わず、見止める不思議な風景。
始めには強く揺れる。暫くボーっとすると頭が目の前の状況を理解し、茶褐色の眸はゆっくりと、
揺れを止めた。

0. 恋の出会い

オレンジと黄金に塗れされた夕空の下に、紅が舞う。
「てめぇええぇー!」
まるで踊りのような動きに拳と擦れ違い、紅は相手の腕を掴む瞬間体を男の後ろに回し、痛みの悲鳴と共に一人の男が正面から地面に落ちた。
手が後ろに縛られ、男がギッと紅を睨むと同時に、
「この、 っ」
ナイフが刺さる。

…男の顔に触る、僅かな距離の地面へ。
一瞬、男が息をとまった。
「去れ」
紅き少年から与えられた恐怖によって。
「今度こそ、…コロス」
「ヒッ」
腕が自由になった同時に、男は逃げるように走り、影が夕方と共に消えた。
紅き少年は立ち上がる。
チラッと壁際に立つ少女を見て、茶褐の瞳と共に肩が跳ねる処が見える。
少年は近付く。
「……、ぁ」
まだ恐怖から離れられないため、少女は怖いと感じた。
少しずつ近づいて行く、茶色と混ぜた紅い髪の少年。彼は自分に手を伸ばす瞬間、少女は思わず、目を閉じた。
だが、降りてきたのは一つの言葉だった。
「こわいか」
少女は迷いながら頷く。
「…すまなかった」
沈む、でも優しい声と語調。
少女が頭を上げると、黒いコートが彼女に掛けられた。
「今度こそ、気をつけろ」
「あ、…っ待て!」
去ろうとする少年に、少女は口を開いた。
「名前!教えて下さい!」
「…………――――」
少し考え込むと、少年は語る。
最後の夕方の光が彼を照らし、

「遊城 『十代』」

黄金色の眸は琥珀のように見えた。



Today & Tomorrow



2. 恋のまじない

「遊城様!付き合って下さい!」
「わかった」
瞬間教室は『衝撃』という黒い影に覆われた。いや、まるで誰かが笑えない笑いを言い出して、寒すぎで凝りた気分だ。
しかも何故だ。
「今日もお願いします!アタシ、頑張ります!」
「ああ」
何なんだこの対話はっ!っというより何故相手は何をやっても無表情の『覇王』だっ俺は信じられないいいいいい
まるで教室の生徒達のショックを気付いてないように、『覇王』と思われる少年はボッと本を閉じ、深蒼色の髪を持つ女の子と一緒に教室に出た。
「ん?」
廊下に青髪の大人が二人を見る。
まるで普通の景色を見ているみたい、彼は思わず溜息する。
「『今日』もかよっ レイはまだ諦めていないか…」

「遊城様!今回は十代様の好きな食べ物や色とか教えてください!」
「…色は赤。奢ってくれば何でも喜んで食べるが、一番はエビフライだ」

(というか、おかしいんだよ)
「何でレイは遊城から十代の情報を聞き出すんだよ…」
少し頭を振り、大人・ヨハンは再び廊下を歩き始めた。
「あ、アンデルセン先生!一緒に昼ご飯食べませんか!」
「わりっ!もう約束されたから、また今度」
(でも、遊城もよく付き合うよな…レイと)
もう一回チラッと二人の方向を見て、ヨハンは屋上に向かう。


1. 恋の再会?

一人の少女は、一人の少年に助けられた。
ドミノアカデミアに転校してきた少女。彼女は両親から離れ、ドミノアカデミアに入学するため一人暮しを始めた。が、新たな町に引っ越したばかりの彼女は、帰り道を間違って迷ってしまった。
それはある日のことだった。
道に迷ってしまった少女はストーカーに追い掛けられて、静かな住宅街まで追いつめられ、襲ってこられる時に、一人の少年が彼女を救った。
夕日に照らされる紅い髪の姿は赤くて、無駄がない動きがあっという間に相手を倒して自分を助けた。
少年は怖がっている少女に触れず、彼女に自分が着ているコートを肩にかけるとすぐに去った。
コートは彼女と同じ学園のモノだった。

少年が去る前に、少女に名前を教えたため、少女はすぐに学園の中を色々と調べてきた。そして、彼女は見つけた。
『遊城 十代』という名前の少年。

少女・早乙女 レイは、彼に恋をすると決めた。


「…で、十代」
「ん?なんだ?ヨハン」
「先生だ」とつけ加え、ヨハンは十代しかいない屋上で昼休みを過ごす。
家や会社の事情で、まだ学生である十代は同じ学園の教師であるヨハン・アンデルセンと共に暮して一年が経った。教師と生徒の身分で、学園では十代はヨハンを『アンデルセン先生』と呼び、ヨハンも『遊城くん』と呼ぶが、彼らは二人しかいない時間になるとお互いの名前を呼ぶことにしていた。
「お前、レイをストーカーから助けたか?」
「いいや?」
パンを大きい口で食べ、十代は続く。
「オレ、ストーカーを退治するなんてできる訳ねぇじゃん」
「じゃあレイが言っていたあの少年ってやはり、遊城…覇王か?」
「だと思う」
遊城 覇王。
十代の海外の親戚で十代が二年生の頃、彼は海外から留学しに来た。
最初の頃、ヨハンは驚いた。
同じ年の親戚と聞かれただけで、空港まで迎にいったら、ヨハンの目に映るのは十代だった。
…いや、十代と同じ顔の『十代』だった。
親戚とはいえ、十代の紅茶色の髪と似てる赤い髪、身長と姿と顔も十代に似すぎで、ヨハンは混乱を抱いた。唯一まったく違うというと、彼の瞳は琥珀色ではなく、
黄金みたいな色の目だった。
『覇王』は本当の名前ではないらしいが、十代と同じ学園のため、彼は自分の本当の名前を隠すことにした。
「じゃあ何でレイに言わないんだ」
「覇王に口止めされたんだよ」
「なんで?」
「そりゃあ……多分、」
後ろを振り返って、十代は屋上の上から地上へ、ある木の下にいる二人の姿を見つめる。
「覇王はレイを悲しませたくないからと思うぜ」

『あの!あなたは『遊城 十代』様ですか!』
『えっ?えーっと…オレは、遊城 十代だけど…?』
『アタシ、早乙女 レイと申します!アタシをストーカーから救ってくれた十代様!好きです!』
『え?』
『あなたに恋する乙女です!』

「でも遊城の方が、悲しいと思うぞ?」
「?なんで?」
「…気付いてないか」
(いや、寧ろ気付いた方がびっくりするぜ…)
思わずクスッと笑い、ヨハンはサンドを口にした。


3. 恋のため

「遊城様!これを試してください!」
「……。」
「どうですか!」
「…十代なら、この甘さで充分だろ」
「本当ですか!」
「ああ」
「ありがとうございます!では次、これも試してください!」
「………。」
チラッと覇王は周りを見渡す。
昼食が終わり、いつものようにレイは覇王と食事しながら十代のことを話していた。十代が好きそうな料理を作るため、親戚である覇王に試食を頼んでいる。
覇王も嫌など言わず、ただ無言のままにレイに付き合っていた。
だが、今日のはいつもと違うようだ。
「レイ」
「はい?」
「何故今日はチョコばかりなんだ?」
「あれぇ?遊城様っ知らないですか?バレンタインですよ?」
「………」
しばらく考え込むと、まるで分かったように覇王は目を瞬いた。
「そうか。バレンタインか」
「覚えていないんですか?」
「俺には関係ない日だからだ」
「では今のうちに食べてください!まだたーくさんありますから!」
「……そうだな」
うれしそうに自分にチョコを上げるレイに、覇王は少し彼女の笑顔に応え、
仕方ないと微笑った。


4. 恋しさ

キーンコーン
「あ」
最後のチョコの感想をメモ帳に書き終った同時、昼休みがおわる音が二人の耳に届く。
「いけない!ボク、次の授業に準備しなければ…」
「先に行け」
バタバタと周りを片付け、残りのチョコを一つの袋に入れると覇王が口を開けた。
「俺がやる」
「本当ですか?ありがとうございます!遊城さ…」
「レイ」
指先が髪に触る。
サラサラと柔らかい深い蒼色の長髪。少し冷たい指が軽く糸を撫で、頭に近づく。
「葉が付いてる」
静かに告げ、離れていく指と共に一枚の枯葉が目に移る。
「…あ、ありがとうございま…」
「遅刻するぞ」
「ぇっ、!ご、ごめんなさいではまた明日です!」
混乱しながらレイは急いで学園に走った。彼女の姿が自分の視線から消えると確信した瞬間、思わず手で口を覆う。
…気持ち悪い。
(食べすぎた…)
甘いモノは嫌いではない。
だが、好きでもない覇王は一気にたくさん食べてしまったため、甘さが口や喉に食い込んでいるように気持ち悪いと彼は思った。
でも吐くことが、彼はできなかった。
いや、したくなかった。
(悲しんでしまう)
手にいる枯葉を見る。
ゆっくりと目を細め、枯葉を口唇に触り、
覇王は枯葉を本のあるページに挟んだ。

彼はチョコの主人を、悲しませたくなかった。

留学始めて数ヶ月。
少年は初めて、保健室で授業を休んだ。


5. 恋の誘い

「なぁ覇王ー」
「なんだ」
「デートって何?」
瞬間覇王は石のように固くなった。
思わず目を本から離す。
「……知らないか」
「出掛けるってことかな?」
「間違いはないが…誰に聞かれたか」
「おっ!さっすがオレの親戚・覇王だぜ!さっきはさぁ、レイに聞かれたんだ」
「レイに?」
目が細く。
「うん。日曜日にデートしましょう!って言ってたんだけど…オレ、意味わからなくてー」
「何と応えた」
「出掛けならいいぜって言った」
「……そうか。…十代」
「?どうした?」
覇王は十代を見た。
「お前は、レイが好きか」


6. 恋の恩人

最終ページを読み終わり、覇王はページに挟んでいた枯葉を取り出し、テーブルに置く。
目が疲れたか、彼は椅子からベッドに移動しようとする時、一本の電話が携帯に掛かってきた。
携帯を開く。
「……。」
『あ、もしもし?こんばんわ!遊城様!』
レイだった。
「…どうした」
『明日はアタシ、十代様とデートです!やっと十代様が応えてくれたんです!やっぱり弁当作戦は成功しましたね!』
「そうか」
『これも遊城様のお陰です!本当にありがとうございます!アタシは明日、頑張ります!』
「ああ。頑張れ」
『遊城様にお礼をさせて頂いてください!欲しいモノはありますか?』
ふとテーブルのあるモノが金目に映る。
「……欲しいモノ か」
『はい!アタシが出来れば是非教えてください!』
「…………。ホシイモノ」
(オレノホシイモノハ、)
「…、は ないな」
『もぉっ!遊城様って無欲です!』
「そうでもない。ちゃんとある」
『あ、じゃあ教えてください!』
「…レイには無理さ」
彼はクスッと笑った。
「俺は、自分の手で手に入れたい」
『ふーん。じゃあ私、適当に上げますよ!』
「好きにしてくれ。…明日、頑張れよ」
『はい!では時間も遅いので、おやすみなさいです』
「…ああ」
(おやすみ)
ゆっくりとベッドに倒れ、少年は小さい声で語る。
優しい声は切れた通信の向こうに届くことは、
(俺は、ヒトリの笑顔が欲しかった)
なかった。


7. 夢の恋

チラッとふたりの男女を見る。
楽しそうに女の子は歩きながら男の子の腕を抱きしめ、男の子も苦笑しながら彼女としゃべる。
まるで恋人同士のデートのようだ。
「…確かにデートだが…」
ギッと後ろの青髪の男性に見詰める。
「貴様は何故ここにいる。このストーカー変態教師」
殺気プラス汚い口利き!
「…俺はお前に言われたくない、遊城『くん』…うげぇっ」
「鳥肌が立つくらい気持ち悪いこと言うじゃない」
言葉もまだ終らない内にヨハンは既に覇王に蹴られた。
「お前!教師になんてことを!」
「今日は日曜日だ。学校がない日はお前はただの人だ。黙れ」
俺の教師プライド…っていうかお前もストーカーだろうっでも言ったら後が怖いから言えねぇちくしょぉ…
見事に少年(しかも自分の生徒)に精神攻撃された大人(教師)はあの場に落ち込んだが、まったく彼をスルーする覇王は再びあの二人の背中を見る。
一人の影が闇に棲む。

「遊城、お前さぁ レイが好きだろう?」
「何故そう思う」
ゲームセンターでおもちゃを見渡し、緊張しながら少年はボタンを押し、少女の喜ぶ声と共に二人はぬいぐるみを手に入れた。
「他の奴はともかく、真面目なお前が好きでもない人に毎日、付き合う訳がねぇからな」
「だから?」
想像つかない多さの料理がテーブルを覆い込み、少女は最初驚いたが、少年の笑顔を見て彼女も喜んでいるように笑った。
「あの日、レイをストーカーから助けたのはお前だろう?」
「…俺じゃない。」
「オイ」
「きっかけは誰であろうと、レイにとって、十代こそ彼女の恋する相手だ。俺じゃない」
恐ろしい食事を済ませ、デザートを食べながら二人は仲良く話し続ける。少年は喋りながらパフェを口に含んだ。
「…レイは何故十代を好きになったか、知ってんのか?お前」
「ストーカーから助けたきっかけで」
「お前、ほっとうにバカだ」
波紋が黒い液体に広がる。
「所詮お前の自己満足だぜ。確かにお前はレイの気持ちを大切にしている事はわかる。でも、騙されたレイはどうなんだ。あの子はずっと…」
「貴様に言われたくない」
覇王はヨハンの言葉を蔽った。
「今の言葉。お前は教師として言ってるのか?それとも、あの『人』が取られたくないから言っているのか。…結局お前も俺も同じだ、清々しい振りをするな。…所詮お前もただ、」
「十代が好きなレイに妬いてるのでは?」

大人は口を開く。
「そんで?」
少年は目を瞬いた。
「確かに俺はレイに妬いてる。否定はしない。でも俺はアイツが好きだ、だから俺は自分の気持ちを認めながらアイツを好きになってる人達に妬く。お前はどうだ?何故自分が不快になってるか、理由が分かっているか?そしてあの答えを、」 認めているのか?
瞬間ヨハンは一冊の本にダイレクトアタックされた。
ざわざわとなる周りの雑音を気にせず、覇王は一気にコーヒーを呑みきった。
「言ったんだろ、貴様に言われたくない。このストーカーホモめ」
「な…っ!」
「だからお前が嫌いだ。日本に来る前から」
ふと本をテーブルに置く。
「来る前から?」
「……」
彼はゆっくりと目を細め、ヨハンを見つめた。
そして、伝う。
「もう出てきたぞ」
「?」
「十代達が、」
気付いたらいつの間に十代とレイはすでにカフェに出てきてしまい、ヨハンはすぐ追い掛けようとするが、覇王は先に行ってしまったため、彼は勘定を払わなければいけなくなった。
「遊城…狙ったな!」
「当たり前だ」
一人の影が全てを覗く。


8. 恋の想い

「そういや、レイは話があるって言ってたな?」
ふと十代は思い出す。
出掛けを誘われた時、少女は話したいことがあると言っていた。詳しくはまだ聞いてないが、大事な話だと十代は気付いたから、彼も「いいぜ」と返事した。
「何の話?」
十代は隣のレイを振り返る。
偶然に誰もいない公園。
少し力をカバンに込め、レイは顔を上げた。
「十代様」
「ん」
「アタシ!十代様が好きです!た…」
「ああ!オレもす…」
「最後まで聞いてください!」
思わず肩が跳ねて、十代は口を閉じた。
「アタシは本当に十代様が好きです!例え十代様が私を助けたことが覚えていなくても、アタシは好き…!アタシを助けた人は誰でも、アタシは十代様に惚れました!だからっ、教えてください。十代様はアタシのこと、どう思っていますか?」
まっすぐ少年を映る茶褐色の眸。
十代は少し迷うが、一歩を進め、想いを決めて彼女に手を伸ばし、
「レイ」
名前を呼んだ。
「オレはレイが好きだぜ?」
「じゅうだ…」
「でもゴメン」
ゆっくりと、十代はレイの頭を撫でた。
「オレにはもっと好きな人がいるんだ」
「その人って、…アンデルセン先生?」
「…レイも、」
彼は微笑う。
「オレより好きな人居るんじゃん?」
「アタシは、」
「レイは、気付いてない?」
ずっとレイの側に レイを応援してきたあの人
「あの人にも、レイはちゃんと 『アタシ』を使っているんだぜ?」

この時。
ボクは…アタシ、分かったの。
夢のような甘い恋はもう 終ったってこと。
「っ!」
少女は少年の目の前から去った。
「レイっ、…」
チラッと十代を睨んだ覇王だが、彼はすぐに少女の背中を追った。
思わず十代は苦笑う。
「うわぁー覇王の目こえぇー」
「…お前、最初から気付いたか?十代」
「んー?」
ヨハンは十代に近づき、肩と並べる。
「俺達が居たこと、最初から?」
「うーん、いいや?気付いたのは、カフェの時からだぜ。覇王がヨハンに本を投げつけた時」
「…あのタイミングかよ」
「ヨハンは凄いな」
「なんで?」
頭が傾くヨハンに、十代は笑う。
「覇王を怒らせた相手は普通に、重傷なしで無事でいれる筈がないんだぜ」
「…………。」


9. それぞれの恋

『実はなぁ、ヨハン』
『覇王はいつも無表情で、感情がないみたいんだけど。実は覇王もちゃんと、怒れるぜ』

走ってはしって、それでも止まらずに少女は道を走ってきた。動かないくらい、いつの間にか太陽は既に西に向かい、一日が終わる。
彼女は、足を止めた。
(分かっている)
(わかっているわ)
「…十代さ、ま…はぁ、好きな人がいるって……っ」
(知っていたわ)
「それでも、アタシは好きなのよ…恩人とかじゃなくて、本当に…」
一つの手が肩に触れる。
「!じゅうだいさ…」
ハッと頭を振り帰して、少女の笑顔は、
…固くなった。
『オレは小さい頃、覇王と一緒に遊ぶ時もあった。覇王はオレのお兄さんみたいにオレを守ってくれた。
でもなぁ、ある日。一つの事件が起こって、それが…覇王が海外に送られたきっかけなんだ』
「やっと一人になったか」
「お前…!」
逃げるようにレイはすぐに相手の手を振って離す。まるで嫌なモノが見えてきたみたいに両瞳は揺れる。
「お前は、あのときのストーカー」
「前はあのガキのせいで邪魔されたが…わりぃなお嬢ちゃん。おれはなぁ…」
彼は手を上げ、指をレイに突きつけた。
「欲しいモノがあれば何を使ってもじっくりと味わいたいんだぜ」
「っ!」
少女は逃げた。
『オレが、誘拐されたんだ。…でも、オレは助けられた』
二つの足が動く。
少女が足を進め、この場から離れようとした。…が、
「痛っ!!」
「逃がさねぇぞ!」
髪が大きい手に掴められ、引っ張られた深い蒼色の糸が主人に痛みを与えた。
「逃がさない……前回はあのクソガキに邪魔されたからな、たっぷりおれを満足させろよ…かわいいお嬢ちゃん」
「放して!この変態…うっ!」
(たすけて)
(たすけて)
壁に押しつけられ、突然の衝撃で体が痛みを感じ、思わず本能的に目を閉じたレイが再び目を開く瞬間、
両手が掴められた。
(たすけて、たすけて…)
「悪く思うなよ。お嬢ちゃん…」
手が服を握る。

――――助けてー!
『まだ子供であるはずの覇王が、オレを誘拐した者達を全員、…』
一瞬、男性が少女から放された。
『…たおしたんだ』
「!」
突然引っ張られ、まだ反応できない間に一挙が腹部に打たれ、「ぐっ!」と共にもう一つの手が首を掴めながら向こうの壁に押しつけた。
紅き髪が揺れる同時、少女は呆れた。
「…俺は言った筈だ」
「っくぅ…」
自分より小さい手を掴める男性。が、この手から伝わってくる力は男性より上のようだ。
「今度こそコロスと、…貴様。言葉では通じないか?」
「かっぁ…あ、ぁぁ……」
先ほどより力を指に込める。まるで柔らかくて脆弱な花を潰すみたいに、覇王は余裕をもって喋る。
「ならば教えてやろうか。…躾の時間だ」
少年は緩やかにゆっくりと口元を、上げる。
『死ぬより、恐ろしいことを覇王はあいつ等に見せたんだ』
平手を相手の目を蔽え、黄金のひとみは輝く。
少年は、笑った。
「地獄の闇におち、」
「もうやめて!」
『だから覇王は、…海外に送られたんだ。でもオレは怖いと、思っていない。ただ、覇王を止めることができなかった自分が悔しかった。そして謝りたかった』
「もうやめて!遊城様!」
少女は後ろから少年に向け、彼の腕を抱きしめる。
「っレイ!放せ!」
「アタシはもう大丈夫です!だからもうやめてください!」
「…コイツはお前を襲おうとする奴だぞ。お前はこの者を許すというのか!」
「アタシ、…こんな遊城様を見たくないんです!」
首を掴める指が動く。
『おにいちゃん!もうやめて!…いまのおにいちゃん、こわいよ』
思い出す。
小さい頃、自分を止めようとする一人の子供。
「もう、お願い。止めてください」
「………、……」
『覇王を傷付けて、ゴメンって』
少年は、手を放した。


10. 恋の願い

二人は無言のままだった。
あの後、少年は意識を失った男性を放し、携帯電話でヨハンに連絡して彼に後始末を頼み、二人は帰り道に戻る。
何もしゃべれず、二人はただ肩を並べながら歩くだけだった。
段々薄くなっていく残照は二人を照らす。
「…すまなかった」
少年は静寂を破った。
「嫌な思いさせたな」
「…ほんっとうに嫌な思いです」
足を止める。
夕日を背に向け、覇王は後ろのレイを見る。
「…好きな人と始めてのデートの日に振られて、しかもあの日のストーカーに襲われそうになって…本当に嫌な思い出ですね」
「……すまない」
「あなたのせいじゃないよ。アタシの運が悪いだけなの」
(でも、)
「…遊城様」
レイは顔を上げる。
(あなたはアタシを助けたの。あのときみたいに、アタシを助けてくれた)
まるで助けられたあの日のように、黄金色の瞳は琥珀に見えた。
「私を助けたのは、遊城様でしょう?」
「……レイは、」
一瞬言葉を止り、覇王は再び続く。
「最初から、知ってたんだろう?」

遊城 覇王と知り合ってから、レイはすぐに分かった。
あの日に、彼女を助けたのは十代ではなく、覇王だった。だが、彼女はこのきっかけで十代と知り合い、彼に惹かれたことも事実だった。
だから言わなかった。
覇王もこれに気付き、何も言わなかった。
「…うん」
小さく呟く、レイは頷いた。
「でもどうして言わない…ううん、」
彼女は頭を振る。
「遊城様はきっと言わないよね。遊城様だもん」
「…今日のデート、楽しかったか」
「はい。楽しかったわ」
少しと彼女は笑う。
「アタシからの誘いだけど、十代様も私に付き合って遊んでくれました。すっごく楽しかったんです」
「そうか」
「…でもね」
頭を下げ、蒼い長髪が顔をかぶせた。
「最初から振られると分かっていたら、無理矢理でも…十代様を抱きしめながらキスでもすればよかったわ」
(本当は分かっていたの)
(でもやはり思い出が欲しい。恋っという思い出が欲しかったわ)
カバンを握る手が震える。
腕に繋いで肩は小さく動き、覇王は一歩を進め、
「俺が叶えてやろうか」
瞬間、少女は少年の肩に預けられた。
「『…レイ』」
覇王と違う、明るい声。
「『泣きたいなら泣いて良いぜ?』」
思わず瞳を見開く。
「…じゅ、だいさま……」
「『でも泣いたら、笑ってくれない?』」
これは、十代の声だった。
「『レイは笑顔に似合うぜ。オレ、レイの笑顔を見て元気が出る。だから、いっぱい泣いたら、笑って?』」
珠が降る。
一つ一つ、ゆっくりと頬に流れて雫が落ち、布地を濡らした。
「…ぅ…ひくっ…」
背中に腕が回され、
少女は目を閉じた。

悲しい音色は夕日と共に、夜の闇に溶けた。


11. 恋

「話は聞いたんだけど、レイはどうだった?覇王」
「泣いた」
「えっ?!」
「でもあの後、彼女は微笑った」
「あ…そっか。やっぱりレイは笑顔が一番だな」
「ああ。そうだな」
サンドの一口を噛む覇王。十代は真っ直ぐに彼を見た。
「なぁ、覇王」
「なんだ」
「ごめんな」
「気持ち悪い」
「ってひでぇーな!オレは心込めて謝ってんのに!」
「俺も言ったんだろ?『あれ』はお前のせいじゃないと」
「だって覇王はオレのために、海外に行ったんだろ?……それに聞いたぜ。覇王はあれから、一回も怒ったことがないって」
覇王には不思議な『力』があった。彼が怒ると、人に精神的な攻撃を与えることができる。子供の頃の彼はこの『力』を使い、十代を誘拐した人々をたおした。
肉体が無事でいても、精神がなければ信号が体に伝えられない。
「本当はなぁ、覇王がヨハンに怒った時、ちょっと心配してたぜ?」
「…ヨハン・アンデルセンはお前が選んだ奴だ。お前の手紙を読んで、俺は興味があった。毎回の手紙に書かれている名前の奴は何者かと」
「……もしかして、そのためにわざと留学しにきたじゃ…」
「………。」
「ってあたりか!覇王おもしれぇー!」
「十だ…」
「遊城様ー!」
頭を教室の入口に振り向ける。
一人の少女が言葉の主人を見つけ、彼女は嬉しそうに軽い歩調でこちらへ向かう。
「どうした、れ…」
言葉がまだ終らないうちに両手がほっぺを包み、
やわらかく淡い唇が頬に降った。

一瞬教室の全員も停頓 しちゃった。
「えへへー」
少し恥ずかしそうに、レイは覇王を見る。
「約束のお礼です!では、また授業後にねー!」
あっさりと去るレイ。
恐れながら少女から少年の覇王に頭を振り返ると、相手は始めに呆れた顔だが、しばらくすると、
「………〜〜」
まるで意識戻ったように口を閉めず、赤色が顔を塗り込んだ。

は、覇王の顔が赤くなった!すっげぇー!
くっ、十代!
これっ大ニュースだ!
十代!…っ貴様等 笑うな!


少し寒く、晴れるある日。
テーブルに置かれたプレゼントのチョコと共に、

恋の日々は再び始まった。



オマケ. 続く恋

「ぷっ!…マジ?」
「マジだぜー?覇王の顔、すっごかった!」
「くぅー残念!俺も見たかった!あの覇王の恥ずかしいか…ぐぁっ!」
「何を見たかったか?変態教師」
「っ何で覇王…遊城は屋上に居るんだ?」
「あっ!遊城様…じゃない。『十代』さまー!一緒にお弁当食べましょう!」
「…ああ。今行く」
(呼び捨て?!)
(呼び捨てた!)

今日も、明日も、
恋はきっと続いていく。


Fin.



学パロ・覇レイ『Today & Tomorrow』    監修:Orangeさん

バレンタインに見えませんがバレンタイン文です!遅くなりましたが終らせてみました!^^ ある覇レイの方へ…私、完成しましたよ!!!
でもちょっと長かった…今回OTL 本当はヨハ十のも書きたかった。でもまた長くなるからやめた…。(遠い目)
今度、ホワイトのでも考えてみますよ、Orangeさん(苦笑)監修お疲れ様です!><


2009.02.24