光は覆い被さっていく。
腰のケースに置いたデッキは空に浮きながらヨハンの周りを包み、突然にカードは光を輝かせて他の者は思わず目を閉じる。
だがヨハンは瞳を伏せず、まっすぐに石版を見つめた。
まるで視線に応えているように石版は少しずつ光を表していき、カードを照らす。
彼は石版に近づき始めた。
「!ヨハンボーイ!」
頭に伝えず、まるで聞こえないみたいにヨハンは石版へ向かいながら手を伸ばす。
一瞬の時だった。
指先が石版に触る瞬間に光は一気に強くなり、光は指から腕に巻き込みながら全身を抱きしめ、
白き翼は背中に開いた。
―――早く目覚めろ!この馬鹿兄上!
(聞こえる)
この石版の、記憶と想いは伝わっている。

露台から世界を通して全てを見渡る若き竜王の青年。
元気で楽しい笑顔の人々。
其々の平和を守る、七つ色の輝き。
新たな命を待ち続ける王の妃。
そして竜王と同じく、空の向こうを見つめるもう一人の青年。
風の中に舞う紅茶色の髪は銀の眸に映る。

まるでビデオのように石版の記憶はこころに流れ込み、奥の魂と共鳴している。
(これは、夢の続きの世界)
自分の故郷に戻り、平和を世界に与えた若き竜王。
だが安らかな平和は次の映像で破られていた。
―――兄上、…っ?!
弟の声と共に目の前は真っ赤な残酷。
紅い液体に濡れた部屋に人々は血に塗られ、七つ宝石はすでに光を失い亡くなっている現実。
中にお腹を守りながら刺された女性もいた。
―――王妃様ぁ!
血の海に立つ青年は塊から剣を抜き、かつて美しい銀色に輝いていた刃は紅く塗り込まれている。弟の瞳に映るのはすでに青眸を持つ若き竜王ではなかった。
『闇』に操られた、全てを破壊する黄昏の目だった。
(竜王が自らの手で故郷を滅ぼした、あの日だったか)
そして次の映像で赤く濡れた弟の姿。
―――…兄上、果たせて行ってくれ!
自分の怪我を気にせず、弟は腕を上げながら自分の血を集めていく。
―――これが竜王としての最期だったら、ならばこれからの貴方はただ一人の者だ!…行ってくれ

十代との約束を果たしに行け!

「なんだよ、エドの奴…」
思わず少年はクスっと笑う。
「…やっぱり俺達は兄弟だ、弟よ」
浮くカードに手を開き、光はゆっくりと小さくなり、翼の羽と共に消えていく。
「ペガサス会長」
光が無くなり、腕を下げてペガサスはヨハンの方向を見る。
だが少し違う感覚がする。
「今ここで、レインボードラゴンのカードをデザインして貰えますか?」
背中から不思議な気配が感じる。音声は先程の少年と同じなのに、何故か口調はより落ち着いて、大人のような感覚。
「ハイ。それはできマスガ…」
「ではすぐにお願いします」
懐かしく石版の表を撫で、ヨハンはゆっくりと顔をペガサスに上げる。
「デザインが完成した後、俺はこの石版を破壊します」
「っ?!」
銀髪の大人は絶句する。
「この石版の中に、十代を救えるモノがあります」
青色の瞳はかわっている。いつも明るく輝いている眸はより鋭く、でも優しく、切なく、落ち着き、そして何かに愛しいと伝える目。
ペガサスはその目を知っている。
かつて、愛する者を視ていた自分と同じ瞳だった。
「『闇』を吸収できる、竜王の…『俺』の弟の血の石は中にあります」
目の前はヨハン・アンデルセンではない。
かつて精霊界を統べた竜王、一人の人間に全てを賭けた青年の心だ。

(十代)
(今度こそ、お前に伝える!)

 

恋歌と詠唱・ の七章目
約束の行方

 

真っ黒な夜に人々の悲鳴と倒れる音が聞こえていく。
静かな海の音なのにうるさく感じて、万丈目は走りながら一緒に居る精霊に声を掛けた。
「おじゃまグリーン!おじゃまイエローからの連絡はなかったのか!」
「無いんだよぉ〜アニキ!」
「ちくしょ!役に立たない奴だ!エド、カイザー!あっちはどうだ!」
『駄目だ!』
通信機から二人の声と共に走る音が聞こえる。一緒にいるのだろうか。
『残念だが、学園でまだ意識が残っているのは僕達だけだ!さっきは翔と剣山を見かけたが…』
「アイツらは無事か!今はどこにいる!」
『それは、』
『翔はもう倒れた』
突然声は亮に変った。
海砂の上を走る足は重い。
『俺達が翔を見かけた時は翔が倒れた所だ!気をつけろ、万丈目!決してあいつに触らせるな!』
「どういうことだ!」
思わず足を止める万丈目。
おじゃまグリーンは恐れながら彼を見た。
『いいか。何があってもアイツと距離を離れるんだ!俺達は見たんだ!十代に触れた者は、』
プチっと通信が切れた音。
突然の冷たい温度に頭ごと振り返る瞬間におじゃまグリーンの声は聞こえたが、
「振り返っちゃ駄目だぁアニキィー!」
すでに動いた万丈目は後ろを振り返り、一人の顔が目に映る刹那に、
「じゅっ」
視線は真っ黒に覆い被された。

「…あと少し」
甘いお菓子を食べているように触れた指先を舐め、紅き髪糸の下に口元は上げる。
「あと少しだ」
まるで翼のように足元の影は大きく分かれた。
(早く来い。生まれ変わった竜王よ!)

 

「万丈目!オイ万丈目、どうした!」
突然通信は切れ、数回を呼んでも向こうから切られた音しか耳に届かない。舌打ちしながらエドは通信機を外した。
「まさか十代は万丈目とこに居たのか」
「可能性は高い。とりあえず走れ」
「あぁ」

 

ヨハンとペガサスが石版の居場所に向かうと同時に、学園の生徒達は倒れた。
始めに一人、二人…二時間以内に次々と倒れていく生徒に鮫島校長は疑問を抱き始める。生徒達の命は問題ないが、何故か彼らは薬を飲まされたように意識はない。
生徒達が倒れたところは様々だ。ときに学園、ときに森の中、ときに寮で発見されている。学園の廊下のカメラを調べると、思いもつかないことが映っていた。
カメラに生徒達の倒れた瞬間は写っている。だが驚くところはそこじゃない。問題は倒れた生徒達の共通点だ。
倒れた時に隣に必ず同じ人が映っていて、その人の隣の生徒は必ず倒れる。
紅を意味するレッド寮の制服と紅茶色の髪の少年。思い当たる人は一人しかいない。
だが何かが違うと感じた。
カメラの視線に気付いたのだろう、彼は振り返ってカメラに向かって顔を上げる。
―――少年の瞳は琥珀色ではなく、金色だった。

万丈目達はその映像を見ていた時点で既に遅かった。
気付いたら彼とエド、亮以外の生徒は倒れ、剣山と翔から十代の居場所の連絡があってエドと亮はすぐにレッド寮に向かったが、視線に入ったのは丁度、剣山と翔が倒れるところだった。
ゆっくりと冷たい指先に覆い尽くされる水色の瞳は静かに目眩して、目が完全に伏せた同時に翔は倒れた。
「…貴様達からも貰おうか」
見下ろすように黄金の目はエドと亮に向かい、冷たい温度と共に熱い気配が感じる。
殺気だ。
「貴様らの力は、我の『闇』の力となる!」
危険を感じてエドと亮はすぐに逃げ去った。何度も触れたところだが、二人はなんとか逃げた。

 

もっと早く気付くべきだった。
十代が元に戻ったことで彼らは事件が終ったと勘違いしていた。『闇』は消えたと甘く考えた。
でも違った。
彼らは忘れていた。竜王の最期の時の話。
確かに竜王は『闇』に操られ精霊界を滅ぼし、人間界に落ちて亡くなったが、『闇』は人間界に現れていないため、竜王と共に亡くなったと思った。
だが違ったようだ。
よく考えてみたら、『闇』が竜王と一緒に亡くなった確証はない。人間界に「ある一人」がいるじゃないか。
元『闇』の器・竜王の最も大切にしている人
――『十代』。
あくまで予想だが、もし竜王は自分が亡くなると知った時、彼は『十代』に会いに行ったとしたら?或いは、竜王の体内の『闇』が器のところに戻りたいなら?

ならば『闇』が、『十代』の中にいる可能性はゼロじゃない。
つまり、今の遊城 十代の中に『闇』はまだ眠っている。だから『闇』はまた目覚めた。
「では、」
少しスピードを落としてエドは肩を並べながら走る亮を見る。
「レインボードラゴンとあのユベルは『光』と『闇』の力の証ってことか?」
「…そうだな。しかし、遊城 十代が『ユベル』のカードを手に入れる前に『闇』の力を使ったことはない。ただ十代ではない『十代』になるだけだ」
「器が居ないと力は現さないってことか…でも何故、力を石版にして…っ」
ハッと気付く。
急に足を止めたエドに亮も足を止めた。
「どうした、エド」
「…じゃあアレは一体誰が残したんだ」

竜王の話を後世に知らせた石版。だが同時におかしく感じる。精霊界が滅ぼされた時、残された精霊も少ない。
竜王が人間に恋をし、人間のために『闇』を捧げた。だがそれは決して普通に精霊界の人々に知らされる筈がない。それを知らされたら、間違いなく竜王を竜王として認められない。つまりこれは秘密にされた事だ。
ならば竜王の恋と、竜王の最期を知っていた者は誰だ?
「もし生き残りが…、竜王と親しい者が、精霊界が滅ぼされた時に残っていなければ、石版は存在しない筈だ!」
「っ…!」
ふと前に、万丈目が言っていた発想を思い出す。
『…だが、弟である『エド』は竜王の気持ちに気付き、興味深いと思った彼は人間界に『十代』に会いに行き、兄と同じく彼に恋をした!だから今の時代のエドとヨハンも前世の『十代』のことを覚えてい…』
エドは精霊界の事件について何も覚えていないはずだが、彼ははっきりと十代の性別を言える。
(まさか)
(まさか)
「…―――竜王の弟は生き残った…?」
「やっとここまで思い出したか、竜王の弟」
二人は振り返る。
紅茶色の髪はいつの間にかまるで血に塗れたように紅く舞い、かつて宝石の色だった琥珀の瞳は王者の金色に塗られている。
「俺は忘れた日はいない」
元気で清らかな音声は酷く低い。
「貴様の邪魔が無ければ、『闇』は竜王の光を完全に食い込むことができた」
口調と目と気配もまったく記憶と違うのに。あの顔、声、そしてあの姿。
…十代と同じだ。
「お前は誰だ」
亮の発言に少年は無表情のように語る。
「貴様らが言っていた『ユベル』…『闇』の力の主。名は、覇王 十代だ」
「十代はどこだ!あいつを返せ!」
「…貴様、」
何故か覇王はエドに眉を寄せた。
「貴様ら兄弟は本当に似ている」
「?」
「あいつにも同じことを聞かれた。俺と戦っている最中にずっと『十代を返せ!』とずっと『十代』の名を呼んでいた。馬鹿な者だった、あいつは」

高速で島へ向かうヘリ。

「何だと?」
「アイツは甘かった。俺と『十代』を殺せば俺は転生するまで目覚める筈はないのに、アイツは俺を封印する道を選んだ。一人を救うために、お前達の世界を犠牲にした。…と、記憶がない貴様に言っても無駄のようだ」
「ほぉ…ならばこっちから発言させてもらおうか」
エドと覇王の間に亮は一歩を進む。
「何故貴様は十代の…『闇』の器に戻っている」

通信機の「反応なし」を見つめるおじゃまイエローに青髪の者は優しく彼の頭を撫で、落ち着いてと笑顔を咲く。
目的地に着くと知り、銀髪の男は青髪の者に頷く。

「俺がやったんじゃない」
「?!」
「…そうだ。『闇』は確かに竜王の体を操って精霊界を滅ぼした。あの時、竜王の弟は自らの力で竜王を救い、竜王の体の『闇』を抑えたが、代わりに竜王は重傷になった。竜王の弟も死ぬと思ったが…まさかあんな状態で生き残ったとはな」
「竜王の弟が竜王の『闇』を抑えた?」
「なら何故竜王は人間界に向かった!」
「貴様が言ったからだよ、竜王の弟」
「僕が?」
「おかしな兄弟だ。貴様は兄と同じ感情を十代に持っているのに、自ら兄に譲った」
「何のことだ!」

「―――これが竜王としての最期だったら、」
「「!」」
遠くにヘリの音が伝わっていく。
「ならばこれからの貴方はただ一人の者だ」
ゆっくりと地面に降り、ヘリが離れて微かな草の揺れに青髪の者は三人の前に立ち上がる。
「行ってくれ、兄上。―――普通の一人として、十代との約束を果たしに行けっと、」
信じられないように銀色の両眸は見開いていく。
「弟が俺にくれた最後の言葉だ」
「ヨハン」
「ヨハァ…っ?!」
(この、感覚)
突然頭に痛みが閃く。
目の前の者は確かにヨハン・アンデルセンの姿だ。
だがあの口調と、普通の彼と違う気配。優しい碧い青眸の奥に鋭く感覚は感じる。
いつもの制服姿ではなく、どこかに民族っぽく古代に見える服装。酷く懐かしい感覚が襲ってくる。
エドはこの姿の者を知っている。
「…兄、うえ…」
「……竜王」
目の前の者はヨハン・アンデルセンではない。
ヨハン・アンデルセンの記憶を持つ、かつての竜王・ヨハンだ。

「これは驚いた、竜王。まさかあの頃と同じ姿を見られるとは…」
「『十代』を返せ」
覇王の反応を無視して『ヨハン』は彼に手を伸ばす。
「俺達の戦いはもう終ったんだ、覇王」
「…断る!」
返事と共に蔓草は周りの地面から飛び出し、黒い影に巻きながら蔓草は『ヨハン』に向かう。
「もう、終ったんだよ。覇王」
光は現れた。
『ヨハン』を襲う前に閃光は表して蔓草を切り、次の瞬間にもう一つの光は覇王に突進し、「ちっ!」と舌打ちしながら彼はすぐに避ける。
先ほど立っていた場所は爪に切られ、跡が残された。
「いけ!」
後ろから自分に接近する影に覇王は手を開き、反応しているように蔓草と黒い風は影に向かったが影は避け、蔓草はエド達に向かった。
『大丈夫ジャ』
「?!」
頭に声が届くと同時に周りから緑の光は現れ、まるで宝石の中のように二人を守っていた。
「精霊の力?」
「……なるほど」
其々の影は覇王を襲う景色。素早く動く影の色彩を見ながら亮は分かったように口元を上げる。
「宝玉獣だ」

 

後ろに回りながら影の攻撃を避け、距離を離した覇王は目の前の景色を見て思わず汗を滴らせながら口元を上げる。
青髪の者の側に居て彼を守る七つの光。
アメジスト、トパーズ、サファイア、コバルト、エメラルド、アンバー、ルビー…
以前の人の姿と違っても光は以前のままだ。
主を信じ、主を守り続く者達。
「レインボードラゴンの力…精霊としての力を手に戻れたか。いいのか?貴様と十代も人間になるために精霊の力を分けたんだろ?」
「?」
「精霊と人間は違う種族だからだ」
疑問を抱くエド。後ろの彼に『ヨハン』は説明を始めた。
人間と精霊は違う生きもの。例え精霊が亡くなり転生しても人間になれない。理由は、精霊の魂の中に人間として存在できない『力』があるからだ。
もし精霊が人間に転生したければ方法はただ一つ。精霊として意味する『力』の部分を魂から分ければ、精霊は機会があれば普通の人間として転生できるかもしれない。
「皮肉なモノだ」
覇王の言葉にヨハンは目を細める。
「死ぬと知り、最期にお前は『十代』に一目会うために人間界に向かった。お前は『十代』に会えた後に死んだ。だがお前は知らなかった。『十代』がお前の死によって記憶は戻り、お前のために自ら『闇』を自分の体に戻し、お前の後を追ったことを」
ギュッと拳の指先は肌に食い込む。
「…だが、貴様らは同じ事を願った」

人間になろう。
身分や力も要らない。ただ普通の一人として生きたい。お前に会いたい。お前と一緒に、同じ世界に居たい。
「人間になろうと。…貴様らの願いは叶えられた。そのため、『十代』の闇・ユベルとお前の虹の竜は分けられ、姿を石版の中に封じ込んだ。
――――そうだ。これは運命だ、竜王!」
足を地上に踏むとまるで起動されたように蔓草と黒い風は足元から少年を包みながら胸の位置に集め、
心臓を通して背中に翼は開いた。
「再び俺達の体に戻った『力』は、俺達に戦わせる運命の道だ!」
いつの間にか暗く塗られた雲は空を覆い尽くし、足元から地上に入り込む蔓草と共に島は揺れ、すると地面に流れる黒き風は嵐となりまっすぐに飛び上げ、雷は嵐に落ちた。
呼ばれたような空の叫びに大きな角柱は嵐から現れ、次々と雷は七つ角柱を通して彼らの周りを回った。
「!これは…」
亮は角柱に覚えがある。二年前に彼と十代達はその七つ角柱のために『闇』のデュエルをしていた。
まさか!
「覇王!貴様は三幻魔を復活させるつもりか!」
「なっ…!」
名前にエドは絶句する。
神のカード『三幻神』と対敵し、地上の全ての力を食い込むことができるカード・『三幻魔』。
(あれを目覚めさせることか!)
ヨハンはまゆを寄せた。
「俺の『闇』の力は宇宙へ飛ばされたが、俺の中には、十代が石版から与えられた力が残っている。目覚めよ!三幻ま…」
「俺は言った筈だ、覇王」
覇王の言葉を切ったヨハンは手を心臓に置き、ゆっくりと、
「俺とお前の戦いは、すでに終った」
腕を上げた。

少年を守る七つ色の光は少しずつ大きくなり、やがて宝玉獣の精霊…動物から人の姿になり、覇王の前に立ち上がる。
頑張って、ヨハン
頑張れ
ワシらはいつでもここにいる
そうだぜ
後ろのヨハンに宝玉獣達は微笑し、アメジスト、サファイア、エメラルドにトパーズ、一人ずつ再び光になって角柱へ向かっていく。
お前は俺らっちの誇りだんでぃ
見せてやれ
ルビィー
コバルトにアンバー、最後にルビーはヨハンの視線の高度に浮き、彼に手を伸ばす。
〈だいすき。だいすきだから、がんばって
よはん〉
頬を抱きしめながら子供は額に口付けを贈り、笑顔を咲けてルビーは光となり最後の角柱に飛び込む。
地面は再び揺れ始めた。
七つ光に入り込まれた角柱の部分から新たな光が現れ、強くなっていく光は角柱を包む雷を巻く瞬間に光は角柱を抱きしめ、
次々に虹色の光束は空へ飛びあがった。
「美しい…」
空に飛ぶヘリの中で地上を目撃するペガサスは思わず見惚れる。
(それが伝説の宝玉獣と彼らの主・レインボードラゴンの力)
「くっ…!竜王、貴様!」
足を進める。
「俺はお前と戦うために目覚めた訳ではない」
「なんだと?」
「俺はもう竜王ではない。お前も、もう覇王ではない」

時は流れていく
俺達は過去の者で戦いはすでに終ったんだ

「俺は、約束を果たしに来たんだ。
―――「『十代』」。」
ドクンっと少年の目は大きく揺れる。
心臓は再び動いていく。跳ねてゆく。
反応する。
「呼ぶな…」
唇を噛みながら黄金の瞳は怒りに塗れ始める。
「『十代』」
「呼ぶな!…覇王ではないだと…?」
強く拳をギュッと締めながらゆがんでいく。
「ならば俺は何のためにここに居る!俺は何のために目覚めた!覇王ではないなら、何故俺に意思を持たせた!答えろぉ、竜王・ヨハンっ!」
答えは最初から知っているんだろう?
お前は彼だ
「『十代』」
もう一人の彼なんだよ 覇王・十代
「よぶな…」
水の奥に波は広がっていく。
かつて果さなかった約束
かつての罪でお前を時間に縛らされた
「『十代』」
「――――呼ぶなぁああぁあ!」

手を彼に振ると同時に黒き風はヨハンを襲っていく。
少年は口元を上げる。
(お前はきっと俺を馬鹿というだろう。『エド』)
〈今更だ、兄上〉
まるで隣にかつての弟が立っていて思わずクスと笑い、青髪の少年は自分を襲う黒き風に向かい、
「『十代』」
黄金の瞳の奥にいる琥珀色の眸に向かい、
今はお前に  自由を
笑顔と共に両腕を上げた。

「『ただいま』」

水の中に少年は目を開いた。

 

 

――――…ずっとずっと、彼は暗いところに独りで過ごしていた。

父は『闇』のために亡くなり、母は彼を人間界に捨て置いて、人間は彼を恐れて『バケモノ』と呼んでいた。
人間でも精霊でもない彼に居場所なんてなかった。
彼は独りだ。
『闇』は強くなっていく。彼は復讐したくなった。自分をこんな目に遭わせた精霊界、そして彼を拒んだ人間界。
その頃、彼は青髪の少年と出会った。
初めて出会った精霊の竜族。少年の力を奪い、少年を食い込めようと彼は考え、わざと『闇』を少年に近づかせた。そして予想通り、あの場で少年を助けた彼は少年の信任を得た。
彼は考えた。完全に信任を得た時に食おうと、少年を自分と一緒に暮す提案をした。
だが、突然の事件で彼が誘拐されるところを少年は彼を救った。人間をころした罪を受けながら少年は彼に言った。『ただいま』って。
あぁ。彼はただ気まぐれで、始めに少年に「いってらっしゃーい」って言っていたのに、逆に彼は救われた。
『…俺は、お前を護るんだ。十代』
彼は助けられた。たった一言で、彼は『闇』を抑えることができた。
初めて、自分を守るって言ってくれた人だった。
彼の『独りだけの世界』は変り始めた。

 

いつの間にか彼は本気で少年と暮して、家族のように時間を過ごしてきた。
『闇』は彼の感情によって爆発するモノ。だが誘拐され、少年に救われてから彼は一度も『闇』を表したことがない。
……ただ、時々少年は金のために出かける。少年は戻ってくれるか、それとも戻らないか、彼の心配はいつも『闇』を表せていた。
でも、少年が帰ってきた日に彼は必ず『闇』を抑えることができる。
また少年に会えて、また少年と一緒に居られるなら彼は一生も『闇』に苦しめられてもいい。
彼はただ、失いたくない。

(だからいつになっても待ち続ける)
水の表に光は少しずつ奥へ届いていく。
ゆっくりと少年は水の中を泳ぎながら上へ手を伸ばすと、
(お前に伝いたい言葉があるんだ
ヨハン)
一人の手は彼を引っ張り…

 

…――――琥珀眸の少年は目覚めた。
「『ヨハ、ン…』」
まるで水のような、ヨハンに襲う黒き風は一言によって停め、連鎖しているように次々と水に変えて地上に降る。一つ一つ落ちてゆく雫は涙のようだ。
一言の衝撃で地面に座り込む少年にヨハンは彼の手を握る。
迷子にならないように、離されないように。
顎を上に向け、二人は唇を重ねた。

まるで雨のように、静かに体の黒き風は奥から消え去り、眸の涙と共に黄金は少しずつ流され、琥珀色の瞳は再び輝きを表す。
血の石は消えた。
「『…おかえり、十代』」
ゆっくりと離れて、ヨハンは優しく彼の泪を触る。
「『あ、ただいまの方が先だっけ?ゴメンな?』」
「『…ば、かやろ…』」
少年の苦い笑顔に紅茶髪の少年は彼の服を掴めながら引っ張り、ドンッと二人の頭は打ち合った。
「『いてててぇ…何すんだこのば、』」
「『この馬っ鹿野郎!』」
次の瞬間に震える音と服を掴む指は伝わっていく。十代は顔を伏せたまま叫んだ。
「『オレがどれだけ心配していたか分かってんのか!あれから何日間、何ヶ月、何年間の時間が流れたと、思ってんだ!もう、…お前は戻ってこないって…』」
思ってしまったじゃないかよ…っ!
「『……ゴメン』」
「『卑怯だぞ、ヨハン……あの言葉を言うのはオレだって、約束しただろ…っ?』」
「『…あぁ、そうだな』」
ゆっくりと十代の顔に両手を伸ばし、優しく自分の額に彼と向かう。
お互いの眸を見つめながら小さく笑う二人。
(終れよ)
(…あぁ)
そして、伝える。
「『たたいま、十代』」
かつての頃に果たせなかった、約束の行方。
「『おかえり、ヨハン』」

…やっと、果たせた。

 

共に新たな世界へ向かうように、二匹の竜は少年達の体からゆっくりと現れ、お互いを守るように白きと黒き翼は開き、
空へ向かい 消え去った。

全てを取り戻すように。
全てを元に戻すように。
いつの間に空を覆う雲はなくなり、嵐が過ぎたみたいに優しい太陽は空を照らし、包む光が消えて角柱は静かに元に戻っていく。
そして、新たな一日の未来は目覚める。
『…いって…』
ポケットの通信機から声が聞こえ、思わず取り出す。
万丈目だ。
「!万丈目、意識が戻ったか!」
『はぁ?何のことだ…ってこれは万丈目グループの通信機じゃないか!貴様!何故持っている!』
「!あ、アニキの声だわぁ〜アニキィィー!」
『?!何でおじゃまイエローの声もしたんだ!貴様ら、何をした!』
エドと亮はまゆを寄せる。
(この事件についての記憶は消されたのか)
『オイ、エド!早く答えやがれ!』
「説明はあとでしますから少し落ち着いてください、万丈目先・輩」
『き、気持ち悪い口調をするなぁ――――!』
段々元気な気配が感じられ、ペガサスは再びヘリを地面に近付かせて下りる。
静かに草の上に眠る少年達に近づく。
先ほどの落ち着く感覚は無く、まるで子供みたいに青髪の少年と紅茶髪の少年は手を繋いで眠りにつく。
「…お疲れ様デース」
二人の頭を撫で、周りに乱れ散るカードを片付けながら隣に置く。
「今度はまた、新たな姿で会えマショウ」
大切に手のデータを握りながら、ペガサスは小さく笑う。
「だからそれは……、…」
何かを気付いたようにエドは空に顔を上げる。
始めに驚いたが、すぐに彼はニヤリと口元をあげ、
「嫌だよ。忘れるかどうかは僕の自由だろう?」
空へ笑顔を咲いてゆく。

静かに金の眸を伏せ、彼は再び眠り始めた。
水の世界の奥へ


恋歌と詠唱・ の七章目  
約束の行方
たたいま、十代。  …あぁ、お帰り。ヨハン