少し注意したいところがあります。
この短編はある意味、オフ本「表と裏 〜二つの仮面〜」の続きと思われています。読んでいない方が読んでも大丈夫と思いますが…念のため。

それでもよろしければ、下からどうぞ!

設定:
ヘルヨハン=ジョハン。ユベルではありません。
ジョハンとヨハン、覇王と十代は双子。20代です。
ジムとオブライエンもいます。ワニのカレンは人間(女性)です。(笑)



















ベルの音で青年はゆっくりと目を開く。
周りを見渡し、まだ目覚めていない琥珀の眸はボーっと何度も瞬き、思わず触ろうとする同時に重力が感じられ、青年は振り返る。
そして少しだけ、目を大きく開ける。
空のような青い髪、細くて長いまゆげ、広くて安心できる肩と…
「おはよう」
黄昏色のひと み?
あれ?
まだ反応できない青年に、青い髪の主人はニコッと笑い手を伸ばす。
あたたかい頬を撫でながらゆっくりと下へ向かい、指先は軽く顎を上げさせ、
口唇を近付ける。
「目覚めたかい?」
(あれ?)
(よは…ん?)
「子猫ちゃん」

『ピンポーン』

「うわあぁぁぁぁああぁなんでヨハ兄がってヨハァ―――!!!」
「……アイツか」
「ワォ〜朝から元気だな、マイフレンズ」
見事に遊城家の朝は始まる。



かわった日々とシアワセ




「…だから何で僕は殴られたんだね?」
「ジョハン…お前な」
シクシクと胸の中で泣く十代の背中を撫でるヨハン。
引っ越してから、初めて兄達の家に遊びに行った十代とヨハンだが、丁度十代の兄である覇王は研究のレポートを明日に提出しなければいけないため、覇王はずっと自室に閉じこもっていた。
仕方なくジョハンは覇王の代わりに二人と付き合った。最初は少し嫌だと感じたけど(覇王との生活が邪魔されたことが)、三人は楽しく一日を過ごした。
うん、それまでは普通だった。
問題は朝のことである。
当たり前ように十代とヨハンは同じ部屋で休むけれど、ジョハンは二人の眠る姿や幸せそうな顔を見て、少しイライラしたか
二人をいじめたくなった。
何回呼んでも起きてくれない二人にジョハンはヨハンを十代から離させ、ヨハンのふりをして十代を起こしてみた。
それが事情の始まりである。

「僕は悪い事してないのに…」
「充分悪いんだよっジョハン!」
「ジムとオブライエンは水でいいかい?」
「サンキュー」
「感謝する」
俺のこと無視するな!っとヨハンの言葉をスルーし、ジョハンは客専用のガラスコップを出し、水を淹れて二人に渡す。
二人が飲み始めるとジョハンは再びキッチンに戻った。
「そういえば、どうしてジムとオブライエンが兄さん達の家に来たんだ?」
「あぁ。オブライエンは覇王のレポートを取りに来たんだ。俺はカレンにジョハン達の引っ越しの差し入れを、な」
手に居る小さな箱をテーブルに置くジム。
「ジョハンーユーの好きなケーキだぜ」
彼はキッチンの方向に話しかける。しばらくして向こうからも返事が返ってきた。
「ああ。ありがとー。ヨハン、ケーキを分けてくれ」
「?何してんだ、ジョハン?」
「今、手が放せないんだ」
「?」
仕方なくヨハンは立ち上がり、食器やナイフを取ってケーキを分けた。
「うめぇー」
ひとくちを口に入れ、甘さを感じて十代は幸せそうに笑う。
「やっぱカレンのケーキはうめぇー」
「本当だ!相変わらず上手いな、カレンは」
「…美味い」
「サンキュ!カレンも聞いたらきっとハッピーだぜ」
思わず、ジムは嬉しそうに笑顔を咲かせた。
「十代とヨハンのワークはどうだった?」
「ああ。ちょっと忙しくなったけど、楽しいぜ!前に仕事でエドと一緒にタッグデュエルしたし、もうすぐ万丈目の奴も帰ってくるし、楽しみだぜー」
「…十代」
指先を顎に伸ばす。
強く、でも優しく青年の顔を自分に向かせ、ヨハンは唇を近付け口元を上げた。
「恋人の前で言っていいのか?他の男の話…」
「ってヨハン変なスイッチに入るなぁああああ」
「断る!」
「ジムもオブライエンもい…」
チラッと見ると二人は既に視線を他のところに移した。
「諦めな、じゅーだい」
誰かヨハンを止めろよぉー!

そう思う瞬間に青髪の青年は誰かに後ろから足を踏まれた。
「人の家でするな。やりたいなら自分とこでやれよ、外でも」
ジョハンだった。
いつの間にジョハンはキッチンから出て、手に居る大きな皿の上にカップと鉢を置いている。
湯気が見える。温かい水と食事なんだろうかと十代は思った。
「オブライエン。レポートの〆切時間は?」
「出来れば午前中に渡してほしい。…あと二時間だ」
「ふーん」
「ジョハン!お前、愛しい弟になんてこ…ぐはっ」
「うるさいからちょっと黙ってて」
再び撃たれたヨハンはソファに落ち込み、十代は苦笑しながらヨハンの背中を撫で、ジョハンを見る。
「アレ」
ジョハンが持っている皿を示す。
「もしかして、兄さんに?」
「流石子猫ちゃんだね。そうだよ。アイツ、昨日から何も食べてないから食べやすい物を作ってきた」
瞬間二人はその場に倒れた。
「ってジョハンが料理を!?」
「明日は雪か!」
「……君達、少しはジムとオブライエンを見習ってみたらどうだね?」
大人げないよ?
そう言いたかったジョハン。
だが彼は何かに気付き、言葉を飲み込む。
一つの扉が開いた。

闇は光に入り込み、無力な足音がひとりの姿と共に廊下に現れ、広がる紅き糸がいつもより暗く見えた。
「…オブライエン」
一歩、一足
少しずつダイニングまで歩き、十代と同じ顔である双子の兄・覇王は手にあるメモリーをオブライエンに渡す。
「後は頼む」
「……イエス」
メモリーを渡した刹那。ほっとしたせいか、足がチカラを失い、
「!兄さ…」
ジョハンの腕に倒れこんだ。
皿をテーブルに置く。
「兄さん!大丈夫か」
「…じゅうだい、か…来ていたのか」
「って兄さん…知らなかったかよ……」
「あの、俺もいますけど?覇王」
「うるさい。フリル」
「だからっ!俺はフリルじゃねぇ!」
「もう休んだ方がグッドだ、覇王」
手を覇王の額に触れる。熱はないようだとジムは語る。
「…のど、かわいた…」
「だと思ったよ。…子猫ちゃん、水を」
テーブルに置いた皿の上のカップを取れと十代に頼み、ジョハンは温かい水を一気に飲み、口移しで
覇王に唇を重ねる。
「「――っ!」」
周りの人々はまだ反応できない間に、水が相手の喉の奥に届くと気付き、青年はゆっくりと離れる。
「…ぬるい」
「こっちの方が胃にいいだろ?」
クスッと笑い、彼は黄金の瞳に口付け、優しく伝える。
「おやすみ」
「…おやすみ…」
子守唄のように紅き青年は安らかに目を閉じ、眠り始めた。
「オブライエン」
いつも通りの呼び声で我に返った四人。
「『十代』が一生懸命書いたレポートだ。無駄にするなよ」
「…当たり前だ」
自信を持つ笑顔。ジョハンは口元をあげ、覇王を抱き上げる。
まるで暖かさを感じとるよう、懐中にいる青年は腕をジョハンの首に回した。
「じゃあヨハンー後は頼むね。僕、覇王と一緒に寝るよ」
「えぇっ!ちょっ、待てジョハ……」
言葉がまだ終らないうちにジョハンは既に姿をリビングから消し、思わずジムは小さく笑った。
「変ったな、ジョハンの奴」
「…ああ。覇王もだ」
「なぁヨハン、十代」
目を細め、ジムは優しく伝う。
「君達は?」

二人は微かに、瞳をひらいた。



正直、兄のキスシーンを見ていた自分は少しだけ、複雑な気持ちだった。
兄に恋人ができた前に、十代は既に恋人がいた。
だがいつの間にか兄は自分より前に進み、弟である自分が知る前に、兄は既に恋人との未来を決めて、同居し始めた。
初めの頃は自分が先なのに、今は兄が前に居る。
「…なぁ、十代」
「!あ、どうした?ヨハン」
我に返った十代は肩を並べるヨハンを見る。
ジムやオブライエンとの話が終わり、ジョハンと覇王を邪魔しないため四人は別れ、各々の道に向かって帰る。
突然、ヨハンは足を止めた。
「羨ましかった?」
ドキッと十代の肩が跳ねる。
「な、なんのこ…」
「お見通しだぜ?」
顔に書いてるよ?とヨハンは十代の頬を指す。
「…人って、変わるんだな」
「……そ、だな」
かわってしまった兄達。
昔から見ていたけど、普通に人の前ではキスはもちろん、手を繋ぎさえ…彼達はしなかった。言葉も少ないし、相手を気にせずに勝手な行動をしていた。
こんな彼達が今、かわった。
人のために料理など作らない昔の彼と、レポートで夜明しした覇王のために料理を作る今の彼。
人になつくなどする筈がない昔の彼と、ジョハンに懐ける今の彼。
双子、だからだろうか。
自分に似てるけど自分ではない彼らのキス。
少しだけ、…
「…十代」
「ん?」
「ずっと言いたかったんだけど、なかなかチャンスがないし、…俺もさっきまで 気付かなかったかもしれない」

ふと思い出す。
さっき、ジム達が言ってくれた言葉を
『君達はこれから、どうする?』
『どうするって…?』
『実は今日、お前達が居ると知っていたから、ジョハン達のホームまで来たんだ』
『な、なんだよ 真面目な顔をして…』
『ジョハンと覇王は一緒に暮している。それがどんな意味なのか…知ってるかい?』
『??』
『…彼達にとって、それは最後まで相手と一緒に居るって意味さ。…恋人同士ではなく、共に未来へ向かう、一生のパートナーとして』
『近いうちに、研究所も覇王を正式な研究人員として迎えることになる。…だから俺達も、お前達に聞かせて欲しい』
『ヨハン、十代』

―――――――そろそろ、自分達の未来を決める時だぜ


「俺はなぁ?ずっと聞くのが怖いから逃げてきたかもしれない…当たり前過ぎで、俺は気付かないふりをしていたんだ」
「ヨハン?」
「でも今日のジョハンと覇王を見て、ジムやオブライエンの話を聞いて…俺、やっと決めた。もう迷わない」
「だからっ何を言ってんだヨハァ、」
「十代」
青髪の青年は鳶髪の青年に手を、伸ばす。

「俺と、結婚してくれ」

幸せになりたい。
……自分達より、幸せそうに見えた兄達みたいに、…いや
「俺の、一生の伴侶に」
アイツ達より、幸せになろう
「……――――ぇっ、…」
少しずつ、微かに赤くなっていく顔を、美しい碧緑の眸に映しながら十代は口を開ける。
言葉が出てこない。
何度も声を出そうと口を開いて、閉じて…
『パッ!』と手で自分の頬を軽く打ち、十代は少し頭を下げた。
チラッと前に目を移すと、真剣な視線が自分に届いた。
優しくて、真っ直ぐな宝石のひとみに、
青年は恥ずかげに手を伸す
、瞬間

ふたつの影がひとつになった。


幸せになろう。
誰よりも だれよりも
たくさん沢山手に入れよう。

『幸福』、を。




小さなオマケ(笑)

「……。」
「おはよう、『十代』」
「…おはよう。……ジョハン、顔色が悪い」
「気付いたんだ」
「寝てないか。…俺がレポートを書いてる時も」
「君の苦しみを分けたいんだ。『俺』のために頑張ってくれたから」
「……ジョハン」
手を相手の頬に触る。
「ありがとう」
「ふふ。何か欲しいモノでもあるかい?」
「…一緒に寝たい」
「承知。『俺』の王様…」

明日はせっかく取って貰った休日だし、どっかに行こうか
…家に過ごしよう。静かに一緒にいたい
…… 誘ってるかい?


な感じで(笑)



現代パロ・ヘルヨ覇とヨハ十『かわった日々とシアワセ』    修正:Orangeさん

Yajiさんの誕生日に捧げた短編です。オフ本「表と裏 〜二つの仮面〜」の続きと思います。リクエストの内容を聞いて、すぐに思い付いたのは現代パロの続きなので…苦笑
Yajiさん、お誕生日おめでとうー!^^ノシ


2009.02.01