昔、人間界の王族と精霊界の王族がいました。
人間界の王は世界王、精霊界の王は竜王でした。二人の王はお互いの平和のため、『闇』を封印する飾りを作りました。『闇』を二つに分け、飾りの腕輪と鈴に王達は封印を成功しました。
腕輪は世界王に、鈴は竜王に預けました。
二つの世界は平和を続けました。
でも、人々に知らされていない事がありました。
女性の竜王と男性の世界王は恋に落ちました。
前竜王との間に二人の息子に命を授かり、七つ宝石に宝玉獣達の命を授かった竜王は世界王に恋し、十番目の命が生まれました。
その子は男でした。竜王の十番目の子として、二人の王は子に『十代』と名をつけました。
でも幸せは続きませんでした。
この恋は、いけないモノでした。
精霊と人間の間に生まれた子は例のないことでした。『闇』を封印する二人の王の間に生まれた子はその『闇』に宿られました。
十代は『闇』の器になりました。

 

いけない関係を作ってしまった竜王と世界王の心に『闇』が現れ、その『闇』は十代の心に流れ込み、彼に力を与えました。『闇』の力は強くなりました。
封印を続けなくなった世界王は倒れ、『闇』に食い込まれました。竜王は自分の全ての力を使い、世界王が残していた腕輪を十代に付け、『闇』を腕輪に封印を成功しました。
でも、封印はきっと長く続けられないと竜王は知りました。
『闇』の器である十代の『闇』が強くなれば、いずれ封印は破ると分かりました。
前竜王を裏切り、人間との子を生んだ事実を精霊界に知らされることが出来ず、『闇』を怖がる竜王は十代を人間界の森に残し、腕輪と鈴の力で森にだけ『闇』に食い込まれないにした竜王は精霊界に戻り、人間界と繋ぐ次元の扉を閉じました。
でも、竜王は気付きませんでした。
前竜王さえない、竜王しか持ってない次元の扉を開く力は彼女の息子・ヨハン以外に、もう一人の子がその力を継ぎました。
皮肉なことに、竜王に愛されていない『闇』の器・十代は彼女の次元を開く力を継ぎました。
だが、精霊界に戻った竜王はまだ封印の義務を続けているため、十代の『闇』の力はずっと腕輪に閉じ込められました。

――――ある少年に、会うまで。

「なぁ、ヨハン」
自分の上に眠るヨハンに少年は彼の髪を撫で回す。
サラサラと光に透る色の髪。まるで空を触っているようだ。
「『…もう、会うことはないだろうな』」
(オレはもう表すことができない)
(悲劇はきっと繰り返すだろう)
緩やかに近づく。
触るだけに唇を額に捧げ、少年は優しく笑顔を咲く。
「『……お前は怒るかな?』」
(じゃあな?ヨハン。こんどこそ、オレを…)
ゆっくり、静かに自分の眸を触り、少年はまゆげを下げて閉める。
…大きな黒き翼と共に闇の奥に黄金の両瞳は目覚めた。

 


恋歌・ の五章目
光の竜王・闇の覇王

 

一日振りの人間界は既に少年が知っていた世界ではなかった。
彼の故郷と違う青色の空は真っ黒に塗り込められ、其々のところに臭い煙は現われ空へ飛び上げ、鳥達は逃げようと悲鳴が響く。
微風に血の匂いがした。
次元の扉を閉め、少年は森に降りてゆっくりと歩く。
一歩ずつ、一歩ずつ森の奥に進む。太陽の下に輝く緑の葉と草はいつの間にか生気を失い、枯れた音は足の下から耳に届く。
静かに少年は剣を握った。

〔人間界に戻るだと?!兄上、何故!〕
静かに竜王の部屋から出たヨハンは告げた。人間界に戻ると。
〔…『闇』の正体が分かった。母上から全ての話を聞いた…俺の不注意とはいえ、相手に次元の力を奪われたことは俺の責任だ。責任者として俺は人間界に戻り、最後の片付けをする〕
〔!ならば兄上、僕も一緒に行こう!僕の力があればきっと兄上の役にた、〕
〔エドと宝玉獣達はここにいろ〕
氷のような無感情の口調。不安げに全員はヨハンを見た。
〔俺自身に、片付けさせてくれ〕
もう択べる権利はない
これは俺が、彼に

唯一できることだ

 

枯死された樹と木の間から森を抜け、少年は足を留める。
数個の嵐は地上と空を繋ぎながら廻り、まるで王の迎えるように嵐の黒風は周りのモノを潰し、緑と建物の破片は空へ飛ばす。
嵐の奥に一人の姿が表れた。
「―――お前を待っていた。竜王の継承者」
空を覆う大きな黒き嵐は段々小さくなり、暗い風は守るように奥から現れた姿をゆっくりと彼の腕を抱きしめて鎧に変更し、少年は微笑う。
紅い匂いをする風は紅茶色の髪に触り、血に塗られた髪糸は舞っていく。
青髪の少年はただ静かに手にいる剣を握り、
「名前を言え」
目の前の少年を睨んだ。
「我は『闇』の器―――人間の世界王と精霊の竜王の間に生まれた子・全てを支配し破壊する者。」
口元は大きく上げ、王を意味する黄金色の目は輝いていた。
「竜王の十番目の子。名は――覇王・十代。」
「吾は竜王の子であり、精霊界を統べる新たな竜王・ヨハン。」
ゆっくりと腕を上げ、剣の刃を通して真っ直ぐに相手を見つめる。
「平和を潰す『闇』よ。貴様を、」
「っ?!」
目を瞬く瞬間に相手は消え、まだ反応できない間に紅と青の糸が視線に移りこみ、
青髪の少年は後ろから剣を振る。
「―――ころす!」
紅髪に届く前に銀色の刃は一つの刀と打ち合い、腰のもう一つの刀を抜きながら覇王は体を回して相手を斬ると同時にヨハンは足を出し、体を空に飛ばして距離を離す。
が、足が地面に着く一瞬にヨハンは再び覇王へ跳ねた。
突然大きくなった画面に覇王は本能的に刀を上げる瞬間に剣は彼を襲い掛け、刃と刃の間に響きの音は広がる。
「ほぉ…!驚いた、竜王・ヨハン!」
剣と刀を握りこみ、お互いの力によって刃は震えていく。
覇王は笑った。
「本気で俺を殺すか?お前は自分の大切な人を、自分の弟を殺すつもりか!」
「お前は俺の弟なんかじゃない」
突然より強く力は剣から現れ、段々腰を下げられていく覇王は「ちっ」と舌打ちしながら片手の刀をヨハンに投げ、相手がそれを避ける間に剣を離させ、下から彼を斬る。
…が、まるで予想された様にヨハンは一足を下げ、攻撃から逃がれた。
「ならばお前にとって『十代』はなんだ?」
再び距離を離れる覇王はヨハンに問おう。
揺れもなく、青髪の少年はただ真っ直ぐに相手を睨む。
「『十代』はもういない。」
剣を上げ、ヨハンは覇王の方向を指しだす。
「母上から聞いた時点で俺は既に知っている。完全に『闇』に食い込まれた者はもう二度と元に戻れない。中途半端の場合はエドの血があれば助かるが…十代が食い込まれた時は、俺が精霊界に戻る時だった。だから俺はすでに覚悟をした。
―――十代はもういない。俺があいつをころしたからな」
「自分のせいで弟を殺したってことか?…いいや。お前にとって『十代』は家族か?恋人か?」
「全てだ」
まるで鏡のように。
青い眸は金目を通して映って、黒い闇の奥にいるモノに伝い続け、ヨハンは語る。
たったひとりに。
「俺の全てだった。―――それを、アイツに伝えたかった」
もし俺がもうちょっとあいつの側に居れば彼の闇に気付いただろう。
もし俺が先にコバルトに連絡すれば俺は十代の側に居られるだろう。
彼を、その手で守れるだろう。
…もう、遅いんだ。

「なるほど。全て、か」
面白い玩具を見つけたように覇王はニコリと笑った。
「皮肉なことだ」
指先を刃に触りながら血を表せ、紅い液体は地上へ落ち、奥に流れ込む。
「何故『十代』の体内に『闇』が現れたか、俺を生み出したか、知っているのか」
突然、地震は地上に現れた。
小さな揺れは段々酷くなり、ヒビが現れる同時に影は地面から飛び上げ、裂けた土地に緑の植物が瞳に写る。
巨大な蔓草だ。
「答えは簡単だ」
腕を上げる瞬間に蔓草はヨハンの方向に突っ込め、剣の柄を握ってヨハンは駆けて数本の蔓草と擦れ違い、覇王に剣を振る。
だが、彼は微笑した。
「お前がそうしたからだ」
『ヨハン』
まるで少年がいつも見かける笑顔のように…

蔓草は刺した。
「――――くっっ…!」
動きが笑顔によって止まっても剣は確かに覇王を守る蔓草を斬った。だが斬られた蔓草はまるで鏡の様、覇王に攻撃しようとする場所で自分はそれを斬った同時、蔓草はヨハンの姿になって彼を刺した。
「おま…くぁ!」
次の一刻にヨハンの足を引っ張った蔓草は彼を地面まで投げ、大きな衝撃に唾は空へ飛んだ。
「気付いていないのか?竜王・ヨハン」
襲ってくる蔓草にヨハンはすぐに体を振り返って避ける。距離を離しながらヨハンは覇王を睨む。
刺された肩から紅い液体は流れていた。
「お前はすでに聞いた筈だ。十代は『闇』の器になった原因は、精霊と人間の禁断な関係だと」
「…あぁ。知っている」
ヨハンはすでに聞いた。
彼の母である竜王は人間の世界王と『闇』の封印を続いていたが、二人の間に子供が生まれたため、『闇』の力は封印を続く者…つまり、『闇』に接触した者から実体化する機会を得た。
だから、生まれた子は『闇』の器になり、『闇』を操る力を得た。
「もし器の体内の『闇』は十代が生まれる前から世界に現れている『闇』だとしても、それは力にすぎない。力のみのモノは魂などいない、つまり器はその気が無ければつよくなる筈がない。ならば、」
再び指先から血を地面に流せ、血はあっという間に円環となり、黒き光を表す。
「何故、『闇』は強くなった?」
「…何が言いたい」
「何故、お前の母が封印を続いているのに十代の『闇』は強くなり、封印から表した?」
「何が言いたいんだ、貴様は!」
「お前だよ、ヨハン」
まっすぐと覇王は少年を指した。
「十代はお前から二つのモノを得たからだ。お前の力と、感情」

闇に食い込められるところの少年を子供は助けた。
子供は少年が人間界に来た瞬間から知った。相手は次元を開く力が持っていると。だから子供は初めて森から出て、精霊界の少年を追い掛けた。
こどもの心は知っている。望んでいる。
あの少年こそ彼をこの世界に捨てた者に復讐する力が、手に入れると。
だから、口付けをした。
闇を除ける花びらと共に、相手の血を手に入れた。
全ては、相手の力を手に入れるために。

「何言ってんだてめぇ…」
食い込むように剣を掴めながらヨハンは叫ぶ。
「最初から、十代は俺の力を得るために俺を助けたってことか!そしてより力を手に入れるため俺と暮してきたんだと!数年の間に、全部の時間がそのためだって?!」
記憶の奥に残されている破片の思い出。
あの子との出会い、彼との生活、彼との食事、彼との対話、そして彼との別れ。
いつも自分に笑顔を見せてくれる彼は酷く辛い顔をした。口は笑っていても眸は泣いている。悲しんでいる。
あれは嘘だと、ヨハンは信じられない。
「いいや」
だが、考えは止められた。
思い出の少年と同じ声の音色にヨハンは顔を上げる。
覇王はただ、まっすぐに彼を見る。
「教えてやろう。俺は本来、十代が子供の頃に目覚める筈だった」
「?!」
「だが、止められた。……そうだ」
すると口はゆっくりと歪められ、無感情の金目は少年を睨む。
…怒りだ。
「貴様があの日、十代を助けていなかったら俺はもっと早く目覚めた筈だ!貴様が十代に余計なことを言わなかったら俺は目覚められる!俺は完全に十代を食い込むことができるんだ!」
憎しみに反応しているように地面から現れた黒き光は空へ飛びかけ、集めた光に覇王は手の刀を投げ、光は破片となった。
「…っ?!」
まるで空が何かに割れたみたいに破片の後ろに一つの空間が現れる。
あれは、
「次元の、扉」
ヨハンと同じ、次元を開く力だった。

「遊びはそこまでだ、竜王・ヨハン。もうすぐ、闇は精霊界の全てを食い込む」
覇王は笑う。
空間の向こうに見覚えがある景色。あれは間違いなく、ヨハンが知っている精霊界。
どこから現れる黒い影は世界を覆っていた。

が。
少年は、口元を上げた。
「それはどうかな?」
「?」
耳の鈴をゆっくり触り、清かな音色は耳元に届く。
「俺が、何の準備もなしに来ると思うか?」
「!」
ハッと気付いて覇王は後ろの空間の向こうを見つめる。
真っ黒しか見当たらないはずの景色に、七つ色は闇に輝いていた。

 

〔母上からの話しを聞くと、『闇』はもうすぐに封印を解く。俺の予想が間違ってないなら、まもなく精霊界に『闇』の影は再び現れる筈だ。
ルビー、影を発見したらすぐに全員に連絡してくれ。
コバルト、一部の部隊を全世界の精霊に連絡し、避難させろ。
アンバー、『闇』は必ずこの城と王都を潰すために来る、守備を頼む。
サファイアとトパーズは前線に向かい、アメジストは城に残り、女性と子供を頼む。
エメラルドとエドは、最後まで母上を見届けてくれ〕
〔〔っ?!〕〕
〔俺は人間界にいる『闇』の主を潰す…〕
〔待ってくれ、兄上…、!〕
兄の足を止めるエド。だが彼は相手の顔を見た瞬間に口を噤んだ。
〔…これは頼みではない。エド〕
手に居る虹の鈴を耳に付け、澄む音は沈黙の空間に響く。
王である言葉と共に。
〔これは、竜王の命令だ〕

 

闇から現れて影を消せっていく七つの光・虹の輝き。覇王はポツリとある名を吐いた。
「宝玉獣か」
「竜王の役目は精霊界の平和を守ること。俺はその義務を守り続く」
いつの間に肩の血は体を通して地面を塗り、赤くなった地上に少年はクスと笑い、手を上げた。
そのときだった。
先ほど覇王がやっていたように血は円輪となり、広くなっていく輪は二人の周りを包んだ。
「本当の姿を現せ、覇王」
ゆっくりと自分の眸を撫でる。
(あぁ。そうだ。彼は言ったじゃないか)
(そしてこの子も応えてくれた。…それで充分じゃないか)
王者のような厳しさではなく、地上の命を抱きしめる空の色の両瞳は優しく、紅き髪の少年を見つめた。
「ここは勝者しか存在できない結界だ。」
(ならば彼は果たすしかない。あの頃にはじめて、生まれた感情を)
涙は落ちて行く。一雫、一雫と。
紅き髪の少年は見開いた。

『よ、はん』
…俺は、お前を護るんだ。十代
落ちた泪は一瞬の光に抱きしめ、液体は石となり、七つの宝石は円の周りに飛びかける。
《竜王の涙は力を生む。―――前竜王の証・虹の鈴と新たな竜王の力・七つ虹の宝石を使い、吾・ヨハンは『闇』の覇王を封印する!》
白き翼は開き、光の中に七つ輝きと共に虹の竜は現れた。
《俺自身の体と魂…全てを賭ける!》
「…フ。面白い、面白いぞ!竜王!」
同じ背中の黒き翼を開きながら風と蔓草は覇王を抱きしめ、漆黒に塗り付けた双頭の竜は現れる。
《ならば始めよう!どっちが封印されるか、楽しめさせろ!竜王!》

―――――生きる興奮を 感じさせろ!

 

…光と闇は宝石の結界に戦い続けた。
戦って、闘って、たたかいつづける二匹の竜は結果のためにお互い傷付き、口を開いて相手を咬みつづける。
何日間続いたか誰にもわからない。

 

知らされていたのは、
紅い海の中に七つ色の宝石は小さく夜を照らして、青髪の少年は意識がない一人の人間を抱きしめている結果だった。

「『…兄上』」
後ろから水音と共に聞き慣れる声が届く。
「『エド、か』」
「『………はい』」
一歩を進み、銀髪の少年は伝える。
「『先ほど、母上は逝去した。『闇』の力が消えた後に』」
「『…母上の最期、辛かったか』」
「『……いいや。とっても緩やかな微笑をした』」
「『……そうか』」
少し悲しむ口調が少年に応え、青髪の少年は顔を伏せるまま腕の中の少年を見つめる。
「『封印は成功したか?』」
「『あぁ。虹の鈴と、七つ宝石で封印した。…俺の、体に』
「『何故『闇』の器を殺さなかった?兄上』」
「『生きていて、欲しいからだ』」
ゆっくりと少年の顔を触る。
「『がっかりしたか?エド。…人間のため、同じ性別の男のためにそこまでする俺に失望したか』」
「『…弟として、男として、僕は兄上が羨ましい』」
「『へぇ――…なんで?』」
「『僕には、自分の誇りや義務さえ捨てても守りたい人は居ないからだ』」
「『…そっか』」
指先より暖かい肌、安らかに伏せる瞳はまるで甘い夢を見ている様、頬は緩めていく。
小さな笑顔を咲いていく。
「…ごめん、な……」
眠る彼はきっと知らないだろう
「ごめんな。約束…もう果せなくて」
目覚めた彼はきっと覚えていないだろう
きっと力がない今の彼は、幸せになれるだろう
何もかも 忘れて…

―――十代

重なる口唇。
緩めに静かに触り、離れていく。

『おかえり、ヨハン』
「…さよならだ、十代……。」
その近くて遠い記憶の約束はもう、
『ただいま』
十代
唇の温度と共に、…―――

 

でも暖かく、感じた。
小さな青い宝石を握りながら空を見上げる。
探すように、懐かしく感じるように、

紅茶色の長髪を風に舞わせ、少年…青年は空を見た。

「『……。』」
「『?どうかしましたか?兄…竜王様』」
「『……いいや』」

空を 世界を通して、
青髪の青年の元へ。
彼らの物語。


恋歌・ の五章目
光の竜王・闇の覇王
交り合うことがない、二つの魂だった。