リクエスト:吸血鬼パロ、ヨハンは吸血鬼で十代は人間

こちらはGW期間に携帯サイトでリクエストしてくださったアリス様への捧げ物です。
この方々のみ持ち帰り可能となります。
リクエスト通りに吸血鬼パロにしています。
吸血鬼なので少し血はありますが、念のため。
それでもよろしければ、下からどうぞ!

























一つひとつ、
紅い雨は降り続けている。
(オレは、消えるのか)
真っ黒な空に地上へ堕ちる大きな雫達。まるで誰かの命のために泣いているように、冷たい涙は紅い液体の上に落し、波紋を広がる。
(オレはこのまま、この世界から消えるんだ…)
たくさんの傘の影は通り過ぎていく。暗い巷間から空を見上げ、ゆっくりと少年は手を伸ばす。
(冷たい)
(寒い)
緩やかに体は水の中に倒れ、寒い感じが体に伝わってくる。手はすでに動く力さえ、残っていない。
赤の液体は段々流れ出していく。
少年は微笑した。
(もう、いいんだ)
(オレはもう、自由になれるんだ…)
「生きたいか」
水に入り込む足音がする。
意識が曖昧で目が大きく開けない。でも濡れている足元を見て、相手は傘を持ってないことがわかった。
(あぁ…やっと自由になれるのに)
「生きたいか?」
声の主は再び問う。
「生きたいなら、俺が助けてやる」
無感情な口調。頭が上げられなく、少年は静かに口をゆっくりと開く。
「オレ、は…」
(自由になりたい)

「生きたく、ない」
(やっと自由に、なれ る……、……)

「――――……お前、本当に変なヤツだ」
雨は青色の糸から流れ、水滴が落ちる代わりに少年は抱き上げられ、闇の奥へ消えた。



虹色のキセキ



I. 
目覚めたら目の前は知らない屋敷の天井だった。
手や腹部も綺麗に手当てされ、思ったより柔らかい布団は暖かく、家のベッドより大きなベッドに寝ていると少年は分かった。
腕は上に伸ばすことができるが、やはり貧血のせいで体に力が入れない。隣には水入れているコップが置いている。
自分のために準備してくれたんだろうか。
(水…飲みたい…)
喉は渇きっているが、力が入れない少年は水を見つめることしかできない。
無理矢理で手を伸ばそうとする時だった。
「飲め」
いの間に、手はコップを握っていた。
自分の腕を触る手の方向に向かい、少年はゆっくりで手の主を見上げる。
海のような、空のような青色の髪と瞳が視線に入った。
「飲みたいだろ?水」
少し迷ったが少年は小さく頷き、焦らずに水を喉に通らせる。
コップは空っぽになった。
「喋れるか?」
「…大丈夫、です」
「そうか」と簡単に応え、少年の手元にいるコップを取り、青髪の少年は部屋の扉に向かう。
「何故、オレを助けた」
扉が開く前、少年は彼に話を掛けた。
が、青髪の少年は返事せず、小さく溜め息を付けベッドに戻し、
「っ…?!」
「少し付き合って貰おう」
少年をベッドから抱き上げた。
「な、何をす…」
「目を閉じろ。少しの我慢だ」
琥珀色の瞳は自分より大きな手に封じられ、上着が肩に掛けられる同時に青髪の少年は歩いている気がした。
胸まで抱き上げられ心臓の音は聞こえないが、何故か少年は不安と思わない。
腕から感じられるのは冷たい温度なのに。
「着いたぜ」
手は少し離れ、光は再び瞳に移るが、思わず少年は目を瞬いた。
「……、ぇ…?」
目の前には鏡があった。
自分の瞳の近くに青髪の少年の指先が見えているのに、目の前の視線…鏡の中に自分しか移っていない。
倒錯的な感覚が襲ってきた。
「見えたか」
軽く、撫でるように指先は顔の肌を触る。鏡の幕を閉め、抱き締めている少年の腕を上げる。
指先は冷たい。
「俺は、」
「っ…―――?!」
静かに少年の手は青髪の少年の胸に置かれた。
…心臓の動きは、ない。
「吸血鬼として生き返った、死んだ『人間』だ」
琥珀の両眸は大きく揺られていた。
「死んだって…、でもお前、喋っているじゃ…」
「『人間』の俺は死んだ」
元の部屋に戻り、青髪の少年は相手をベッドに伏させる。
「お前、聞いたよな?何故お前を助けたって」
無機質的な口調は一つずつに文字を作り出す。
「…お前の望み通りにさせたくなかったから、お前を助けた。ただの、気まぐれだ」
「きまぐれ、だと…」
「だが俺はもうお前を助けん。死にたければ勝手に死んで逃げたければ逃げればいい」
「っ待ってくれ!」
再び扉を開こうとする時に邪魔され、青髪の少年は二度目の溜め息をついた。
「なんだ?」
「…吸血鬼の食事は確か、人間の血を飲むよな?」
「そんで?」
「オレを食ってくれ」
「…――――」
ほんの一瞬。
青い眸は見開いたが、すぐに細めた。
「言ったんだろ?俺はお前の望み通りにさせたくない。死にたいなら自分でやれ」
「………。できれば、お前に頼むなんかしねぇーよ…」
閉めた音が部屋に消え去った後に、少年は苦く笑う。

(でも何故だろう?)
(あいつの眸は、オレに似てる気がした)



II.
貧血のため数日の間に少年は青髪の少年の屋敷に泊っていた。
滅多に彼と会ってないが一日に二、三回簡単な食事が部屋に置いてくれたり、新しい服を準備してくれたり、包帯を替わってくれたり…
「なぁ。お前、なんて名前?」
「……ヨハンだ」
「オレは十代、遊城 十代だ」
はっきり言うと、少年・十代にとってヨハンは変な奴だ。
人間ではないのは確かだが、吸血鬼なのに自分を襲わないし太陽の下に居ても平気そうだし、しかも食事まで作ってくれることに十代は本当にヨハンが分からない。
何故、自分を食わないだろう。
『ただの、気まぐれだ』
それだけの気持ちが、ただの他人を世話するか?
ヨハンの意図に、十代は分からなかった。

「また食わねぇかよ」
「食べたく、ないんだ」
ほぼ動いていない食事を見てヨハンは溜め息をする。
今は吸血鬼だが、かつての彼も人間だったため簡単な軽食はできるが、目の前の少年はやはり生きる気がないせいで食べ物を拒む。
彼は無意識に生きる行動を拒んでいる。
「死にたければコップを割れ、破片で心臓でも刺せ」
「できればお前に頼みなんてするもんか」
「そこまで死にてぇか?自分のためじゃ駄目で他人のためならオッケーって…ふざけんじゃねぇ!」
唐突に服は掴められ、怒りの気配が琥珀のひとみに襲ってくる。
(怒ってる…?)
少しだけ十代は目を見開いた。
「生きたくないのに死ぬのが怖いから自殺ができず、他人を救うか他人のためなら自分が望み通りに死ねるだと?てめぇ本当に何も分かってない!自ら命を捨てる者はどんな風になるか知らないくせ…っ」
我に戻り、青髪の少年はハッと目の前は十代が居る事に意識し、唇を噛みながら手を離す。
相手を見下ろすようにヨハンは語る。
「俺はお前を助けた、ならばお前の命は俺のモノだ。勝手に死ぬなんて俺は許さない」
だが口調に僅かの暖かさが伝わってくる。
ほんの少しの、優しさと悲しさ。
まさか、
「…なぁ、ヨハン」
「なんだ!」
まさか ヨハンも…
「腹減った」
「…………。はぁ?」
少し呆れるヨハン。彼は聞き間違ったんだろうか?
「今、なんて言った?」
「だから腹減ったって。メシを温めてくれー…」
なんて無神経な奴だコイツは!
だが心の怒りと逆に口元が緩められ、ヨハンは笑った。
「わーったよ。温めてやるから、ちゃんと休め」
「おう!サンキュー」
(ヨハンも、そうなのか)
青髪の少年の姿が消え去った事に確認し、十代は頭を俯く。
不思議のような、複雑のような、
両目は伏せた。

(もしかしてヨハンも昔、自ら命を捨てたんだろうか)
(だからオレを通して
昔の自分と重なったんだ)



III.
貧血が段々治しており、完全ではないが十代は少しずつに歩くことができた。
「そういえば、この屋敷はでけぇーな」
一人でガーデンに歩きながら少年は見渡る。
歩けるまで窓からの景色しか見えなかったが、外に出ても空とガーデンの花や草しか見当たらない。まるで屋敷とガーデンしか存在しない世界のようだ。
「?これは…」
ふと目の前の花に手を伸ばす。
形から見ると薔薇に見えるが、不思議に七つの色が花びらに付いている。
数日前には見えなかったのに。
「これは虹薔薇だ」
いつの間にヨハンは後ろに立っていた。
「虹色の薔薇か?へぇーオレ、見るのが初めてだ!」
「お前が居た次元にはないモノだからな」
「……え?」
呆れる瞳にヨハンは十代を見つめながら微笑する。
「ここは、別の世界なんだ」
「別の世界って…オレと住んでいた世界は違うか?」
「あぁ、異世界というべきだろう。確かにお前が知っている通りに普通の吸血鬼は太陽の下に生きることができないが、それはお前達の世界の話だ。俺はこの世界で太陽の下に歩くも生きるもできるし、この薔薇もこの世界しか見られないぜ」
「へぇー…綺麗な薔薇だぜ!まるで虹を見ているみたい」
「……虹薔薇は、」
少し迷うが、ヨハンは決心を固め十代に言葉を掛けた。
「血の代わりの主食だ」
一瞬、心臓が大きく跳ね、十代はヨハンを見た。
「吸血鬼は生きるために人間の血が必要だが、一時に血の代わりに薔薇を食うことにお腹を満たせるんだ。特にこの虹薔薇は普通の薔薇とは違って強い力が持っているため、特別な状況がない限り俺は普通に血を飲まなくても平気に居られる。…あぁ、勘違いするな。血が欲しくても人間を襲わなければいけないなんかじゃねぇよ」
「どういう事?」
「要するに、鮮度の話だ。例えば…そうだな、和食の刺身かな?生きている、もしくは死んだばかりの魚はまだ鮮度が持っていてその時の刺身は一番うまいけど、長い時間が経ったら鮮度が下がり、不味くなるだろ?話は同じだ」
「えっと…」
少し考え込みながら「うーん」と十代はヨハンを見る。
「つまり吸血鬼にとって、人間を襲う時に飲める血は一番うめぇってことか?」
「あぁ。人間を襲いたくない吸血鬼は輸血パックを盗むが、…一時しかできなかったらしい」
「何で?」
「吸血鬼は本能に対する衝動は強いんだ。…例えば十代、もし目の前に一番好きな食べ物が置いているならどうする?」
「え?そりゃあ食いてぇだろ?」
「そうだ。だが人間より本能の衝動に強い吸血鬼はそれを気付く瞬間にな?自分の理性や考えに関係せず全てが忘れられ、目の前の食べ物を食ってしまうぜ」
「!」
「俺も、虹薔薇を見つかるまで同じだった」
例え輸血パックで満たせても人間が怪我したところを見て衝動が現れる。
お腹はすでにいっぱいなのに。人間を襲いたくないのに。
そう思っていても体は本能に操られて、人間を襲ってしまう。
もし彼が虹薔薇を見つかることがなかったら、きっと今頃に他の吸血鬼と同じく殺されたんだろう。
会ったことは、なかったんだけど。
「ヨハンは、さ」
目の前の虹薔薇を触りながら十代はヨハンに問う。
「何故吸血鬼になったんだ?」
だが返事は返って来なく、青髪の少年は視線を逸らした。
「……屋敷に戻ろうぜ」
「…ん」
小さく頷き、ヨハンは十代を抱き上げ屋敷に向かった。

(だから俺は後悔したんだよ)
(昔の弱い自分にな)



IV.
「オレは化け物って言われたんだ」
兆しもなく、食事を終った十代は言った。
ヨハンは彼を見る。
「子供の頃から不思議なモノが見えることができてさ、それでオレは人間じゃないって言われたんだ」
「何が見えるんだ?」
「例えば、ヨハンの肩の上にいる精霊」
一瞬だけ肩が跳ねる。
ヨハンは目を瞬いた。
「…ルビーが見えるか」
「うん。他に外にいる馬、鳥、トラ、象、ネコや亀とかも見えたぜ」
「―――…精霊が、見えるんだ」
「うん」と答える十代は続く。
「オレ以外の皆は精霊が見えないから、学校や両親もオレを化け物って、オレをいじめた。中学校に入り、いじめは段々酷くなってオレはもう我慢できなくて…それでも、自殺する勇気がなかった。だったらせめて、人を助けるために死ねようって……」
「そんで、血海の中に倒れたって訳か」
「…相手はオレと同じクラスの人だった」
目の前の片付けを一時に止め、ヨハンは少し考えながら話す。
「女の子だったか?」
「?男だぜ?何で?」
「いや、なんとなく」
「?まぁ、あいつが事故に巻き込まれるところにオレが代わりにしたんだ。今度こそ、自由になれると思ったのに、ヨハンに助けられた」
「死ぬは、自由を手に入れない」
冷たい温度が顔を触ってくる。ヨハンは十代に手を伸ばし、指先はゆっくりと彼の髪を触った。
(こいつも同じなんだ。俺と同じ苦しみに苛められた人間)
「…今なら話せるけど、精霊が見える人間は神に選ばれた者とも言われている。だがもし、神に選ばれる者は自ら命を終らせたら神は罰を与えるぜ。与えられた力を捨て、人々の幸せのために使わせず自分を殺したら、その人は永遠の苦しみを味わってしまう。―――人々を苦しめるモノ・吸血鬼として」
「……永遠の苦しみって、」
「死ぬことができない」
「っでも、ヨハンが人間の血や虹薔薇を食わないなら死ねるだろ?」
「衝動が許されない。人々を傷付けようと体は自分を生かすために動くモノから、普通の方法には死ねない。昔の吸血鬼が殺される理由は閉じ込まれ餓死、神に捧げる呪文が刻まれる銀器に刺せられ、あるいは濁りのない綺麗な水に触ったら死ねると思う。…普通の吸血鬼なら」
「?」
「だが、俺は生き残った」
「え…」
「どうやら神様に酷く嫌われてなぁ?あんな事にされたのに俺は死ぬこと出来なかったんだ。そして俺は神に告げられた、唯一『永遠』から離せる方法」
「あるのか!なぁ、教えてく…」
だがヨハンは悲しそうに十代を見つめ、薄く笑う。
指先は、離れた。
「『愛する者の血を飲め』」
「―――…ぇ、…え…?」
「もし相手は自分を愛してくれる者であり、自分が愛する者なら相手の血を飲めば『永遠』が無くなる。…そう、告げられた」
いる訳ないだろ?と嘲るみたいにヨハンは口元を上げる。

彼だって愛していた人が居る。
だが彼の正体を知った者は彼から離れ、彼を殺そうとした。愛する者の血を飲む時、相手も自分が吸血鬼であることを知らなければいけない。そうでなければ意味がない。
呪いが解けない。

「十代」
少年の頭を撫で、ヨハンは笑う。
「俺みたいに命を捨てるなよ」
酷く悲しい笑顔だ。
心は、辛いと言った
「後一週間くらい休んでおけば体はきっと元の状態に直る。その時に俺がお前を元の次元に返してやるから、今はゆっくり休め」
「っ…ヨハン!お前が望めばオレはずっとここに、」
「俺に期待させる事を言うな」
胸は、苦しいと言った
僅かの怒りが十代に伝わってくる。
ヨハンは怒っているに感じた。
「俺の寂しさをお前が目を逸らす理由にしないでくれ」
閉められた扉を見つめ、十代は黙りながら髪と顔に伸ばす。
先程に触れた所は酷く冷たい。
(なんで、目が熱いだろう)
だが、もう少し触られたいと少年は思った。

(オレ、どうしちまったんだろう)



V.
ヨハンの屋敷に泊って既に数週間が経ち、自由に屋敷の中に歩くことが出来る十代は色んな事が分かった気がする。
食事以外の時間にヨハンは自分の部屋に篭って出てこない。日に一回だけヨハンは虹薔薇を摘んで生のまま食うけど、たまに二、三輪を食う時もある。ヨハンが作ってくれたメシの材料はガーデンに育ったモノらしく(メシに肉は入っていないけど美味かった)、精霊達は何も食べなくても平気そうだ。
ヨハンは本当に、虹薔薇以外のモノは食べないだろうか。
「ヨハン、いるか?」
部屋の扉を開き、十代は何かを書いているヨハンが見えた。
「十代か。どうした?」
「ちょっとキッチンまで付き合ってくれないか?」
「?いいぜ?」
キッチンまでたどり着き、台所に調理設備を準備する十代を見てヨハンは頭を傾けながら聞く。
「何か作りたいか?」
「ん。なぁヨハン、ここってココアとミルクあるか?」
「砂糖は自分で入れるヤツならあるぜ?」
「ん」
ココアパウダーとミルクを十代に渡し、あまり興味なさそうにヨハンは一旦部屋に戻る。しばらく、先程に書いた紙の続きを書くと扉がノックされた。
「ヨハン、部屋に戻るのがはえぇー」
十代だ。
「どうした?作り方が知らな…い、……か?」
扉を開いたが、思わず目の前の景色に目を瞬くヨハン。
「…ココア?」
「おう!」
さっきココアについて聞かれたばかりからヨハンは驚いていないが、問題はカップの数量だ。
「……なんで二杯?」
「はい」
まだ反応できない間に十代はニコリと笑い、一つのコップをヨハンに向けた。
「ヨハンの分だぜ」
「…俺の?」
十代を部屋のソファに座らせ、ココアを取ったヨハンは彼を見る。
「今のヨハンは吸血鬼だけどさぁ、昔は人間だったんだろう?じゃあココアも飲めるじゃないかって。ヨハンは虹薔薇ばかり食ってるし、血はヨハンが嫌がるけどココアはたまに飲んでもいいと思うぜ?」
「うめぇー」って嬉しそうに飲む十代を見て、ヨハンは自分のココアに視線を向かう。
確かに今は吸血鬼だが、昔の彼は人間だ。普通、血以外のモノは食事になれないが、確かに食べても平気だけど、一つ問題がある。
吸血鬼になって、ヨハンは味覚を失ったんだ。
「…………。」
試しに一口を飲んでみる。やはり無味しか感じられない。
だが、少年の視線に彼は口を黙った。
「どう?やはりまずいかな?」
「…いいや、美味いよ」
ヨハンは十代に笑顔を与えた。
「ありがとな、十代」
「えへへー…。………なぁヨハン」
「ん?」
もう一口を飲む時だった。
「お前が好きだ」
「プッ!ゲホッ、ゴホ……」
思わず吹き出したヨハンは口元を擦りながら十代を見る。
「ゴホォ…って、あの、十代…さん?」
「うん」
「今、何を言っているか分かる?」
「うん。分かるぜ?『ヨハンが好き』って」
「言わんでいい!マジでいいから!」
「えー」
カップをテーブルに置き、改めてヨハンは十代を見た。
「あのなぁ、十代。俺も言ったよな?俺に期待させることを言うじゃないって。俺を助けたいから俺を愛するなんて、そんな事をしないでほしいんだ」
「っ違うよ!オレは本当にヨハンがす…」
「それは『愛してる』じゃないだろ?!」
一瞬、十代は口を閉じた。
「はっきり言ってやる!俺はもう人間じゃねぇ!俺は既に死んだ人間で血を飲む吸血鬼・バケモノなんだ!どんなに美味しい食事でも甘いワインや飲み物でも俺は味がない感覚しか感じないし、例え虹薔薇を食っても俺は美味しく感じない…俺にとって、血だけが甘く感じるんだ!」

(もうやめてくれ)
(これ以上俺に期待させるな)

「…ヨハンなら、いい」
大きく開く青色の瞳は呆れて紅茶髪の少年を見つめる。
真っ直ぐに自分を映る琥珀色の両眸は酷く綺麗だ。
「ヨハンがオレを必要するなら、オレは吸血鬼になってもいい」
まるで世界の美しさを入り込んだ宝石のような輝き…
少年は口唇を噛んだ。
「だったら、」
「っ!」
いつの間に片手で相手の両腕を掴んでベッドの上に押し倒せ、自分を見下ろすヨハンに十代は不安げに彼の名前を呼ぶ。
影のせいで彼の顔が見えない。
「ヨハンっ?」
「だったらお前に試させやろう。――――喜べ、十代」
「っ…ヨハン?!」
「吸血鬼として初めての晩餐だ!」
自分の服の下の腕を出し、ヨハンは口を開いて肌を噛み、紅き血が次々と湧き出す。
そして少年は自分の血を吸い取り十代の顎を固定し、彼の口唇を
「…?!!!」
覆い始めた。
キスだとわからなかった。
女の子とさえ付き合ったことがない十代はキスなど知らない。彼は話くらいしか聞いたことがなかった。好きな人とのキスは気持ちいいって、優しい感じがするって。
―――じゃあ今のは何だろう
「ンっ…!とめ、よ っ…」
まるですべてを壊すように口は喰いこまれ、閉じようとしたくても舌や顎を掴む指に止められ、息さえ奪われる口付けだ。
「ン…、!ンン――ッ!」
激しい流れに何かが喉に入ってくる。
…鉄の匂い。
「んっ、ぐはっ!止めろよヨハン!血が、」
「黙れ」
さっさと飲め。そう言いたい様、血に塗れた唇は再び少年を覆った。
多くの液体は口から流れ込み、入れきれない分は口元から少しずつと降り、紅色がシーツを染み付いていく。
鉄の味。
(気持ち悪い)
鉄のにおい。
(きもちわるい…!)
鉄のかおり…
(…せ、はなせぇ…――!)


少年は殴った。
打たれた頬は熱く感じれ、動きを止ったヨハンに十代の心は後悔の気持ちが湧き出す同時に、
喉から吐き気が現れる。
「―――ぅげえぇええっ…!!」
少年は吐いた。
次々に先ほど喉に流れ込んだ血は吐き出してはきだして、終わらないくらいにシーツは大きな紅色を作り出されている。
喉に鉄のにおいと味が消えない。
心理的に一滴の涙が落ちた。
(血のにおい。気持ちわる……)
「俺はずっとこんなモノを飲み続けた」
不安に十代は上のヨハンを見上げる。
さっきと同じ、彼の顔が見えない。
「吸血鬼になってもいいって?血さえ飲めないお前は成れると思うか?お前は吸血鬼になる資格がねぇ」
少年の上から下がり、非情に冷たい視線が琥珀色の瞳に投げる。
「さっさとここから去れ」
「っ…!」
十代は去った。
逃げるように扉が開けっ放され、暫く廊下に走る足音は続いた後にある扉の閉め音と共に消える。
沈黙しか残されていなかった。
「…ハハ、アハハァ…」
無力なままに腰を下ろし、ヨハンはフロアに座りながら小さな笑声を出して…
フロアは拳に打たれた。

あぁ。俺は何をやっているだろ?
せっかく自分を好きになってくれる人を見つけたのに
その人に出会ったのに
俺は狂った。
アイツの瞳を見ると俺はイラついた。
十代を見て俺が醜く感じる。
かつての俺と同じ死にたい人間なのに他人のために吸血鬼になってもいいなんて
吸血鬼になっちまったら永遠の苦しみしか残されないのに

『ヨハン』
「……アメジストか」
『無理しすぎるよ』
「…うん。ゴメン」
吸血鬼は自身の血を他人に与えることが危険な事である。
確かに体は吸血鬼だが、ある部分が人外になっているせいで吸血鬼の体内の血は魂に吸収され、血が少なくなる。
そのため、吸血鬼は体内の血を補うためには人間の血が要る。いわゆる生命エネルギーだろう。
普通に血を飲んでいる吸血鬼はともかく、虹薔薇しか食べていない今のヨハンにとって虹薔薇から貰うエネルギーは精一杯だ。今のヨハンが生命エネルギーである・自分の血を他人に与えたら、本能のまま人を襲う状態に戻る可能性は高い。
『大丈夫なの?』
「大丈夫だ。今日はいっぱい虹薔薇を食べればきっとだいじょ…」
『十代のことを言っているわ』
「……大丈夫さ」
ヨハンは苦く笑う。
「十代はもう、死ぬなんて思うはずがない」

俺の代わりに幸せになれ
俺の代わりに日差しの下に生きてくれ
俺の代わりに、…

小さな泣き声に耳を傾けながら、ヨハンは目を閉じた。
「…俺、お前に会ってよかった」

好きだよ 十代
さよならだ



VI.
わからない。
彼にはわからない。
自分を救ってくれて、自分を世話にしてくれて、自分に自由させてくれるあの人がわからない。
彼はただあの人の役になりたいだけなのに
彼はあの人が好きなのに
「…クゥ…ウウゥ…」
思わず涙は再び落ちてくる。
血のにおいがまだ中に残り、十代は喉を触る。
指先が静かに唇を撫でた。
『それは『愛してる』じゃないだろ?!』
彼の言うとおりだ。
確かに十代はヨハンが好きだ。だがそれはヨハンが欲しい感情じゃない。彼が望んでいる人は、彼を『愛してくれる』人間だ。
そして、ヨハンが『愛する』者でなければいけない。
例え自分がヨハンを愛していても彼は、ヨハンは、
十代を愛していない。
「もう、ここに居る理由はないんだ…」
(元の世界に戻るか)
(あの、誰も受け入れてくれない世界へ)

だが。
「これは、ヨハンの望みだな」
『さっさとここから去れ』
ヨハンは十代に言った。ここから去れ…つまり、彼ら人間の世界に戻れと。
…昔のヨハンもきっと十代と同じ世界に暮していたんだろう、十代は思う。
自ら命を捨てたヨハンは神に呪われ、永遠に元の世界の太陽の下に居られなくて、味覚や自由さえ奪われた彼。
彼はずっとどんな気持ちでこの世界にいるか、そう考えるだけで心が痛くなる。
もしヨハンに出会わなかったら、きっと彼も同じ運命になるだろう。
永遠は辛い。死ねないことは悲しい。
だが十代はヨハンと出会った。
ヨハンは吸血鬼というバケモノに思われながら十代をエサではなく、人間として受け入れてくれた。
十代は知った。ヨハンの苦しさ、悲しみ、痛み、そして
裏切られた、愛する人への優しさ。

ヨハンの望みは十代が自分の世界に生きることなら、十代は拒むことができない。例え彼はヨハンに必要とされなくても十代はヨハンの願いを叶えたい。
…自分の世界に戻るしかない。
「…ヨハァ…っ」
唇を噛み、大きな赤い雫が口の中に入る。
(同情なんかじゃない。オレは本当にお前を寂びさせたくない)

オレは、お前が好きなんだ
ヨハン


鍵を使って屋敷のある扉を開き、ヨハンは十代に振り返る。
「ここを通れば、お前の世界にたどり着く」
「そう、か」
見た目は彼らの部屋の扉とかわらないが、不思議に扉の向こうにあるのは部屋の景色ではなく、青色の鏡だった。
「このまま入れば戻れるのか?」
「あぁ」
「そうか。…邪魔したな、ヨハン」
「別に。ただの気まぐれだ」
「アハハ、流石ヨハンだぜ。……最後にお願いがあるけど、いい?」
十代は荷物などない。
始めに連れられた時の私服しかなく、ヨハンの屋敷に邪魔している時の服は全てヨハンのモノだった。
「なんだ?」
「一輪の虹薔薇をくれないか?」
せめてのモノが欲しい。
十代がヨハンと出会った証明できる、小さな証。
「…あぁ。良いぜ」
小さく笑い、ヨハンは手を上げるとまるで呼ばれたように一輪の虹薔薇は廊下の窓に入り、ヨハンの手に降る。
「楽しい時間を、ありがとな」
ゆっくりとヨハンの手から虹薔薇を取り、十代に微笑む。
「…うん」
(ヨハン)
食べるように十代は虹薔薇にキスし、そして花と共に

十代はヨハンにキスを贈った。
「……――――」
花と血の雫が唇の向こうに届く、やわらかいキスだった。

オレの血はずっと
お前の魂の中に生き続くよ

「さよなら」
耳元に伝う声と共に、紅茶髪の少年は最後の花びらを大事に持ち、
鏡の奥に消え去る。

青髪の少年は緩やかに、涙を流れた。




さよなら
いとしい人

眸は静かに開く。
「……?」
ボーっとしながら周りを見渡り、いつの間に彼は寝ていたらしい。
(なんだろう)
(凄く、悲しい夢を見てきた気がする)
凄く悲しい夢で、目覚めた瞬間に忘れてしまって思い出せないけど、一つだけ覚えている。
こころに残っている。
(誰と一緒に暮して、幸せな気持ちだった)
空のような、海のような青色の人。

―――生きろ 十代
さよなら

思わず涙は流れ、手にいる花びらの形・虹色の輝石に落ちた。



VII.
幸せになってくれ
生き続けてくれ
お前がみんなに愛される日は必ず来ることを
祈ってやるよ

「もうすぐ着くぜ」
海の香りと共に風は優しく少年を通り、まるで抱きしめてくれたように青髪の姿は微笑む。
「彼は、あそこにいる」


『クリクリー』
「おう!ハネクリボー、おはよう」
手にいる輝石から顔を上げ、十代は精霊・ハネクリボーに話を掛けるとハネクリボーは頭を傾けながら彼の手を見る。
虹色を持つ、花びらの形の輝石を見ていた。
「ん?あぁ、ハネクリボーはこれを見るのは初めてだっけ?」
『クリー!』
「これはな、お前と出会うきっかけだぜ」
三年前、デュエルアカデミア学園に入学するため十代は試験会場に行く途中、お守りの輝石は落とし、デュエルキングである武藤 遊戯に拾ってくれたおかげで十代はハネクリボーのカードを貰った。
もしあの時、輝石が落としていなかったら彼はきっと武藤 遊戯に出会わないだろう。
「でも、遊戯さんが言っていたことはどういう意味だろう…」

『この輝石は君のかい?』
『あ、はい!って、あなたはデュエルキング・遊戯さん…!』
『そうか。あの人が手紙に話していた者は君のことだね』
『え?』
『ラッキーカードだ、十代君。君へのお礼、彼からのプレゼントだ』

ふとあの頃の対話を思い出す。
遊戯が言ってたことはどういう事だろう?
「なぁハネクリボー、あれはどういう意味なんだ?」
ハネクリボーはただクスっと笑い、外へ飛ぶ。
十代は精霊を追いかけた。
「あ、アニキー!どこへ行くっスか!」
「アニキ!どこへ行くドン!?」
「わりぃ、翔、剣山!あとで学園に行くから先に行ってくれ!」
「ちょっとアニキ!今日はサボっちゃ駄目っスから!今日は分校の留学生達が来るスよ!」
「わかった!また後で!」
十代の去り姿を見つめ、弟分である翔と剣山は小さな溜め息を付く。
「アニキったらいつも元気っスね」
「それこそ十代のアニキらしいドン」
「まぁ、そうスね」
二人は優しく頬を緩めた。


「ハネクリボー、どこへ行くんだ?」
ハネクリボーを追い付け、たどり着いた場所は学園の屋上だった。
『クリー』
「ん?ここの太陽は気持ちいいって?まぁそりゃあそうだな」
顔を上げて空を見る。
太陽は照らしてくれるため、涼しい風の中に暖かい光は体を抱きしめ、優しさが心の奥まで届いていく。
少年は気持ちいいと感じながら目を閉じる時だった。
風は少し、強くなった。
「っ!やべぇ!」
手に居る輝石は指から離れ、地面に数回跳ねた後に止まった。
一人の指先はゆっくりと輝石を拾い上げる。
「それって、お前の相棒・ハネクリボーか?」

空のような、海のような、
青色の髪と瞳が視線に入った。

「気に入ってくれて、ありがとう」
不思議に輝石は緩やかに柔らかくなり、まるで主に応えている様、輝石は一枚の花びらに戻る。
「―――……」
静かに、緩やかに、
琥珀色の両眸は見開いた。

虹色の薔薇。
それをくれた青色の姿の者。
『楽しい時間を、ありがとな』

優しい人。

「よ、…はん……?」
「―――やっとまた、お前に会えた。」
太陽の下に青色の少年・ヨハンは口元を上げ、
暖かく優しい笑顔は十代に捧げた。

「十代」


虹色のキセキと共に。
Fin


吸血鬼パロ・ヨハ十『虹色のキセキ』

アリス様へ
素敵なリクエストをくれて本当にありがとうございました!
本当に大変お待たせしました><
もしよろしければお持ち帰ってください!
サイトがありましたら教えていただければうれしいですが^^

本当にお待たせしました!
ありがとうございました…!



リクエスト『ヨハ十吸血鬼パロ』
ヨハンが吸血鬼で十代は人間


最終章までの十代は15才です。DAに入る前の話として考えた方がいいかもしれません。
まだ15才なので、十代はまだ『好き』と『愛してる』の違いがわからないかもしれない。
いや、もしかしたら十代はヨハンが欲しい感情はわからないだけかもしれない。
ヨハンは『十代はまだわからない』と考えているため、十代の本当の気持ちを気付かなかったと思う。
最後に、十代が元の世界に戻る前、花びらと共に自分の血もヨハンに送ったため、ヨハンの呪いは解けたんです。

だがヨハンの世界の時間と十代の世界の時間が違うため、ヨハンの世界に居た時間は一体夢か それとも現実か
一瞬の現実にもいえると思います。
異世界とは、それは過去か、未来か、それともまったく別のモノか
色んな考えも通じると思います。
私には(オイ)


長い後記で失礼しました!
再び!

アリス様へ、素晴らしいリクエストをありがとうございました!

2009.06.21