「あら、じゅうだい」
「おお!明日香!」
購買部に向かう途中、廊下に一人の少女と出会い、十代は彼女に近づく。
「足は大丈夫か?」
「えぇ。もう独りでも歩けるわ。…あ、ヨハン」
後ろにいるヨハンを気付き、明日香は彼を見ると相手も微笑みに応える。
「久しぶりね」
「あぁ。明日香は元気そうだな」
「ありがとう。十代はこれからヨハンとどこに行くの?レッド寮?」
「ん?あぁ、オレ達、これからトメさんとこに行くんだ!ヨハンがドローパンを奢ってくれるって!明日香は?一緒にいかねぇか?」
「そうね。ところで十代、少し前のレポートのことだけど、あれは…」

『ヨハン』
少年と少女が話している間に後ろから声は耳に届く。
…アメジストだ。
『いいの?』
「他に選べる選択はないじゃん」
二人を見つめながらヨハンは話す。
眩しそうに彼は眼を細めた。
「十代は、その道を選んだんだから」


――――少年は拒んだ。
すべての者の気持ちを受け入れと同時に、彼は自分に向かうすべての感情を拒んでいる。
青髪の少年はわかる。いや、相手の言葉に違和感を感じ、気付いた。
少年は避けている。

見た目からみると、少年は誰よりも人を関心しているように見えた。
仲間を大切にしているし、どんな人間であろうと彼はいつも通りに話かけることもできて、その人を受け入れることもできる。
けれど一つだけ、誰も気づかなかった。
盲点と言うべきだろう。
誰よりも仲間を大切する人が、実のところに仲間の気持ちを受けていないなんて、気付く人はいるはずがない。
多分、表には少年は確かに仲間を大切にし、受け入れていた。だが自分のこころの気持ちに関すると、彼は一歩を引け人々の気持ちから離れる。
相手の気持ちもすべてを受け入れたら、相手と自分の関係が『変わる』ことを知っているからだ。
ヨハンに対する態度もそうだった。

ヨハンの『本当』の気持ちを気付いたから、少年…十代は応えることができなかった。ヨハンとの関係を変わりたくないため、彼は何も応えていない。
応えたら、関係は変わる。
拒んだら、関係も変わってしまう。
だから笑顔で、応えるしかできなかった。


「十代はちゃんと、俺の気持ちを気付いたな」
『…えぇ。そのようね』
「でもなんで、十代はそのことを避けるんだろ?」
『ねぇヨハン。知っている?』
ヨハンと足を並べ、アメジストは彼を見上げる。
『変わることは、何より恐ろしいモノだよ?』
「――――…そうだな」

ヨハンも恐れていた。
彼は自分が男を好きになった、その『変化』を認めることができないから、色んなことを起こしたし、十代にも酷い言葉を言い出した。
『変化』があることは、悪いことばかりではないし、いいことでもない。
ただ、その『変化』、その『変わり』を認めるには、勇気が必要だとヨハンは思う。
変わりたくない人はたくさんいるからだ。
「アメジスト」
『なに?』
「俺って、一体何者なんだ?」
『私が知っているとでも思っているの?』
「…さぁな」
『……ヨハン。貴方は貴方だわ。どんな時も、貴方の魂…こころは私たちが知っているヨハンよ?』
「俺は俺。…そうか。どんなときでも、俺は俺だ」
どんなに『変化』があっても、それは俺自身のことで、俺だけのモノ
『十代には、言わない?ヨハンの気持ち』
「いいや。いずれは言うよ」
目の前に楽しそうに話す少年を見つめ、ヨハンは緩やかに口元を上げる。
「十代が自分の『変化』を認める、その日まで」

―――俺は、待ちつづけ
彼を守る。

『頑張ってね、ヨハン。でもその前に、女の子との関係を綺麗にしてほしいわ』
「うっ…わーったよ」
「あ、ヨハンー!」
自分に向かうヨハンを気付き、十代は嬉しそうに振り返る。
「明日香もトメさんとこにいくってさ、一緒にドローパンを買いに行こうぜ!」
「お前な…調子に乗るなこの鈍い男!」
「ういててててヨハン顔いてええー!」
「どうせ俺の奢りにするつもりだろうか」
「えへへだってヨハンは奢ってくれるんだからっいてぇー!」
「このヤロォ〜」
元気でケンカする二人の少年。彼らの喜び顔を見てくすりと明日香は微笑し、
悲しげに口を上げた。
ヨハンの後ろにいる、宝玉獣達と共に。
『運命は、残酷だね。』
『…あぁ』
再び繰り返される歩み。青髪の少年・ヨハンと紅茶髪の少年・十代。
そして、紅に繋がれた・一人の少女。



――――…
再び開かれた重い扉。
無力で顔を上げ、光を覗く紅茶髪の少年。
青髪の少年はゆっくりと進み、手を伸ばし、鉄鎖は小さな音と共に解けられる。
思わず、琥珀の眸は青を見た。
「もう、いい」
青髪の少年は口を開いた。
「もう、いいんだ。お前の拒みは認めよう」
「………」
「その代わりに、俺もお前に一つの願いを望もう。―――俺に自由をくれるなら、俺は最期までお前を守る」
「……」
「お前と共に、覇王と戦いに行く」
「…誓う」
緩やかに立ち上がり、少年は青を見つめる。
十代は、言葉を伝わった。
「お前に自由をやる。オレの、―――『覇王』の半身であり・『闇』の力の鍵であるオレ自身の命を、ヨハン」
――――お前に。

お前に伝いたい、十代
この平和の時代で、あの頃に伝えられなかった気持ちを
もう一度。

Our Allegro
――…再び平衡する晴れやかな第五歩
(新たなバランス)

Fin.

アニメ3期・ヨハ十『Our Allegro』
――…再び平衡する晴れやかな第五歩

拍手連載「Our Allegro」は終わりました。ここまで付き合ってくださって本当にありがとうございます!
前世の設定も入っちまってごめんなさい…いつかちゃんとしたストーリーを出します;前世設定の話…;;;
ネタバレもしくは大体の前世設定のあらすじなら、オフ本の「The Last Rondeau 〜サイゴの輪舞曲〜」 に話の流れと一緒に入っています。あ、でもオフ本に興味ある方は少ないと思うので、知らない方も多いし、その設定に興味ない人も…多い気がするね;

今回のヨハン自覚編はここで終わります。続き「一瞬のワルツ」はできるだけ早めに再開します…うああああああいつもそれの続きが気になるってメッセージがいただいているのに申し訳ない…OTL
っというより、ここまで付き合ってくれる方がいてくれてよかった…今回の拍手、つまらなくてごめんなさい…
本当にここまで付き合ってくれてありがとうございます。

ありがとうございました!!


2009.12.01