少し注意したいところがあります。
この短編は未来編のモノです。ヨハ十前提の十明日ですが、万明日やヨハ十も…あります。
私はヨハ十ファンですが十明日も好きです。本当ですOTL でもこの短編は凄く突発です。
ヨハ十前提とはいえ、十明日に無理な方はどうか退避してください;
それでもよろしければ、下からどうぞ!






















一つのリンゴは袋から落ちてきた。
「あ、いけない…」
休日が取れ、女性は久しぶりに買い物に行くことが出来てうれしいはずだが、久しぶりすぎで少し買いすぎたと気づいたのは、すでに帰り道の時だった。
リンゴは袋から落ち、数回地上に跳んだ後に一人の足元で止り、女性は謝りながらリンゴに手を伸ばす。
「ごめんなさい、そのリンゴは私の…」
「明日香?」
その時だった。
懐かしい声と呼び方が聞こえた。
少し呆れながら頭を上げ、信じられない、と瞳が大きく揺れた。
「……じゅう、だい?」
「…明日香、なのか」
目の前にいるのは、数年前と同じ姿
――――青年の十代だった。


未来への旋律




「ごめんなさい、適当に座ってくれないかしら?すぐにお茶でも淹れるわ」
「あぁ、ありがとう。お邪魔するよ」
「十代は何を飲むの?私はコーヒーを淹れるけど、コーラの方がいいかしら?」
「あ、いいんだ。コーヒーでいいぜ」
「そう。じゃあ今から淹れてくるわ」
「ありがとう」
リビングに残された十代。彼は周りを見渡す。
ダンボールが数箱置かれているが、リビングは綺麗に片付けられている。彼女の性格らしいと十代は感じた。
壁には数枚の写真立てが掛けている。デュエルアカデミアの頃や、卒業後や明日香の留学頃の写真もあり、他の仲間の写真もあった。
中には彼女の兄・吹雪がテレビのステージに立っている写真も見え、思わず十代は「ぷっ」と笑った。
(皆も元気そうだな……、…ん?)
本棚の上に、二つの写真立てがあるが、一つは何故か写真立ての後ろに伏せている。
先に立っている方を取る。
一人の男と一人の女性が肩を並べながら立っている写真。女性は明日香。男の方を見ると十代はクスと笑う。
「万丈目の奴、今も真っ黒な服を着てんのかー」
成長した万丈目と明日香。はっきりとはみえないが、お互いの手の指に何か付けている。小さな銀色のモノ。
青年は少し口元を緩める。
(じゃあもう一つのは…)
伏せている写真立てと入れ代わりに、十代はもう一つの写真を見る。
一瞬、大きく開いた瞳を細めた。
足音が聞こえ、十代は沈黙のまま元の場所に戻した。
「ごめんなさい、十代。お待たせ」
「ん?ありがとう、明日香」
ソファに座り、明日香が淹れてくれたコーヒーを砂糖やミルクも入れずに取り上げ、ゆっくりと飲む十代を見る明日香。
視線が気付いただろう、一口を飲んだ後に十代は明日香に問った。
「どうした?」
「あ、ううん。ごめんなさい。少し、驚いて」
「何を?」
「十代がデュエルアカデミアに居る時はまったくコーヒー飲めないけど、今は普通に飲めると思うと、少し不思議な感じがしたわ」
「そりゃあオレはもう大人だし」
「…そうね。やはり、人は変わるよね」
「明日香もすっげぇー美人になったぜ!万丈目、大変そうだな。…あ、後ろの写真見たんだ。わりぃ、勝手に見ちまって」
「いいわ。本当に見せたくない写真なら隠すから、見ても平気よ」
「……そっか。ところで、何か片付けている感じだけど、引っ越しでもすんのか?」
「えぇ。もうすぐ結婚するわ、私」
思わずコーヒーが零れるところだった。
「…結婚?」
「えぇ」
「もしかして、万丈目と?」
「招待状は送ったと思うけど、届いてなかったの?」
「え?何処へ?」
苦く笑いながら明日香は溜め息をした。
「ヨハンのとこへ送ったわよ」
「…………あは、あはははは」
視線を逸らしながら笑うしかできなかった十代だった。
「ヨハンと喧嘩でもしたの?」
「いや、なんていうか……オレ、ヨハンと一緒に暮している訳でもねぇし」
「でもたまにヨハンとこに居るって準…万丈目君が言ってたわ」
「……一緒には、住んでないぜ」
「どうして?好きでしょう?彼を」
「…どう、だろうな……」
少し目を逸らすと、十代は真っ直ぐに明日香を見つめた。
「本当に綺麗になったな、明日香は」
「何よ急に、私が好きだからとでも言いたいの?」
「ああぁ」
『バシャ』と澄む音が現れ、カップは突然皿の上に戻る。
コーヒーは少し零れ出した。
「……――と、言ったらどうする?」
静かな沈黙は空気を抱きしめた。

「…やめてよ、今更」
先に言葉を出すのは明日香だった。彼女は視線に十代を合わさずに語りはじめる。
「ヨハンと喧嘩したとはいえ、変な事を言わないで頂戴」
「喧嘩じゃないぜ」
「からかわないで!」
「オレは明日香に一度も嘘をついたことがない」
まっすぐに彼女を見つめる両眸。
感じる。静かに、その柔らかさ、優しさ、そして僅かの悲しさが瞳から伝わってくる。
「…オレは、お前が好きだ」
柔らかく呟いてくる語調は、酷く優しかった。

「―――――私は、」
「なーんてな」
あっさりと空気が切られた気がした。
「お前、万丈目の許婚者なのに許婚指輪もつけてないし、オレだけの写真を写真立てに掛けているから、オレが好きかと思ってさ。期待してしまうじゃん?明日香もすっげぇー美人になったんだし」
まるで相手で遊んでいるような微笑。信じられない瞳に十代はゆっくりと、
口元を上げた。
「本気にしちゃったか?」

瞬間、切れた女性は、
『パッ』とその手で青年を打った。

「…貴方は本当に変ったわ」
打った手の指先は震えている。
「あなたのため?貴方が好きから、貴方の前では指輪を付けていなかったとでも言いたいの?馬鹿なことを言わないで!昔の私は確かに貴方に惹かれていたけど、今は違うわ!お陰ですっきりしたわ…貴方はもう過去の人よ!もうあなたと会いたくない!出ていって頂戴!」
前髪のせいで相手の顔が見えないが、明日香は怒りながら彼を見下ろすと玄関に向かう。
「…今の言葉、決して忘れないでくれ」
その時だった。
女性の後ろから青年の声が再び聞こえた。
「過去より、今の幸せを掴まえてくれ。オレなんて忘れちまえよ」
さっきと同じやわらかく、でも優しい語調が再び伝わってくる。
「……万丈目と、幸せにな?」
でもどこかに悲しく、切ない感じの……
「っじゅう…」
頭を速く振り返る。
だが青年の姿はなく、まるで幻のように消えた。
残されたのは、先程耳に届いた言葉だけだった。
ボーっとしながら彼が使っていたカップを見る。確かに飲んだ気配があった。
ふと本棚の上の写真に視線を移す。
彼女と万丈目が取っていた写真立ての後ろに伏せている写真立て。ゆっくりと取り上げ、入っているのは
デュエルアカデミアの頃に、エビフライを嬉しそうに食べ、カメラを持っている彼女に笑顔を咲いた、十代だった。
『オレは明日香に一度も嘘をついたことがない』
「…馬鹿」
一粒ずつ、雫が写真立ての上に降る。
「馬鹿……」


今の彼と昔の彼も、変っていなかった。




白い花は舞う。
扉が開かれ、花はまるで祝っているように優しく降っていて、二人を抱きしめる。
「万丈目おめでとうー!明日香さんを幸せにしてくださいよー!」
「うあぁああ―――明日香さんは遂に結婚だー!ボク、嬉しいような悲しいような…!」
「丸藤先輩!この気持ち、すっごく分かるドン!!」
「だって相手はブラックさ…」
「貴様ら、結婚式当日に喧嘩売ってるのか?!」
「おめでとう、明日香」
「ありがとう。亮」
「アスリン、幸せになってね?僕は君の子供を楽しみしているよ!」
「に、兄さんったら…」
「では万丈目君」
「は、はい!師匠!」
「アスリンを泣かしたら…分るな?」
「は…はいィ!」
「兄さん、心配しすぎるわよ…」
「よっ!明日香!」
ふと少し懐かしい声が聞こえ、明日香は少し前を見る。
「ヨハン君」
ヨハンだった。
「やっ、万丈目に明日香。結婚おめでとう!」
「サンダーだ、ヨハン!」
「来てくれてありがとう、ヨハン君」
「あはは。実は、プレゼントを届けに来たんだぜ」
「プレゼント?」
「ああぁ」
ヨハンはクスと笑い、右へ一歩を移動した。思いもつかない者の姿が視線に入る。
騒ぎは瞬間、静まった。
『彼』は一歩ずつ女性の方向に進み、赤に近い紅茶色の髪は揺れている。
「――――…じゅう、だい?」
呼ばれたと同時に青年は足を止めた。
女性は思わなかった。
あの時から、彼女はもう目の前の青年と会わない気がした。だがもし、また会える時が来たら彼女は彼に謝りたい。
あのときの、
「じゅう、」
声が止めた。
何も言わないようにと言っているように十代は指先を口に置き、明日香と万丈目を見て顔を緩めた。
ゆっくりと手に居るヴァイオリンを顎と肩にセットする。
「―――二人の幸せのために、ひきます」
弓は弦を触り、旋律はゆっくりと歌い始めた。


とっても不思議なメロディーだった。
始まりは元気っぽく、優しい旋律の中に子供達が楽しく遊んでいる感じに踊っているが、続いて少し静かに悲しいような気配がする。でも、その悲しさはすぐに明るくなり、元気そうに感じる音色の奥に穏やかさは残っている。
まるで子供から、大人への思い出の旋律。大人となった人のために祝っているみたいだった。
思わず瞳が潤っていく。
誰も言葉を出すことができなかった。

メロディーと共に周りの花びらはまるで惹かれるように優しく周りの人達を抱きしめながら耳を傾け、終わりの音で花びらはゆっくりと十代の手に集め、花びらは一輪の花となった。
演奏は、終った。
「結婚、おめでとう」
万丈目と明日香に、十代は花を二人に捧げる。
「明日香、万丈目」
「さ…サンダーだぁばか者!」
「泣いているぞ?万丈目」
「だからサンダーだぁ!た、ただメロディーに感動させただけだ!」
「…ありがとう、十代」
両手で花を取り、大事にしているように花を抱きしめる。
「ありがとう」
一つの雫と共に彼女は笑顔を咲いた。
「幸せにな?サンダーもお嫁さんを泣かすなよ?」
「な…!俺様は全力で天上院君を守るんだ…!」
「だからなんでまだ『天上院君』と呼んでいるんだよ?ちゃんと守らないと…」
顎が軽く上げられ、思いつかないことに、
青年は女性の流れた涙の頬にキスを捧げた。

「…あ」
青髪の青年の一言で、
「遊びすぎだぜ、十代…」

「「ぎゃあぁああああぁあ―――――――!!」」
騒ぎはあっという間に広がった。
「……じゅ、じゅ」
「とられちまうぞ?」
「…じゅうだい貴様ああああああああ」
「おっとあぶねぇ!まぁそういうことだ、もしくは…」
「…#%&*^%$!!!」
「……気をつけろよ?万丈目」
「〜〜〜さっさと消えやがれぇ――――!」

自分までキスされてしまった万丈目は見事に爆発してしまい、会場の騒ぎに十代は一言を残しながら去った。
「嫁さんと子供を大事にしろよ!サンダー!」
だが騒ぎは、もっと大きくなっていた。


「…ありがとう、十代」
騒ぎの中に女性は手にいる花を見つめ、微笑う。
「あなたも、幸せに」

最高のプレゼント、ありがとう





オマケ


「遊びすぎだぜ、十代…」
「うん。ちょっと…な」
騒ぎから逃げ出し、帰り道の飛行機に二人は一緒に座っていた。
「ありがとう、ヨハン」
「ん?」
「オレに、招待状をくれて」
「お前は見たかったんだろう?明日香の幸せ」
「ん」
素直に頷く十代。
彼に苦笑し、ヨハンは十代を自分の肩に預かる。
安心したように十代は目を閉じた。
「…十代はさぁ、」
「ん?」
「今でも明日香が好きか?」
「嘘はついてない」
「じゃあ俺は?」
「なんだ、妬いているのか?」
「愛する人が他人のことが好きと言っているのに悲しまない奴が居たら、俺は是非会ってみたいぜ」
「…明日香への気持ちとヨハンへの気持ちは、違うぜ」
ゆっくりとヨハンの手と繋いで、十代は小さく呟く。
「オレは、選んだんだ」
繋がるまま腕を上げ、胸の上に置きながら微笑む。
「だから、もう離さない」
「…あぁ。俺もだ」

どこへ行っても離さない
心が永遠に繋がっている

「帰ったら聴かせてくれない?ヴァイオリン」
「…うん。ヨハンが聴きたいなら、何度でも」
「今度は、俺を思ってひいてくれ」
「…ヨハンのためなら、何度でも」

聴かせてくれ
お前が全身全力で心の想いを入り込んだ
俺達の未来への旋律



未来編・ヨハ十前提の十明日『未来への旋律』    監修:Orangeさん

…まぁ、十明日じゃないといわれるかもしれませんが、私の中にこれは十明日です!異性としては確かに十代は明日香が好きと思う。
ただ、ヨハンへの気持ちはそれより…だけの話。最後はヨハ十ですが、途中に友は何度も悲鳴を上げた(苦笑)
十明日ですみませんでした><


2009.05.09