リクエスト:1期に戻った4期十代

こちらはGW期間に携帯サイトでリクエストしてくださったルナ様への捧げ物です。
この方々のみ持ち帰り可能となります。
リクエストとはいえたくさんの前世ネタ、5D、劇場版に関する妄想設定も入っています。
それでもよろしければ、下からどうぞ!

























少し目の前のモノを見ながら考え込む。
えっとー…オレ、確か今はどこにいるんだっけ…うん、なんとなく魚釣りをしたい気分だから海の近くまで来て…ってあれ?
じゃあなんで目の前にはこんなモノがいんだろ?
ふと釣れてきたモノに近づく。
濡れた赤き姿と鳶色の髪。デザインは少し違うが、彼と着けている制服と似ている。あとその髪の毛。形や色も自分のと似ていて、違うのは相手の髪はもっと赤に近い紅茶色の髪だ。
そして最も、一番の疑問は。
「…オレ、双子兄弟とかいたっけ?」
似ているからだ。
目の前の者は自分と、――――遊城 十代の顔と似ているんだ。
『クリクリー』
「ん?どうした、ハネクリボー」
何故か後ろから現われるハネクリボー。精霊は頭を傾きながら倒れた者に近き、十代ももう少し近づけようとすると、
服の上にいるペンダントは小さくひかりを輝き始めた。
「これは…」
今年、闇のデュエルで貰ったペンダント。
確かこのペンダントは闇の力に反応すると十代は知っている。ならばもし、このペンダントは目の前の者に反応していれば…
「こいつは、闇のデュエルに関係しているのか?」
『クリィークリクリー』
心配そうに疑問を抱く十代にハネクリボーは否定した。
「そっか。相棒が違うって感じたら信じるぜ。んじゃあ、こいつをレッド寮に連れて行こうか!」
『クリィィー』
相手の腕を自分の肩に預かり、十代は者を背負ってレッド寮に向かい始める。
琥珀色の瞳は一瞬だけぼんやりと開き、やがて再び意識の奥に堕ちる。
小さなペンダントは服の中に揺れていた。



招待状『D.C. (Da Capo)』




−4

とりあえずベッドに眠る者をじーっと見つめる。
面白い。面白すぎる。
(世界ってすげぇーな!)
一つの世界に同じ顔をする人は二人がいる。それはよく聞く話だが、…よく聞く話だけど、まさか自分に起きることとは思わなかった!
「あ、そうだ!みんなにお知らせよっと!」
『!クリクリー!!』
そう思いながら外に行こうと思う十代だが、何故かハネクリボーは彼を止めようとしている。これを見て、彼は頭を傾いた。
「え?ダメだって……、…ぇ」
が、ふと気付いた。
肩にはすでに、ハネクリボーがいる。…
…って目の前のはなんだ?!
「は、ハネクリボーがふた…んぐ!」
(クリ!クリリィ…!!)
静かにして!と言っているみたいにふたりのハネクリボーが十代の口を覆う。仕方ないと少年は口を閉じ、改めてベッドの相手を見る。
「でも、こいつは何なんだろ…すっげーオレに似ているし、制服もレッド寮のモノに似ているし、ハネクリボーのカードも持っているし…あと、」
(何が懐かしい気がする)
何故だかわからないが、目の前の者を見ると懐かしい気持ちは心から湧いてくる。自分と同じ顔の人なんて初めて会ったのに、まるで以前…遠い昔の頃に会ったことがある気分だ。
(ちょっと触ってみてぇ)
音を出さないように腕を上げるが、相手を触る前に指先はヒクと跳ねる。
何かが、彼を見ている視線が感じる。
「…?」
後ろを覗いてみると、ハネクリボー以外の者はいないと確認し、十代は再び者に振り返ると、
――――琥珀の瞳は彼を見つめていた。
「………え」
(同じいろ。…オレと同じ色の目だ)
鏡の自分と同じ色の瞳を持つ赤き者。けれど色の奥に落ち着いている感じと小さな複雑の気配が見える。自分と似ていても、目の前の人は大人に近い。
そう感じた。
「オレを、」
赤き者の声で我に返る十代。
相手は喋り始めた。
「助けたのは、お前か」
「…―――ってオレと同じ声だぁっカッコイイィ――!!」
(あぁ、流石昔のオレだ…)
嬉しそうにワクワクする十代に赤き者は思わずため息をつく。
「楽しんでいるところでワリィけど、ちょっと手を貸してくれ」
次元や時間の間に飛んでいたせいで、力はまだ回復していないんだ

相手の言葉に「??」と疑問を抱くが、すぐに口元を上げ、十代は笑顔を咲きながら腕を伸ばした。




−3

「へぇーじゃあ、お前は別の世界から来たのか」
話から聞くと、目の前の者は十代と違う世界から来たもう一人の彼らしい。
信じにくい話かもしれないけど、よく考えたら闇のデュエルや温泉の奥にいるもう一つの精霊の世界がいると考えてみれば、もう一人の自分が居てもおかしくない。
十代はうんうんと頷きながら納得した。
「まぁな。理由は分からないでもないが…」
「え?じゃあ…えーっと、…なんて呼べばいいんだっけ」
「好きに呼べばいいんだ。名前は教えられなくてすまない」
「もう一人のオレだけどオレじゃない。でもこの人もオレなのにオレより大人で落ち着いて…ん〜」
難しいぜーと迷う十代に赤き者はクスと笑う。すると何かを思いついたように『あっ!』と少年は呼んだ。
――――兄さん。

「…、はぁ…?」
一瞬だけ、心臓は止まった気がした。
「だって、お前はオレより年長だろ?オレに似ているけどオレじゃないし、『十代』って呼んでも変な気分だしさ、じゃあ兄さんって呼んだ方がいいじゃん?あ、もしかして嫌か?」
「え、いや」
小さく頭を左右に振り、赤き者は応えた。
「好きに呼んでいいぜ。」
「じゃあしばらくの間はよろしくな!兄さん!」
十代は『兄さん』と呼ぶ方に手を伸ばし、二人は握手した。


正直、驚いた。
幸せそうに隣に眠る少年を見て、赤き者は目を細める。
「…まさか、反応するとはな」
心が反応してしまった。
昔とはいえ、彼の体の奥にはもう一人の彼がいる。その人は彼自身の兄であり、目の前の少年の兄でもある。
思わず心が跳ねた。

――――たった一言で、覇王(兄さん)は自然に頭を振り返るところだった。

「………。」
服の中にいるペンダントを取り出し、手のひらに置く。
優しいひかりが輝き、赤き者…『十代』は思い出し始めた。



最終試験発表と卒業式には数日の間がある。
卒業式の次日に卒業生達がデュエルアカデミアに出るため、発表と卒業式の間は生徒達に別れと荷物を片付けさせる時間でもある。
それは、ある生徒が眠っている時のことだった。
(……?…なんだろう)
目を閉じると見えるのは暗い闇しかないのに、小さな光が輝いている。
どこかに、近いところに…
ぱっと目を開き、十代はベッドから起きながら見渡る。
確かにレッド寮の…自分の部屋だ。
もう一度目を閉じても光が感じる十代。彼は目を開かずに手を前にいるモノを触り、少しずつと光に近づく。
何かに入っているみたいだが、手で移ってみると光は伸ばすと触れるほど近くに居た。
十代は目を開けた。
「…えっ、これは…」
これは一年生の頃、闇のデュエルに貰ったペンダントだった。
目を閉じると確かに目の前から光が伝わってくる、思わず十代は頭を傾けた。
「二年生になってからまったく輝いていなかったのに…どうしたんだろ?」
だがペンダントに触る瞬間、まるで何かを感じたように少年は手を退け、自分の瞳を撫でる。
瞳は碧緑と黄昏色に変わった。
(反応している)
(闇の力、に)
ゆっくりと握りこみ、再び十代は目を閉じた。


影像は湧いていく。
…黒と白しか見えない古い画面。時々吹雪となり消え去るが、少しの瞬間だけがペンダントの記憶に残っている。
不思議な色の天空に包まれながら浮いている小さな島。
大きな画を刻まれている石板。
そして、遺跡の奥にいるお墓で、――――赤に見える紅茶色の髪。

目が見開く同時に影像は切られた。
少年は呆れた。今のは、一体なんだろう?
(あれは…間違いない)
(あの髪は、…―――)
気付いたら彼はレッド寮から出て行った。遺跡の方向に向かい、彼はかつて自分が異世界に飛ばされる場所に着いた。
ペンダントを握るまま。
「…はっ、はぁ…っ」
頬に流れる汗を拭き、十代はゆっくりと遺跡の入口に近づく。
まるで扉のように曲がっている二つの岩。手を上に置くと、新たな影像はまた頭に入り込んでいる。
―――白い雪で赤に塗られる一人の青年とそれを抱きしめる青髪の青年。
(…間違いない)
「ここ、だったのか」

かつての闇の双子が、光によって亡くなった場所

「でもなぜ…っ、?!」
もう一歩を進もうとするとペンダントは輝き始める。小さな光は少しずつ多くなり、強くなる瞬間に視線は白に被され、

少年は遺跡から消え去った。



「…この日付は確か、オレが二年生になる前の春休みだっけ…」
カレンダーから視線を離れ、気付かれない様に赤き者は十代が付けているペンダントを触る。
だが、指先は震えていた。
(まだだ。まだ力が、回復していない)
「……明日は戻ればいいんだが…」
「んー…んんんエビフライィー……」
寝言だろうか、よだれを流しながら十代は嬉しそうに手を上げる。まるで言っているモノは目の前にいるようだ。
それを見て、プッと笑う赤き者だったが、
ダレダ?
一言で『十代』は恐れながら強く振り返った。
相変わらず十代は眠っている。でも、唇はそれと似合わない言葉を出していた。まさかと思い、『十代』は静かに少年が上げている腕を掴む。
ゆっくりと、彼は告げた。
「――…にいさん、なのか…?」
ジュウ、ダイ…?


応える様、掴まれる腕は小さく跳ねた。




−2

『お前はじゅうだいか』
「…はい」
『だが俺は十代の中にいる。お前は誰だ』
「オレも、十代です」
『……。異世界から来たのか』
「はい」
『何故ここにきた』
「詳しいことはわからないけど、多分…このペンダントの力だと思う」
『お前から闇の力を感じる』
ヒクと腕を跳ね、『彼』は続く。
『ユベルや、もう一人の『俺』も感じる。未来の時空から来たか』
「…はい」
『…そうか』
「兄さん。このペンダントは貸してもらえるか」
『その必要はない』
「え?」
意味がわからないと『十代』は頭を傾き、まるで相手の顔を見えたように『彼』はクスと笑う。
『俺の腕を掴んで遺跡まで連れて行け』
「え?でも…」
『お前はあの次元に向かう入り口がわからないだろ?それに、俺にも見せてくれ』

静かに咲いていく笑顔は優しかった。

『お前の背中、を』


先まで全身が重いと感じたのに、不思議に『兄』の腕を掴むと体は軽くなり、重いと思う筈の体も軽く感じる。
まるで腕から力を頂いているようだ。
『重くてすまない』
「いいや。兄さんのおかげで体は軽くなったぜ。…ちょっと、懐かしい気がする」
『?』
空を見上げる。
雲もなく深い青色に塗られる夜空と小さなひかりが輝いているたくさんの星。何かを思い出すよう、背中に『兄』を背負いながら『十代』は微笑んだ。
「今のオレの記憶じゃねぇけど、『兄さん』とオレはまだ双子の時、『兄さん』が背負ってくれたことがあるんだな?」
綺麗に見える白い星達と夜空。遠い昔、彼らはまだ離れていない頃…悲劇と闇の力が暴走する前に、二人は一緒に空を見たことがあった。
「怪我しちゃって森に迷い、ずっと家に帰ってこないオレを探すために、『兄さん』はひとりで夜更けまでオレを探してくれた。…おかしいな。あまり前世の子供の記憶がないのに、これだけははっきり覚えていたんだ」
昔…今と長い時間から離れ、遊城 十代になる前…世界王の王子になる前、『覇王』と一つになる前の前世、二人は双子だった。
破滅の光のせいで一つの存在は二つとなり、彼と『兄』は闇の双子になった。兄の存在は闇の力、弟の存在は闇の力を操る鍵。だが、生まれた頃から力を持つ兄は村の人々に怖がられ、よく周りの子供達にいじめられた。
ある日、弟は兄に喜べそうなモノを探しに行った。だが、途中に怪我してしまい、弟は森の中に動けなくなり、空が夜になってケダモノまで現われた。
あの時に助けにきてくれたのは、弟の兄だった。
『…あぁ。覚えている。あの日はお前が初めて、俺に祝ってくれた日でもあった』


――――じゅうだい…っ!!
あの夜は衝撃的な日でも言える。必ず晩御飯の時間まで戻る弟は夜になっても戻れていない。何かの事故でも起きたと思った兄は周りの人々を聞きに行ったが、皆も彼を恐れているため話を教えてくれていなかった。
拒絶され、彼は一旦いえに戻ろうとする時、ケダモノの声を聞こえる…の前、ある声は彼の耳に届いた。
弟の、呼び声。
――――…が助けて。誰が助けて!にいさぁ…!!!
兄は森の奥に走り出した。夜の森は危険や禁止など考えず、迷いもなく彼はある方向に奔った。
そして見つけた。
弟がケダモノに襲われる瞬間。

「…――――じゅうだい!!」
『キャオッ!』
石に殴られ、ケダモノは彼にモノを投げる視線に向かうと、そこに立っているのは狙いと同じ顔の子供であった。
「じゅうだいから離れろ!」
『ぐうぅぅー』
相手の叫びで一気に兄に振り返るケダモノ達。彼らは弟から視線を離れたと分かり、兄は弟を見た瞬間、
「にげろっじゅうだい!」
「!にいさん!」
ケダモノは兄に襲いかかった。
「くっ…!」
始めは一匹のケダモノ。自分より大きいケダモノに兄はすぐに避けたが、隣まで下がる同時に次のケダモノは兄に跳び上げる。
「う…っ!」
爪が届く瞬間に兄は体ごと下げ、ケダモノは木に当たると信号のようにすべてのケダモノは足を上げ、
兄を襲った。
「!にいさぁあ!」
「…おれは、」
腰にいる小刀を取り出し、握り先を強く掴むと兄はケダモノ達に向かい、
「おれは、じゅうだいを守るんだ!!」
刃は輝き出した。


一瞬のことだったような、長い時間を経っていたような。
弟が我に戻ると、ケダモノはすでに逃げるように去れ、兄は少し怖がりながら自分に微笑んだ。肩には小さな赤色があり、手にいる小刀も少し赤色があった。
「じゅうだい。…じゅうだい、大丈夫か!」
「に…にいさん!怪我!怪我している!あぁああ待て、すぐにてあて…っていたいぃー!」
立ち上げようとする時に痛みで思い出す。弟は怪我していたせいで動けなくなり、兄を危険に巻き込んだんだ。
「じゅうだい!だいじょうぶか!」
「…うぅうう…にいさんの方がいたいのに…!」
「おれは大丈夫って。足はいたいか?」
腰を降ろして弟の足を見る。どうやら森に歩いている時に木の根に転がれたらしく、血は出ていないが色は紫と赤になっている。
「立てるか?」
「う…」
「…しかたない」
痛そうな弟の顔を見て兄は溜め息をつき、彼は背中を弟に向いた。
「かえろう、じゅうだい」
「……うん!!」

弟を背負い、二人はゆっくりと村に戻る道に進む。
森に入って途中とすれ違う木に記号を書いており、かなり時間をかかるが兄は森から離れていると感じる。
見上げると、視線の先にいる空は少しずつ広がっているからだ。
「じゅうだい。どうして森にはいったんだ?」
「…あ!そうだ。にいさん」
ポケットから何かを取り出し、弟は後ろから兄に見せる。
小さな白い石だ。
「これは…?」
「これはな!森で見つけたんだ!にいさんのたんじょうびのお祝い!」
「…もうすぎたぞ?おれたちの誕生日」
「いいんだよ!ぼく、にいさんにあげたいだけだよ!」
弟の手のひらから石を取り、よくみると石は少し透明感があり、まるで本に読んでいた『宝石』みたいなモノだ。
「…いいのか?」
「うん!…あ、外にでたー!」
森から抜け出し、広がる視線に二人は思わず目を見開く。
真っ黒な景色に月と星は綺麗に輝いていて、ひかりはこれしかないのに不思議に怖いと感じられない。
闇は静かに、優しい気がする。
あの晩、兄は弟を背負いながら彼の手と繋ぎ、一緒に夜空を見ながら家に向かう。
繋ぐ手はすごく暖かった。


――――…
「あれからは色んな事もあったけど、オレは…また昔みたいに『兄さん』とこうして話すことができて、嬉しいと思っているぜ」
足を止まり、『十代』は『兄』を背負いながら見上げる。
曲る二つの岩とどこか神秘な雰囲気が漂う地面とそれを抱きしめる僅かの植物。ここは一年の頃にペンダントを手に入れた場所だ。
「『兄さん』。入り口は分かるか?」
『あぁ。十代が入った時はあるネコがやったお陰だからな。…もう少し前』
言われる通りにゆっくりと進み、暫く岩に作られた地面で歩くと『十代』は何かを感じた様に足元を止まる。
『兄』の腕は跳ねた。
『ここだ』
「…あぁ」
腰を降ろして泥土を掘り、黄色の飾りは視線に映る。
眸を黄昏と碧緑に変わると、少年はゆっくりと指先を伸ばす。

飾りに触る瞬間、大きな白い光は現われ、白き円柱は彼らを覆い始めた。


「…また会う機会がくるとは思わなかったけど、驚いたわ」
静かに眸を開き、繋ぐ手の指先を動く。
目眩な景色に少年達は目を細める。
見えるのは、ただ一つだけ。

綺麗に纏められる真っ黒な長髪とまっすぐにモノを映る眸は漆黒の鏡のようだった。

―――ようこそ。二つの次元と時空から訪れた闇の主
『覇王様』





−1

「少し、驚いたわ」
ゆっくりと目を開いていく二人の少年を見つめながら、黒髪の女性は続く。
「次元と時空を越えて、ここに戻るとは思わなかった。…『覇王様』」
「兄さん、目は見えるか?」
「大丈夫だ。ここなら、手が繋げれば開ける。…俺も、」
『十代』と手を繋がるまま『兄』は顔を上げ、彼女を見た。
「またこの地にたどり着くとは思ったことがない」
思ったことがない。寧ろ思わなかった。
破滅の光や自分の弟と戦ってきた場所。彼は『覇王』としてここで城を建ち、『覇王』として其々の異世界を支配し、『覇王』として戦い、『覇王』として
弟と破滅の光の手によりここで亡くなり、『闇』は二つから一つに戻った。
彼の存在が消された場所も、ここであった。
「墓守一族の子よ。名は?」
「…墓守の暗殺者・サラだわ」
「ならばサラ、別の次元と時空から来た『彼』のために説明してくれ」
チラと隣の『十代』を見て、『兄』は伝わる。
「彼がここに来なければいけない理由を」

少しだけ、繋がる手はより強く掴まっていた。


「あの方に会えたのね」
「?」
『見せたいモノがある』とサラに案内させ、『十代』と『兄』は手を繋ぎながら彼女の後ろに歩いているといきなりの疑問で『十代』は顔を上げる。一瞬だけ分からなかったが、すぐに疑問の意味を分かる少年は微笑み、胸に掛けているペンダントを触った。
「あぁ。このペンダントの半分もアイツ…吹雪さんがくれたんだ。お陰で闇のデュエルにも救われたぜ」
「『吹雪』」
小さな呟きと同時に足元を止め、サラは振り返った。
「…これは、あの方の名前?」
「?知らなかったのか?」
「……あの方は、自分の名前がわからないと、言ってくれました」
「―――…そっか」
確かに思えばそうだった。
ダークネスの仮面に操られ、体は動いていても記憶や精神に魂も闇の中に閉じ込まれているため、あの頃の吹雪は吹雪であり『吹雪』ではないから、『吹雪』の名前が思い出せなくても当然だろう。
(…ん?)
あるところに『十代』は目を細める。
あの頃の吹雪は『吹雪』ではなくダークネスならば、何故サラにあの言葉を言い出した。
もし精神や魂、記憶も闇の中に閉じ込まれていたら主の中に感情のような人格は現れるはずが…
「あの方は、」
女性の声で我に返り、『十代』は彼女の背中を見る。
「強い方であり、悲しい方でもあった」

確かに、あの方は強い。
デュエルだけではなく、あの方の周りにいる気配はすでに彼女達を圧倒し、実力も彼女達より上だ。
でも、仮面の僅かの隙から伝わってくる視線は、何故か悲しく感じた。
『君は名前があるか?』
『?』
勝利の証・ペンダントを渡す時、青年は彼女に聞いた。名前はあるかと。
『…もう捨てた』
『何故だ』
『暗殺者の私に、名前は要らないからだ』
墓守一族として存在し、女性であろうと彼女は一族のため、ここに眠る『あの方』を守るために彼女は暗殺者となり、この場所に侵入する者を排除し続けていた。
いつの間にか彼女の名前を呼ぶ者は無くなり、彼女の名前は時間とともに消え去っていた。
…暗殺者としての彼女に、名前は要らない。
『だが、君には名前がある』
ペンダントを受け取り、青年は彼女を見た。
『君には、『自分』の存在を意味する『名前』がある』
相手の言葉の奥が分かったか、彼女は何も言わずに手を離れ、青年は続いた。
『私には『名前』がない。…いいや、忘れたかもしれない。私がこの仮面をつける前に、―
――周りが闇に覆われる前に、『私』を意味する『名前』はあったかもしれない。だが、私はもう思い出すことができない。果てのない闇の中に生き残るため、私の名前、記憶、感情、すべてが無くなった』
『貴方は感情を失っていない』
真っ直ぐと青年を見つめ、彼女は伝う。
『すべてがなくなった。…もし本当にそうならば、貴方はこの言葉を出すはずがない。この言葉に、貴方の悲しみが居る』
――――貴方はまだ、思い出していないだけだ
『サ ラ』
ゆっくりで、静かに呟く。
『これは、私自身を意味する『名前』だ』
『サラ。…――――いい名前だ』
ほんの僅かの、穏やかな一瞬の刹那。
仮面の下に現れていく動き。安らかに、柔らかに、口元は左右に上げてゆき、
『いつか、また』
青年は微笑んだ。
『君に名前を教えよう。私の、―――『僕』自身を意味する『名前』を』

最初で最後の握手の瞬間は、彼女の記憶から消えることはなかった。
短い時間で人との僅かの触れ合い。
それなのに頭から消えることがなく、ずっとこころに、思い出の中に残っている。
彼を、忘れた日はなかった。
「少年。貴方は二番目の者だった」
足を止め、サラは頭を傾く『十代』を見る。
「私達墓守一族がここを守り…この時空と次元が閉じられた以来、外から来られる方は、貴方とあの方だけだった」
サラの言葉に目は大きく見開かれる。
今、なんて言った?
次元と時空が閉じられた『この場所』。
かつて『闇』が二つから一つに戻ってきた場所であり、『闇の器』が亡くなった場所。
(まさか)
「まさか、ここを閉じたヤツとお前達が守っていたモノは、」
「えぇ」
チラリと隣の『兄』を覗き、サラは『十代』を見つめる。
そして、応えた。
「私達がここで守っているモノは、次元と時空の間に移動できる力。この時空と次元を閉じた人は、『闇』を二つから一つに戻った人物」
ゆっくりと、『兄』は目を閉じていた。

――――『破滅の光』と呼ばれていた者
ヨハンだ



「ちょっと待った!」
思わず叫び出す『十代』は頭を抱き始まる。
(この時空と次元を閉じたのはヨハン?)
(この力をここに閉じさせ、サラ達にここを守らせる?………、…?)
守らせる?
何かを思いついたように頭を上げると、サラの代わりに『兄』は応えた。
「この次元と時空は、かつての俺が創った」
「創ったって。ここは分裂してしまった十二次元の一つじゃなかったのか?!」

――――十二次元。
本来、次元は一つしか存在しないはずだが、其々の影響と其々の変化により次元は分裂されてしまい、一から十ニとなり今になる。
でも十ニ次元となった頃は遠い昔の事で、あの頃は自由に次元の間に移動できる者はほとんどいない。
今は精霊の中に、ある次元に行くことができる精霊は居るけど、あの頃にはたった一人しかできない。(だが、他の次元に行けることができても自由に移動することができない)
かつての覇王…彼の『兄』は昔、ある次元に覇王城を建て、王となった。だが、あの次元の居場所を昔の彼やヨハンも見つけることができなかった。
あの次元は普通の次元ではない。――――突然現れ、いきなり消え去ることができる不思議な次元だった。
今から考えると確かに怪しい。十ニ次元は其々の場所に存在し、お互いは繋がっていないし、いきなり現れても驚くことではない。…だが。
好きな時に現れ、好きな時に他の次元への道を開き、好きな時に消え、…――――

まるで『次元』と名前を持つ移動要塞じゃないか?

「十代」
背中が撫でられ、『兄』の突然な行動に『十代』は彼を見る。
「ならば聞こう。俺達は、どうやってこの『次元』に来た?」
「ぇ」
「お前が思ったことを言えばいい」
分からないように頭を傾く『十代』だが、相手に言われる通りに彼は考え始めた。
「どうって…このペンダントの力のお陰だろ?」
「ある次元から別の次元に行くには、何が必要だ?」
「えっと、例えば…オレ達の世界からここに来るには、それなりに『力』が必要とする。別の次元への道を探し、その道を現わせ、安定させる。もし行き先の次元を特定せず、ただ次元から出たいなら、例え向こうの次元の場所がわからなくても、巨大な『力』があれば空間を歪ませ、次元から出られる。でも、この場合に行き先はどこなのかわからなくなるし、『力』も足りないと別の次元が見つかる前に次元と次元の間に落ち、永遠の闇から出られない」
「そうだ。では十代、時はどうなる?」
「簡単にいえば、十二次元は十二個箱に考えられる。それぞれの箱に違う世界が存在しているけど、すべては同じ場所…同じ『時』の中に存在している。だから道さえあれば、どんな箱に行っても、実は同じ時間に生きている。ただ違うのは、違う箱に違う『時』の流れがあるため、ここに一分が経っても、オレ達の世界の時間には一分ではないことになる」
「あぁ。…ならば、」

「お前の考えによると、この『道』はどんなモノだ?」

「?箱は違う時間を持っていて、違う場所にいるから『道』はそれを繋ぐ…、……――――っ?!」
何かを思いついたように十代は見開く。だがそれは驚くより、
信じられないような表情だった。
(ここは『闇の器』が亡くなった場所)
すべての次元の始まりである『光』と『闇』。
『闇の器』が亡くなった場所であり、『光』と『闇』が戦っていた特別な『場所』。
…まさか
(まさか)
「…分かったようだな」
「っでも、これは考えられない状況だぞ!」
思わず、少年は叫ぶ。
「確かにそれはすべてが通じる!けどっ!」
「事実だ」
十代の言葉を覆い、『兄』は言う。
「これが、この『場所』の正体だ」
「くっ……マジ、かよ…」
眸が揺れながら少年は俯き、ゆっくりと指先を握り、赤き跡は手のひらに現れてゆく。
「ここは、『光』と『闇』が戦ってきた『場所』…」
「…あぁ」
「ここは、強大な力によりズレが生まれてしまった『空間』…」
「…そうだ」
「ここは、十二次元…十二個箱を繋ぐ『道』…」
「その通りだ」
「っ…ここ、は…っ!」
少年は、さけんだ。

「ここは、すべての次元を生み出した『光』と『闇』…そのものってことかぁ…?!」


――――『道』は十三番目の次元だった。

箱に考えると、十二個箱は違うところに置いていて、その中に時間の流れや違う世界もあるけど、箱が存在している場所…つまり、同じ次元で同じ時間に存在している。
次元を繋ぐ『道』は、実は十二次元を生み出した存在であり、十二次元が存在している場所・十三番目の次元であった。
次元と次元を繋ぐには『道』が必要だ。偶然か否か、ある者はこの『道』を発見し、『道』に城を作って覇王となり、『道』の力を使い十二次元を支配していた。
思えば当たり前なことだ。きっと誰も思わないだからだ。
次元と次元の間には『道』が居て、その『道』に城があって次元ごと侵入するなんて、誰が思うんだ。
だが、それがきっかけになった。
十三番目の次元は十二次元を繋ぐ『道』であり、『光』と『闇』そのモノだった。この次元に『光器』と『闇の器』は戦い、強大な『力』により次元は破れ、時間と場所…時空と次元は歪んでしまった。
もし誰かが歪んだ此処を侵入すれば、十ニ次元の世界と時空は奪われ、平和は二度と戻らない。

「あの方・ヨハンはこのことを気付き、この次元と時空を閉じることにした」
「…ここを、誰にも見つかれないためか」
「はい」
「っでも、ここの入り口はオレ達の次元に現れたぞ!?」
「十代」
少し『十代』の発言を止めさせ、『兄』は入り口を指す。
「もし、この次元は本当に閉じ込んだら、何故俺達はここにいる」
「!」
相手の言葉にハッとする『十代』。
『兄』は続いた。
「この次元は十二次元を繋ぐ道の世界だ。もしこの次元は封印され、闇に閉じたら誰も自分の次元から離れ、別の次元に移動することもできない」
「じゃあこの次元は閉めていなかったってことか?!」
「いいや、封印はした。…ある日まで」
「?」
「サラ」
「はい」
まゆげを寄せる十代に覇王はサラを呼ぶ。意味がわかったか、サラは一歩を進み、『十代』に口を開いた。
「確かにおっしゃる通り、この次元と時空は閉じていない。でも、ここは封印されたため、次元に移動してもここは誰にも見つかれなかった。…だが、これは十年前まででした」
「十年、まえ…」
「言わなくとも、ここを封印したのはヨハンだ。しかし十年前、封印は解けられ、俺達の次元に現れた。ある会社がこの遺跡を発見し、ここにデュエルアカデミアを創ることになった。…もう、わかるか」
(…うそだ)
(うそだ)
「十年前に何があったか、お前と俺、そして『あの人』もよく覚えているはずだ」
「す、べては」

『   、  』
白いマフラーを掛けてくれた青髪の子供。
今でも覚えている。両親の勝手な決定で自分は街に出て、ずっと泣いていた。それでも自分を気付いてくれる者はなかった。老人、子供、青年、大人、動物…何もかも自分とすれ違い、誰も彼を気付きようとしない。
彼は独りだと感じた時、誰かが彼に白いマフラーを掛けてくれた。
あれは、青髪の子供であり、

――――次元を越え、ずっと自分を探してくれたヨハンだった。

ああ。やっとわかった。
何故ここは閉じたのに、彼らの世界に現れたのは、やっとわかった気がした。
「オレの、せいなのか」
力が無くしたか、少年はゆっくりと腰を下ろし、石の地面に座り込む。
「きっかけは、オレなんだ」
「お前のせいじゃない」
「オレじゃないなら誰のせいだっていうんだ!」
彼のせいだった。すべては彼から始まった。
双子の弟である彼が双子の兄を拒み、衝撃により兄の『闇』は暴走し、そのきっかけで兄は『覇王』となりここの次元を使い、次元を支配した。
『光の器』・ヨハンと手を組み、彼と兄を二人から一人に戻り、死んだ。だが『光』と『闇』の力はあまりにも強力のため、この次元は歪んでしまった。
この次元は封印し、閉じるべきだった。でもヨハンはしなかった。
一つの約束したせいで、彼はできなかった。

―――――必ず、お前を探し出す

柔らかい雪と共に小さな雨の雫は頬に落ちていく。冷たいはずなのに、背中に回してくれる腕の温度さえわからなくなってきたのに、自分の視線に降ってくる涙だけがはっきり感じている。
…あたたかい。
『かならず、お前を探しにいく…』
一滴。
『何年かかっても、どこまで行こうと…』
二滴、三滴。
『だから、また出会え…っまた、あえるさぁ…』
まるで宝石のようだ。
自分に落ちてくる透明の珠はあまりにも綺麗で、純粋で、自分のために降るなんて勿体無くて、それでも
うれしくて。
『…―――だからぁ…!』
彼も泣きそうだ。
彼のために、目の前の者はあまりにも悲しんでいるから。

『――――  、』
俺を、置いて行かないでくれ…っ


約束した。
生まれ変わる彼を探し出すって、ヨハンは彼に約束した。
どこに生まれ変わるかヨハンにはわからない。探すには其々の次元に向かって探すしかできないが、状況はこのような甘い事を許されてくれなかった。
十二次元が存在する十三番目の次元は歪んでいる。この歪みを誰にも気付かれずに平和を守るため、次元へ移動の方法を封印し、道を閉じるべきだ。なのに、ヨハンはしなかった。
ヨハンは約束のため、彼を見つけ出すため、
平和より彼を選んだ。

「だが、ヨハンはやるべきことを忘れていない」
『十代』の方向に向き、『兄』は話し続く。
「確かに彼はこの次元を、道を閉じなかった。しかし、彼が残した封印は彼の力が消えない限り続くことにしたんだろ、十年前まで封印は続いたんだ」
「だが、十年前から封印は破った。――――オレのせいでヨハンの記憶は、消されたからだよ!」
幾つ時代を越え、ヨハンは彼を見つけた。
あの頃の彼は前世の記憶はなく、もちろんヨハンのことも覚えていない。ヨハンも気にせず、ずっと彼と話をしてくれた。
ただ、『兄』は恐怖を抱いた。
昔はともかく、まだ子供である『闇』の転生がもし、力が感情のせいで爆発しまうとそれは大きな危険が襲ってくる。
この危機を避けるため、彼の中に存在している『兄』…覇王は無理やり外に表れ、ヨハンの記憶を消した。
二度と繰り返せないため。
ある時期の生まれ変わりのように、暴走のせいで一人の人間…精霊が自らの手で大切な人を殺す事件を繰り返させないために。
それでも、事件は起きた。
ヨハンの記憶が消されたせいで、力の使い方も忘れ、封印は維持できなくなり、遺跡は人々の前に現れ始めた。
「………」
「…オレは大きな間違いをしてしまった…」
「もういい、十代」
「オレのせいでヨハンが、次元が…」
「…―――いい加減にしろ!!」
叫びは小さな悲鳴を覆い、『兄』は少年の服を掴み、彼を立ち上がらせ、
「くっ!」
顔は拳に打たれた。
「!覇王様!」
「下がれ、サラ!」
突然な衝撃で『十代』は打たれて地面に落ち、背中と顔は痛みを伝う。
『いててぇ』と唇を拭き、僅かな赤は指に付く。
顔を上げると、今でも自分を殺そうとする『兄』の怒り顔が映った。
「こうやって自分のせいだ自分のせいだって、お前はいつまで過去を抱くつもりだ!」
「!」
「今このとき、貴様の目の前にいるのは誰だ。何故遺跡はお前や俺をここまで呼んだ。さっさと頭を冷やせ、バカ弟!」
「にいさ、」
「サラや墓守一族達が守りたがるモノは、こんな下らないモノじゃない!!」
「んなこと、」
再び撃つ拳。
「言われなくても分かってるよ!」
だが今回は顔ではなく、手のひらは拳を受け入れ、『十代』は立ち上がった。
「オレはそこまでバカじゃねぇ…!オレだって、分かっているんだ!」
『ちょっと待てくれ』と言いながら拳を放し、『十代』はクシャクシャと髪を掻きながら考え始める。
二人の少年の片手は繋ぐままだった。

そうだ、彼はもう以前の彼じゃない。過去は全てじゃなくて、過去を忘れろと言うわけじゃない。
彼はここにいる。今、ここに生きている。
ならば彼ができることはただ一つ。
前へ、進むしかない。

ゆっくりと息を吐き、こころは落ち着いたか、『十代』は再び眸を開く。
揺れがない琥珀色の両瞳は琥珀…心の黄金の目に映り、『兄』は微笑んだ。
「もう落ち着いたか」
「あぁ、パンチのお陰でな。つーかいてぇ」
「…羨ましい」
二人の少年はサラに振り返る。
兆しもなく、女性はただ静かに口元を上げ、小さな苦みの笑顔を咲く。
「ごめんなさい。思わず、失礼なことを…」
「いいや、オレ達は構わないし。……これ、羨ましいことなのか」
「貴方が知っている通り、私達『墓守一族』には、ここを守ることがすべてだと思っている。そのため、私達には『家族』や、『友』などいない。あるのは、上司と部下の関係のみ。…貴方達を見て、不思議に感じた」
「――――…サラは、外に出たいか」
「…わからない」
「………」
「でも、ここを守るのは私の役目であり、私の誇りでもある。この役目が終わるまで、私は最期まで続く」
「役目、か」
『兄』は『十代』に向く。
「お前の頭が覚めたら聞こう、十代。俺達は何のためにここに居る?」
「―――――……。サラ、案内してくれ」
『十代』は『兄』を見る。
「封印が無くなった以上、この次元はいずれ他の誰かに気付かれ、奪われてしまう。…別に信用しない訳じゃない。ただ、このままだと危険だと思うんだ」
「えぇ、わかっています。そのために、ペンダントを外の世界に送ったんですから。闇の始まり…貴方達へ届くために」
「あぁ。事件が起きる前にオレ…いいや」
二人は、口を開いた。
「「俺(オレ)達は次元の歪みに向かい、道を…―――次元を閉じる」」




−0

思うと、ここはすべての始まりであった。
石に作られた扉はゆっくりと開き、光がない空間に火を付けさせ、闇は消えてゆく。
一瞬迷いが浮いたが、すぐに少年は『スー』と息を取り、足音は静かに響き始まる。
少年達は見た。
「――――…」
扉や壁に閉じ込まれる広い空間。室内なのに目の前には建物の骸骨や焦げた跡しか残れず、まるで大きな焔に抱きしめられたように、僅かに残された破片も真っ黒だ。
でも、焼け跡の中央は不思議に感じた。
周りは火の跡に包まれて真っ黒に塗られたのに、中央だけが真っ白で、残骸などいないし焦げもない。
何が大切で、何かに守られた場所のようだ。
「……」
ゆっくりと手を伸ばす。
撫でるように指先を白き地面の部分を触り、少しずつ、優しく手のひらを上に置く。
『十代』は小さく笑んだ。
「ただいま。…はじめまして、『かつてのオレ達』」

――――『闇の器』は去った。
二つの『闇』は一つとなり、その代価に器の命は結末に向かい、『光の器』・ヨハンの腕の中に最期の息を止んだ。
『闇の器』は例え生命がなくても肉体さえあれば再び誰かに利用され、奥から力を取り出せる。肉体は、『闇の力』を受け入れたモノだからだ。
そのため、ヨハンはこの場所に焔を付き、『闇の器』を風に、大地に戻らせた。
彼が使っていた焔は特別な焔のせいか、残骸や跡など残らないかわりに、地面は白色に塗られた。
雪のように。
「『闇の器』。…特別な焔により器は自然に戻り、偶然か否かおかげでこの自然は封印が解けられた今になっても、代わりに歪みを止めることができる。」
「あぁ。『サヨナラ』しよう。『かつての俺達』…いいや」
より強くお互いの手を繋ぎ、二人は立ち上がり、
「「我らの親・闇よ」」
白き地面に告げる瞬間、強い嵐は現れ彼らを襲った。
叫んでいるように風と共に衝撃は少年達に向き、触れ合う同時に地面は揺れ、すべてを飛ばされた。
「くっ…!」
嵐が来る前にサラは腕を上げてなんとか防いだが、衝撃の波のせいで周りは埃ばかりで前は見えない。
「!覇王さ…っ?!」
声を出す一瞬に惹かれたか、嵐は埃を越え、サラの姿を見つけた同時に刃となり、
「!」
彼女に襲った。
…はずだった。
「「『我ら』の前に人を襲うなど許さない」」
始めは一つ、続いてもう一つの手は風の刃を掴み、刃の先はサラの前に止まる。二人の少年は刃を放し、風は元の場所に戻る。
白き地面の上・光を輝く隙に戻った。
「覇王様!ここは私達一族にまかせ、」
「大丈夫だ。サラは見るだけでいい」
「…肉体はすでに自然に戻ったのに、」
何故か少し切なげに呟く『十代』。
『兄』は彼を見た。
「ここに踏み込む者を排除するのか」
「そこには魂などいない。だが十代、別のモノが生まれた。…この自然の中に」
「…うん。わかっている」
共鳴するよう、歪みの隙から伝わってくる波の揺れ。
二人は一歩を進む。
「自然の中に生まれるモノ。それは、人には見えるけど見えない姿のモノであり、我らを守り、力を与えるモノ――――精霊」
少年達は手を上げる。
「『闇の器』と一つになった自然の中に生まれた思い。それは、器の奥に生きている記憶や我らの親・闇が残した力により生まれたモノであり、『闇』の…我らの親の『初めての願い』を判るモノでもある」
『十代』は左手を、
「いずれ、ここは多くの人々に気付かれ、侵入される。――――思いよ、問おう」
『兄』は右手を、
「汝はこの願い・平和を守るために最期まで戦う覚悟があるか」
黄昏と碧緑の瞳は開き、
「ならば貴方に『姿』を与え、」
黄金の眸は開き、
「全ての『時空』と『次元』の平和を貴方に託す!―――目覚めろ!」
足元から二つ赤き雷が現れ、体を回しながら腕に伸び上げ、二人の手の上に繋ぎ、
「「『闇』の意志に生まれた思いよ!我らの名の下に生まれ変わり、新たな姿と共に現れよ!我らは十代。―――『闇』の意志の生まれ変わり・『覇王十代』だ!」」
赤き雷は歪みの隙に飛びかける。
すべての雷が隙に入り込み静かになった瞬間、爆発したように白き光は現れ周りを包み、視線は覆い尽くされた。


赤ん坊…新たな命が世界に生まれたようだ。
生命の声が聞こえた。強く、精一杯で身体から息を上げ、ここにいると。
命は叫んだ。
『ゴォォ――――ッ!』
少しずつ白き光は赤き雷に包まれ、やがて光が消え視線は元に戻ると、赤き雷は焔となり姿を変え、
赤き竜の形をした焔が現われた。
「…っ!これは…」
「無事に成功したようだな」
危険がないと分かり、『兄』と『十代』はサラの周りから離れ、彼女と共に立ち上がる。
じっと三人を見つめる竜に、『十代』は手を伸ばす。
「おはよう。赤き竜」
『………』
「気分はどう?どこが痛いとかない?」
ゆっくりと二人は赤き竜に近付くが、まるで目の前のモノを認識しているよう、竜はただ彼らを見るだけだ。
静かに頭を撫でる。
精霊と違い、赤き竜は人々の前に姿を見せ、触らせることもできる。身体は焔で作られたとはいえ、相手はその気がなければ触れる者を傷づくことはない。
「オレ達は敵じゃないぜ」
額を合わせ、目を閉じると音が聞こえる。
焔の中に、赤色の奥に魂と精神の音色が耳に届いている。
穏やかな、柔らかな命の旋律。
「自由に行くといい。これからは、お前自身で世界を見に行くといい」
『ォォ…』
竜が頭を上げる同時に二人は後ろに振り返る。
いつの間にサラ一人だけではなく、墓守一族の人々は目の前に立っていた。
「…サラ」
「構わない」
相手が言いたいことが分かったか、サラは『兄』の言葉を止めた。
「我々墓守一族はここを守るために生きていた。例えこの次元が消えようと私達は消えるまで居るでしょう。『命令』がない限り」
「もし、オレ達が『あの命令』をしたら、おまえ達はどうなる?」
「元の場所に、戻るでしょう」
サラは静かに頷いた。
「今の私達は精霊に近い存在だが、本当はただの人間が王に選ばれ、止まった次元に生きていただけ。ここにいる『理由』が無くなったら、私達は戻る。――――我々の時代の故郷へ」
「…そうか。なら命じよう」
彼らを見つめ、『兄』は声を上げた。
「ここはもう守る必要がない。自分達の時代に戻るが良い、墓守一族の子よ」
「――――仰せのままに」

大地が揺れ始める。
次元である赤き竜が形として生まれ、遺跡は少しずつ崩壊し、建物や風景は消えてゆく。
人も。
「十代!早く乗れ!」
「ちょっと待て!…―――サラ!」
赤き竜に乗る前に『十代』は振り返り、サラを見る。
「天上院 吹雪!」
ヒクと黒髪は揺れる。
「これは吹雪さんの名前だ!彼自身の存在を意味する、本当の名前だ!」
「――――…てんじょういん、ふぶき」
ゆっくりと黒瞳は開き、伏せ、
そして
「あの方に、伝えて」
女性は微笑んだ。
「         、 …」
焔の上に乗り、消え去る世界は微かな光となり二人を抱きしめ、赤き竜は天空に
次元と時空の向こうへ旅に立った



――――…かならず会いに行く、と
彼に、

目を覚めていく。
天上や周りを見渡り、ここは自分の部屋だと青年は認識する。
(夢でも見たのか、僕)
懐かしい夢のようだ。
内容は覚えていないし記憶も残っていない。が、懐かしい感覚がある。
優しい気持ちが胸にいるんだ。
「………。」
カーテンを開き、青年は窓の外を見る。
両眸はある方向に移った。

懐かしい夢を見ていた。
古代の遺跡の中に揺れる漆黒の長髪と刃。
戦闘の女神のような美しい姿。
そして
「さ、ら」

黒きひと、み。

かならず会いに行く、と
貴方のことを忘れません、と


彼に、
『吹雪』に伝えてください






『今のお前は、幸せか?』

「じゅうだいー」
ノックしながらドアを開いたが、先に視線に入ったのは真っ暗な部屋で、ヨハンは頭を傾く。
「いないのか……って」
寝ているのか、とベッドに膨らんでいるところを見て彼は溜息をつく。
異世界から戻り、近づくとすぐに目が覚める十代だが、今回は気付いていないみたいに眠っている。
よほど疲れているだろうと十代の寝顔を見ながらヨハンは思った。
「寝るなら制服は脱げろよ、ったく」
足元にいる布団を肩まで掛け、首に何も掛けていない縄にヨハンは頭を傾いたが、考えないことにした。
十代のことだ。何があっても驚くことがない。
「卒業式の前に話をしようと思ったのにな…まぁ、仕方ねぇか」
帰ろうと思い、少年は体ごと振り返る時、あるモノに目を付く。
まだ片付けている途中の荷物だ。
「……?」
何か引っかかったか、ヨハンは腰を下ろしながら腕を伸ばす。
開いたカバンから真っ白なマフラーを取り出した。
(マフラーか)
何だろう。
どこかで、これを見たことがあったような…
できるだけ優しく触る。
マフラーなのに不思議な感触だ。暖かさを与える材質ではなく、柔らかくて、滑らかな細さだ。
まるで髪のような、
やっと、


懐かしい夢を見えたようだ。
泣いて、泣き続いている子供がいるのに誰も彼を気付かず、周りはたくさんの人々がいるのに彼を見ようとする者はいない。
でも、子供を見た瞬間に『彼』はうれしかった。
言葉が通じなくても構わない。『彼』を覚えていなくても構わない。
彼はただ、うれしかった。

『今のお前は、幸せか?』
手が離れる前、『兄』は再び闇の奥に戻る前、彼は彼に問いかけた。
『なんで?』
『聞いたことないからだ』
『…幸せさ』
少年は笑んだ。

あの日。
あの町に、あのときに。
彼は『彼』に会えた。
『またヨハンに、会えることができたから』


長い日々だった。
春を越え、夏を越え、秋を越え、冬を越え、日を越え、夜を越え、次元を越え、時代を越え、
青髪の者はやっと彼の生まれ変わりを見つけることができた。

あの人の髪に作られたマフラーは、
「……、…ぇ」
静かに落ちてゆく雫。
「なんで、俺は泣くんだろ」

それはきっと、魂の涙だろう



『やっと、会えたよ。じゅうだい。本当のお前に会えることができた』
『なに?ことばわからない。だれ?』

―――…おれは、『   』
Johanだ




招待状『D.C. (Da Capo)』
再び戻り、始まる日々
Fin


1期に戻った4期十代 招待状『D.C. (Da Capo)』

ルナ様へ
大変お待たせてしまって本当にすみません。まだいらっしゃっているかどうかわかりませんが…OTLもう2月になっていましたけどOTL
それでも、本当に素敵なリクエストをくださってありがとうございました!

2010.02.01