リクエスト:甘い

こちらはペン子への誕生日のプレゼントです。
ペンコさんのみお持ち帰り可能です^^

甘いってリクエストされたので、もう未来編しか...(苦笑)
一応オリジナルキャラもいますので、ご注意ください。

ペン子、お誕生日おめでとうー!






















綺麗に唄う曲の旋律は風の中に揺れてゆく。
ブランコの上に座りながら子供達は目を閉じ、静かに青年が弾く音色に耳を傾く。
子守唄のようにメロディーは静かで柔らかく、まるで母に抱きしめられているみたいに音色はあたたかく感じる。
音楽は止まった。
「…みんな、そろそろ屋敷に入ろうぜ」
弓をヴァイオリンから離れ、青年は眠るところの子供達に話す。
「えぇぇーもう終わりー?」
「僕、まだ十代お父さんのヴァイオリンを聞きたいぃー」
「もうちょっと聞きたいよ、お父さんー」
「また今度な」
不満そうに頬を膨らむ子供達に青年は思わずクスクスと笑い、小さく微笑う。
「代わりにアフターヌーン・ティーでも作ってやるよ。何が食いたい?」
「おう!僕、ホットケーキ!」
「わたし、イチゴケーキ!」
「十代お父さんの特製エビフライ・サンドイッチ!」
「って待て!最後のはおやつじゃないっつーの!」
しかもなんでサンドイッチなんだ!オレはこんなサンド作ったことがないぜ?
だってヨハンお父さん、よく残りのエビフライをサンドにして食べるもん
……。いいや、美味いは美味いけどさ…
頭を左右に振り、青年は子供達と共に屋敷に戻る。
何か懐かしいと感じながら、チラリと琥珀の瞳は小さく揺れるブランコを見た。



やさしい待ち時間



『わりぃ!十代!子供達を頼む!』
『…はい?』
屋敷の扉を開いて青髪の青年が自分を気付く瞬間に肩は掴まれ、『子供達を頼む!』って言われたら彼はすぐに屋敷から去り、わからないままに呆れた十代は残された。
子供達から話を聞くと、急に仕事が来てしまい、青髪の青年・ヨハンは数日間にアメリカまで行かなければいけない話になっていたらしい。
突然すぎでヨハンは子供達を知り合いに預かることができず、丁度困っている時に十代は帰ってきたため、ヨハンは彼に頼んだ。
十代は返事しなかったが、子供達の面倒を見るのは嫌ではない。
ただ、少しだけ残念だと十代は思った。
(一言しか話さなかったな…ヨハンと)
ポットとコップを温めながら窓の外を見る。
真っ緑に見える草原と遠いところまで広がる蒼い天空。町と離れているため、周りにはこの屋敷しかないけど、何故か心は自然に落ち着く。
まるで大地と空に抱きしめられているようだ。
この景色を見るのは、何ヶ月ぶりだろう
(一年は…ない、よな)
ジュースやミルクティー、ホットケーキやイチゴケーキにサンドを一緒にテーブルに置くと子供達は喜ばしい笑顔を咲く。
「手は洗ったか?」
「「うん!」」
「ん。じゃあ食べて良いぜ」
「「いっただきまーす!!」」
早速食べ始める子供達。一口を口に入る瞬間、感動したように子供達は喜んだ。
「うまーい!流石十代おとうさん!」
「ヨハンお父さんのも美味しいけど、やっぱり十代お父さんの手作りは好きだわー!」
「ぼくも!」
「そうか、ありがとな」
子供達の笑顔で気持ちは満たされたか、十代も嬉しく食べる子供達をみながら自分の飲み物を淹れ、向こうの椅子に座る。
丁度一口のコーヒーを飲んだところだった。
「あ、十代おとうさんーぼく、ずっと聞きたかった事があるけどー」
「?なんだ、アレックス」
「どうしておかあさんはいないの?」
吹かされたとこだった。
なんとか咳きや液体を喉に戻り、十代は子供を見る。まっすぐで自分を見つめる瞳に何故か十代は少し複雑な気分だ。
「えっと、おかあさん?」
「うん!」
「おかあさんって…なんで?」
「どうしてここには十代お父さんとヨハンおとうさんがいて、おかあさんはいないの?」
「えっと…オレ、結婚していないから、嫁さんはいないぜ?」
「えー?十代おとうさんは結婚しているでしょう?」
「…え?」
「だって、十代おとうさんのネックレスは指輪だって。結婚している人は指輪を付けるってシャリーが言ってたよー」
「…シャリー?」
「うん!わたし、前に本で読んだの!ねぇ?ピーター」
「うん!しかもヨハンお父さんも付いているよねー」
「ねぇー……あぁ!」
突然、何かを気付いたように子供達は十代に頭を振り返る。
「…ど、どうした?」
何故か妙な予感がする。
「十代お父さんはどんな人と結婚したの?」
「え?」
「ヨハンおとうさんが結婚した人は誰なの?もしかして十代お父さん?」
「馬鹿か、シャリー!十代おとうさんは男だぞ!男と男は結婚できる訳がないだろ!」
「そういわれても、ヨハンお父さんはいつも十代お父さんの話しかしないもん。それに、十代お父さんもわたし達のお父さんでしょう?」
「それはそうだけど……だって十代おとうさんはおとうさんだろ?おかあさんじゃないよ」
「僕はおかあさんが居なくても十代お父さんとヨハンお父さんも好きだよ!アレックス、シャリー」
「ピーター!話はちが…」
「なぁ」
大人の声で三人の子供は頭を前に向く。
十代は優しく微笑う。
「みんなはヨハンお父さんが好きか?」
「「うん!大好き!」」
「じゃあ、お母さんが欲しい?」
「「うーん…」」
少し考え込みながらシャリーは先に応える。
「わたし、お母さんとお父さんはいないから…ヨハンお父さんはいるけど、お母さんも欲しいかも」
「僕も!」
「ぼくも!でも、お母さんが欲しいというより、ぼくはヨハンお父さんが好きな人と一緒にいて、幸せにて欲しい」
「…そうか」
ゆっくりと三人の頭を撫で、十代は優しい笑顔を咲く。
「オレも、ヨハンが幸せになって欲しい」
((……ぇ?))
「さぁ、早く食おうぜ」
「「…あ、はーい!」」
何故か、子供達は笑顔から少し悲しさを感じた。


肩まで布団を掛けていると確認し、青年は小さなキスを眠る子供達の額に贈り、光を消して
扉を閉める。
窓の外は夜に塗られた世界。
彼もそろそろ休もうと考えながら自分の部屋に戻る。が、手はドアノブに止まった。
「………。」
一歩を下げ、彼は別のドアにたどり着き、ノブを回す。
開いたのはヨハンの部屋だった。
…少し、目を瞬く。
いつも綺麗に片付くはずの彼の部屋は嵐でも現れたようにクローゼットは開け放され、服や中のモノもフロアに置かれていた。
(本当にいきなりだったな…)
ふとヨハンが去る姿を思い出す。
まったく余裕がない彼の表情。きっと電話を届いた後に彼はすぐに荷物を片付けながら子供達のことで迷っていたんだろう。
もし彼が帰ってこなかったら、きっとヨハンは現在の状況に困るに違いない。
(気紛れで帰ってよかったかも)
フロアの上にいる本や荷物を片付け、服をクローゼットに戻す。
指を織物に触る。
(…ヨハンのにおいがする)
惜しみに指先を離れ、クローゼットを閉めて後ろのベッドを振り返る。
しばらく見つめたあと十代は静かにベッドに座り、体を後ろに向き、
ベッドの上に臥せた。

…彼のにおいがする。
あの人はいないのに、彼のモノをみると懐かしくなる。
あの人はいないのに、彼が暮していた場所をみると恋しくなる。
自分はいつも気まぐれで出て戻って、それを繰り返してきた。彼は何も言わなく、ただ自分に「お帰り」って言ってくれた。
だがそれは、いつまで続くだろう
シーツに触るネックレスを見る。
いつか彼は女性と結婚し、温かい家庭を作るだろう。
例えあの女性はヨハンとの間に子供ができなくても、今みたいに養子を取れば彼は理想な家族を作れる。
自分の存在を忘れて、…
『ヨハンお父さんも付けているよねー』
シャリーの言葉を思い出す。
彼女はヨハンが指輪を付けているって言った。ヨハンは結婚っという証を付けている。

『着けたくないならつけなくていいぜ』
彼は本当に優しい。
『着けたくなくても、これを持ってくればいいんだ』
いつも自分を想って守ってくれて、自分を傷付かないために彼はいつも一歩を下げながら自分を見守ってくれた。
『でも十代。覚えてくれ』
そして、自分にあたたかい言葉をくれた。
『いつかきっと、お前に着けさせてやる。あの時はまた誓おうぜ。俺もあの日まで、指輪を着けないからな』
『…これ、プロポーズ?』
『あれ?違うか?』
『いいや。…うん、ありがとう。ヨハン』
「ヨハン」
指輪を取り出し、十代は見上げる。
静かな空間に指輪は夜に綺麗な銀色を輝いている。
(いつかこれを放さなければいけないだろう)
軽く握り込み、十代は布団を掛ける。
まるで主に抱きしめられているような錯覚に彼はゆっくりと目を閉じ、
『おやすみ、十代』
「…おやすみ」
指輪を胸に置きながら眠り始めた。


「…――――っ…」
少し振り返る。
何かを呼ばれたような、誰かが呼んでいるような音が耳に届いた気がする。
懐かしくて、夢の中にずっと望んでいた声のようだ。
彼の、
「…気のせいっか」
――――アイツはここにいる訳がない

思えば、十代と再会した時間は本当に一瞬だけだった。
突然の仕事に追い詰められ、子供ありとは関係せずヨハンはすぐに海外に行かなければいけなくなり、彼は困った。
突然すぎでヨハンは子供達を知り合いに預かれないし、子供を連れていくのもある理由で無理だ。両親もない、知り合いも近くの国にいないせいで彼はどうすればいいのかわからなくなった。
だが、不思議なところに一人の青年は戻った。
彼は喜んだ。だがこの喜びは仕事に追い詰められ、彼は青年に一言しかできなかった。
…思い出すと、本当に酷い話だ。
(伝いたいことはあんな事じゃねぇのにな…)
ふと指の輪を触る。
輝かな銀色をひかる指輪を撫で、眩しそうにヨハンは目を細めた。
「…やっぱ俺の方こそ子供だ」


―――――こんな形しか アイツを手に入れた自信を持たない
…なぁ?十代

…―――ブルルルル…
「?」
聞き覚えがある音にヨハンはポケットから携帯を取り出す。
相手は知っている人だ。
少し頭を傾けながら、彼は受信を押した。
「もしもし?どうしたんだ?」
「『…………』」
だが反応が戻ってこない。
(?これは確かうちの番号のはず…)
もう一度疑問に頭を傾き、ヨハンは続く。
「もしもし?シャリー?アレックス、ピーター?」
「『…………』」
やはり返事はない。暫く無言で考え込むと、何かを試すようにゆっくりと、
口をあけた。
「……、…じゅうだい?」
「『っ…』」
微かな反応は聞こえてくる。思わずヨハンは頬を緩める。
彼だ。
「どうしたんだ?あっちは深夜だろう?…いいや、答えたくないなら別にいいぜ。……十代
の声を聞きたかったけど、まぁいいや」
「『………』」
「久しぶり、というべきだな?」
青髪の青年は微笑う。
「ちゃんとした会話もできなくて、悪かったよ。でも、十代のおかげで本当に助かった。…あのとき、俺は頼める知り合いはいなかったんだ」
「『………』」
「ありがとう、十代」
「『…っ、……』」
「―――…俺は、いいお父さんじゃなかったな。子供達に寂しくなってほしくないのに、俺はいつも仕事に追い詰められ、ちゃんとした時間で子供と一緒に居られなくて、彼らに嫌な思い出をさせちまって、…そして」

「愛する者と話す機会も無くしちゃった」
「『…………。』」
「……電話で、聞くことじゃないってわかっているが…十代」
手のひらを見て、ヨハンは口を開いた。
「俺の言葉はちゃんと、お前の心に届いているか?」
…ずっと、怖かったかもしれない。
確かに彼はこの人を想っていて、一生…いや、こころが無くなる瞬間まで彼はこの人を想う自信がある。
……でも、
この人は?
「本当は、お前に話す大切な事があるんだ。とっても大事な、大切なこと。だから、」
逃げるなよ?
「『っ…!』」
(俺が戻った時点に他のところに行かないでくれ)
まるでそう聞こえた言葉だ。
「じゃあ、そろそろ切るよ。また後で。」

まるで目の前に立っているように。
遠く離れていても向こうの彼は前に居るように見え、わからなくても彼は驚いていると感じ、青年は安らかに笑顔を咲いた。
「おやすみ」


『おやすみ』。
…あぁ。まるで眠る前に聞こえた幻のようだ。
でも、何故だろう?
すごく、…
うれしい。
「…うぅ…っ」
(あぁ、だめだ。子供が聞こえてしまう)
そう思いながら雨の雫はただひとつ、ひとつ降り続いて、とまらなくて。
でもうれしくて。
「バカだ。…本当にバカだぁ……っ」

あぁ。待ってやるよ
ここで。この家で。
この優しい時間に子供と一緒に待っているよ

お前の帰途を








ゆっくりと扉は開いていく。
ベッドの上に眠る青年をニコと笑い、気付かせないように近づく。
荷物をフロアに置かせ、ベッドに座りながら手を伸ばす。
以前と変わらない、柔らかい鳶色の髪だ。
暑かったんだろうか、布団の下の上半身は服を着てない。
思わずクスッと青髪の青年は笑った。
(誘っている…じゃないだろうな?…たぶん)
試しに肩を触る。
自分と違う温度が肌に伝わるため、体はヒクと跳ねる。
でも、顔は穏やかに眠るままだ。
「…じゅうだい」
静かに布団を取り上げ、華奢な肩に優しく撫でる。
まるで何かを探しているように。
(……あぁ。よかった)
(旅の傷とか、なかった)
愛しげに、青年は肌に口付けを捧げた。

少しずつと眠る子は目覚めた。
「…なんだよ…」
「おかえりとか言わないかよ。ひでぇ」
「自分だって言ってねぇくせに、なんでオレが…」
「俺が聞きたいに決まってんじゃん」
「じゃあそのまえにこれを受けてよ」
後ろを見ろと十代が指し、ヨハンは頭を振り返り、
「「ダイレクト・アタ――ック!!」」
…見事に子供達に攻撃された。
「な、…なにやってんだお前ら!」
「やったぁー!ヨハンお父さんにアタック成功!」
「「やったぞー!」」
「偉いぞ、みんな!明日はご馳走だ!」
「「十代おとうさんのおかげだよ!ありがとー!」」
「俺の話を聞けぇー!って十代!お前なぁ!」
「オレを泣かせた罰だ」
服を引っ張り、十代はヨハンを近づけさせ、彼の額と寄せ合う。
「でも、嬉しかったよ。ヨハン」
「じゅうだ、」
「すごく、うれしい」
緩やかにヨハンの肩に寄せ、十代は云う。
「聞かせて、くれないか」
―――オレに話したい、大切で大事なこと
「……。…」
チラッと隣の子供達を見て、ヨハンの視線を気付く彼らは微笑をあげた。
「いいのか?」
「だって私たち、十代お父さんでいいー」
「おかあさんより十代おとうさんがいい」
「うん!十代おとうさんの料理は大好きだ」
こんな理由か!?
子供っていいな…と思わず子供の素直に溜め息を吹き、十代の首に手を伸ばす。
傷付かない様、ネックレスを外しながら指輪を取り出す。
指は震えている。
「…――――」
暖かくて涼しい指は自分のと重なる。
…彼も震えている。

あぁ、そうか
俺達は、同じことを思っているんだ

時を刻んでいるように。緩やかに、静かに指輪を指の奥まで向かせ、手を取り上げる。
そして、
指輪に口付けを捧ぐ。

―――お前は俺だけのモノ、俺はお前だけのモノ

少しだけ、顔は赤くて暑い。
二人は小さな笑顔をあげた。

俺と、結婚してくれ
―――…うん

Fin.

未来編・ヨハ十「やさしい待つ時間」

ペン子に捧げます。
お誕生日おめでとうー!^^

2009.12.01