「レインボードラゴンの石版を見つけたんだと?!本当ですか!校長!」
大きな響きと共にテーブルは打たれ、黒髪の少年の気勢に校長・鮫島は動かずに、ただ静かに告げる。
「はい。先程、ペガサス会長からの連絡がありました。ただいま、会長は石版を発見した島にいますが…少し、言いにくいことがあります」
「言いにくいこと?」
「何がですか?校長」
「……それは、」
『ブルルルゥー…』
エドの質問に応え様とする時に隣の電話に着信が届き、溜め息を付きながら鮫島は受信のボタンを押す。
「どうした」
『校長、ペガサス会長からのご連絡です。モニターに通じますか?会長は見せたい映像がありそうですが…』
「そうか。通じてくれ」
『承知しました』
通信は一旦切り、モニターの開く音に映像は全員の瞳に映る。
銀髪の男が現れた。
『お久しぶりデス、鮫島校長センセーイ。おやぁ、みんなサンもここにいマスカ?』
「お久しぶりです、ペガサス会長。石版の事は聞きましたが、今はあちらに?」
『ハイ。…ヨハンボーイはこちらにいないデショーカ?』
「呼んでみましたが、どうやらまた迷ってしまった様です」
『そうデスカ』
「あの、」
少し迷うが翔は一足先に進み、ペガサスに話し掛ける。
「もしかして、見せたい映像ってヨハン君に関してるんスか?」
『…そうなのデース』
一瞬、全員の瞳は眉間を寄せた。
『万丈目ボーイ』
「?」
呼ばれた万丈目にペガサスは語る。
『先日、万丈目グループから話を聞きまして、音声のデータと共にレポートを頂きマシタ』
「っ?!」
思わず少年は驚きを隠すことができなかった。
「どういうことですか?!何故兄さん達が…!」
『私も驚きましたのデース。かつて、万丈目グループは私から宝玉獣デッキを買おうと思ってマシタ。ですが今回、彼らは調査に協力して頂いておりマス。確か、『弟の頼みを叶えたい』と』
「兄さん達が、…こんなことを?」
『ハイ』
驚くしかできなかった。
万丈目は思いも付かなかった。確かに彼はプライドが高いが、彼の兄達は弟である自分より高い筈だ。他人を頼らず、兄達はずっと自らの力で欲しいモノを手に入れていた。まさか弟の頼みのために自ら他人に頼むなんて、彼は本当に思わなかった。
『万丈目グループの協力のおかげで、調査は予定より早く進みマシタ。…一つ疑問がありマス。あの音声は誰のデスカ?』
「遊城 十代」
ペガサスは目を見開いた。
「ペガサス会長もご存知と思います。ヨハン・アンデルセンと同じく精霊が見える生徒の一人・遊城 十代です」
『――――……そう、デスカ』
暫く目を開くと何かを分かった様に、ペガサスは視線を逸らす。
『では鮫島校長センセーイ。この子達に見せても構わないでしょうか?』
「はい。お願いします」
『では十代ボーイの友達よ。…昔、私は宝玉獣達の石版を見つけたきっかけは、ある石版のおかげデース。そして宝玉獣デッキのカードと同じ様に、私は石版に描かれているモノをカードにデザインし、ある子供に譲ったことがありマシタ。…御覧なさい』
一足を下げ、後ろにいる景色は全員の視線に入った。
だが。
「「――――っ?!」」
向こうにあるのは一番大きな石版だった。
だが描かれている物は、誰にも声を出すさえできない。

石版に二つの竜が戦っている画が描かれていた。
一つは七つの宝石が嵌められている、光を意味する白き竜。
もう一つは、
『これはレインボードラゴン。そしてもう一つのは、ユベル(災い)と名づけた私は、』
双頭を持つ、闇を意味する黒き竜。
(まさか)
(まさか)
信じられないように冷たい汗はエドの顔から落ちていく。
だがどこか懐かしく、銀髪の少年は心の奥に呼び始めた。
『子供の遊城 十代ボーイに譲ったのデース』

――――「『兄上』」、と。

 

恋歌・ の三章目
『幸せ』は一時であり、永遠である

 

手にしたメモを見ながら周りを見渡す。
左を見て、緑の森。右を見て、同じく緑の森。手を額に置き、青髪の少年は頭を左右へ振り返る。
参ったように彼は苦く笑った。
「また迷っちまった…」
(さて、どっちにしよっか)
落ちた枯れ木を上へ投げ、一旦地上に跳ねた木はある方向に向かって伏せた。
右だ。
「よし!左にしよう」
…逆を選んでしまったヨハンだが、
しばらく歩くと見覚えがある景色が段々視線に入っており、目の前に彼はある家屋が見えた。
「やっとついたー」
手馴れた雰囲気で門を開きながら少年は挨拶を告ぐ…
「ただい…ってあれ?」
が、目の前にいるはずの姿は見当たらなく、
少年は頭を傾ける。
台所の鍋を開くと中の吸い物はすでに出来上がって、火も消えている。肩の鞄を椅子に置いて少年は部屋に向かう。
「十代?いるか?十代」
数回叩いてみたが返事は返ってこなく、でも危険な気配はないと分かり、少年は静かに門を開いた。
「………。何やってんだ、コイツ…」
青色の両瞳に映るのは、地面に臥せながら眠る十代だった。
始めに彼の倒れている姿に焦ったが、周りにまだ片付けていない服と十代が気持ち良さそうに眠っている顔を見て、少年は思わず溜め息をついた。
また片付けている間に寝ちまったか…
「じゅーだい」
軽く顔を叩き、軽い痛みに気付いただろうか、意外と長いまゆげがゆっくりと動いて上に向かう。
宝石のような琥珀の両眸は目覚めた。
「ん〜……ヨハン…?」
「おう。いつまで寝惚けてるんだ?寝るなら寝床にしろって、いつも言ってんだろ?」
「…うんー…」
ヨハンに腕を伸ばし、十代の行動が分かるヨハンも彼の背中に手を回せ、十代を抱き上げる。
大事を取るように、慎重に少年を寝床に臥せられた。
どうせまた寝るだろう、再び眠り掛ける十代にヨハンは上掛けを取る時だった。
「んー」
「うわっ、ちょっ、十代?!」
首に回す手は離れずに相手を自分に引っ張り、突然の力にヨハンと十代は寝床に倒れ込み、柔らかい紅茶の髪は視線に広がる。
自分と少し違う心臓の音が胸から伝わってくる。
「じゅ…十代、早く起きろ」
力強く抱きしめられ、抵抗すればすぐに十代の腕を解けるが、ヨハンは十代の睡眠を邪魔したくないため、しなかった。
ため息をつき、改めて彼の顔を見つめる。

――――あの日から、何年経ったんだろう?
自ら義務を捨てた日からヨハンは二度と力を使わず、普通の人間のように十代と一緒に暮してきた。数年の間に子供は少しずつ少年に成長し、身長も以前より伸びた。
やはり金がないと万が一の時に困ってしまうと感じるヨハンは自分が以前、精霊界に学んだ人間界の言葉や文字を子供達に教えることにした。近くにいる町の人々はヨハンの顔を覚えている可能性があるため、彼は少し遠いところの町まで行き、そこの子供達を教えて金を得た。
だが、思ったより得る金は少ない。
元々周りの町は貧乏にも感じる町だ。どうやら経済に余裕がある家族や富豪の家はもっと遠いところにいるらしく、始めにヨハンはもっと遠い町まで行きたかったがやめた。
ヨハンは、十代を一人で留守番させることが怖かった。
誘拐されたとこもあったためか、ヨハンは出かける時も心配ばかりしていた。
『安心しろって!オレ、ヨハンと出会う前からずっと独りだったぜ?』
でも十代は心配すんなって言った。
『大丈夫だよ。オレはこんな弱い子じゃねぇし』
『十代…』
『だからここで待ってやるぜ。ヨハンが戻って、オレはちゃんと言うんだ』

「―――ただいま、十代」
鳶色の髪を通して少年の顔を撫で、優しいキスは額に贈る。
まるで応えるように、十代は緩やかにヨハンに微笑った。

おかえり ヨハン。
かがやいている
「…?これは…?」
上掛けをかける途中、少年が腕に何かつけていると気付き、ヨハンは少し袖口を上げる。
小さな黒色の腕輪だ。
(そういえば、寝る時もよくつけるな、十代…)
十代と暮し始めてから間もなくの頃、ヨハンは十代がある腕輪をつけることに気付いた。
いつも服の下に付けるからヨハンはその形を見たことがなかったが、よく腕輪をつける十代にヨハンは少しだけ興味があった。
『なぁ、十代。なんでいつも同じ腕輪を付けるんだ?』
『っ?!っ、ま…まぁな。オレ、他の飾りも持ってねぇし』
『何か大切なモノなのか?ソレ』
『……うん。親が昔、残してくれたお守りなんだ』
かがやいている
(でもお守りっていっても、寝る時くらい外せよ…)
そう思いながらヨハンは飾りを外そうと腕輪に触る。
…だが。
(…っ?!)
腕輪の形を見えたヨハンは愕いた。
(な …何故っ?)
何かに真っ黒に塗られたけど意外と細かい細工が施された腕輪。でも青髪の少年が驚くとかんじる所はここじゃない。問題は、腕輪に刻まれた画だ。
一匹の、竜だ。
何故
何故母上の鈴と同じ画が十代の腕輪に刻まれている?!

歪む空の青色瞳。
黒きはゆっくりと、指先に触れた。

 

…輝いている。
少し小さな、静かな、黒かな
恐ろしい輝き、
「『う…っ!』」
「『!竜王さ…母上!』」
いつも通りにご挨拶と共に薬を届きに来たエドは扉を開く瞬間に竜王の苦しむ姿が見かけ、彼はすぐに薬を置いて竜王の側に走る。
「『どうしたんですか!母上!…オイ!医師を呼べ!』」
「『は、はっ!』」
「『しっかりしてください、母上!すぐに医師がきま…』」
「『やみが、』」
長く白い指先が銀髪の少年に触り、思わずエドは口を閉じる。
いつから、この方の腕はこんなに細くなったんだろう?
「『闇が、近づいている…このままでは、封印が解けてしまう…』」
「『っ…?!何がですか!母上』」
「『エド、気を付けて…闇は、あの このちかく、に……、……』」
「『!母上?ははう…』」
ギャァァァ―――!
悲鳴が聞こえると同時にエドは顔を上げる。
黒い光に覆される一匹の鳥は苦しみながら空に飛び、少しずつ光は鳥を食い込んだ瞬間に鳥は叫び、一瞬に鳥は大きな竜の姿の影となった。
「『闇…?!』」
まさか正々堂々に侵入されるとは!
舌打ちするエドは彼の母を抱きしめ、片手の食指を切りながら手を上げる同時に影が飛びかける時だった。
一匹、茶色の鷲が影の前に飛び上がる瞬間に、一瞬の風は影を刺し通り、体は固まって下へ落ちた。
「『っ?!』」
「『俺っちの前に勝手なことをするんじゃねぇやい』」
楼閣の壁に一人の姿は走り、エド達の前に立ち上げ、茶色の髪は視線に入る。
「『コバルト!』」
「『危ねぇとこだったぜ!エド』」
指先を伸ばし、鷲はコバルトの指に留まる。
「『おめぇの力は使っちゃいけねぇんだろ?』」
彼はちらりと後ろのエドを見る。
「『早く竜王様を連れて行け』」
「『ここは頼むぞ!』」
「『まかせろ!……っと、いいてぇところだけど』」
エドと竜王が部屋から去った共に気付いた様、落ちた筈の影は再び目の前に現れ、叫びの衝撃波に首飾りの紺色宝石は舞う。
コバルトは口元を上げた。
「『先客が来たんでぃ』」
二つの者が影を斬り去った。
言葉が終わる時にコバルトの左右から二人はすれ違って二つの刃は影に向かい、刹那にピンクと白の糸が交じり合う。
「『竜王様を傷づけることは許されない』」
「『そうだ』」
紫水晶と黄玉の首飾りが揺れ、長いピンク髪の女性と短い白髪の片目青年が現れる。
『ガァアァァ――――』
まだ諦めていないのだろう、半分切られた影は集めながら大きな黒球となり、彼らを襲う。
だが三人に触る前、黒球は再び切られ露台に倒れ込み、
白い刃の剣の輝きに一人の男性は現れた。
「『相変わらず速いね、サファイア』」
「『俺達のスピードは追い付けないぜ?』」
「『ルビーからの連絡が来たんだ。アメジスト、
トパーズ。竜王様は?』」
「『エドとルビーは一緒だわ。もうすぐエメラルドも向かうはずよ』」
ゆっくりと黒球は揺れ、影は静かに浅い色を持つ青髪の男性の足元に近づくが、
「『そうか』」
迷いもなく剣は影を刺した。
力を失った影の闇は無に消え、残されたのは操られた鳥の姿のみだった。
優しく鳥の遺体を両手で包み、深い蒼色の宝石は首飾りと共に風の中に舞う。
「『また、犠牲者が現れたか』」
「『…そうね。私とトパーズが担当している区域もそうだわ。闇の犠牲者が増えてきたの』」
「『だが、あの闇は一体どこから現れたんだ?数年前にも現れていなかったぞ?コバルト、お前の区域はどうだ?』」
「『駄目だ』」
左右にコバルトは鷲と共に頭を振り返った。
「『なんとか注意したけどよぉ、闇はいつも突然現れてくるから調査もできないんだぜぇ?闇が現れた場所の周りを全て調査してみたんだけど、まったくなかったでぃ』」
「『突然現れて、突然消えるか…』」
「『でも、』」
考え込み始めたサファイアにアメジストは語る。
「『さっきの闇…トパーズ、前の闇の影と似てない?』」
「『…ぁ、言われてみれば』」
「『アメジスト達のも俺っちのと同じだったか?』」

 

同じ姿。
確かに光と同じように闇は本来、力の形のみしかない。すなわち、実態の姿は持っていない。そのため、闇は人々の心に入り込み、相手の心の黒い部分を自分の姿にする。
人々は其々の心、体と魂があるから彼らの心の闇の形もきっと同じモノになれない。だがもし、精霊界に現れる闇の姿達は同じ姿にしか見えていないなら、
全ての闇は、同じ人のモノになる。
「『つまり、精霊界に現れている闇は全部、同じ人の闇ってことか』」
「『でも、サファイア。そうなると、この闇の主は恐ろしい力を持っているってことよ』」
「『わかって…』」

〈きこえる?〉

兆しもなく、一つ小さな声が頭に伝わってきた。
かなり柔らかくて音が小さい声だが、まるで鈴のような清音の澄む声に、三人は耳を傾けるところだが、同時にある事が気付く。
この声の主が言葉を出す時はきっと…
「『ルビーか』」
〈うん〉
「『どうした?竜王様は無事か?』」
〈だいじょうぶ。でもあたし、みたの〉
「『何を見えたの?ルビーちゃん』」
〈あたし、みたの。さっきのとりをあやつった闇が、にげたの〉
「『『…っ!?』』」
思わず三人とも目を大きく開く。
声は続いた。
〈ヤミは、あるじのせかいにもどったの〉
「『主の世界?!』」
〈うん。ヨハンと同じ、あのやみは、――…〉

――――じげんの扉をひらいて にんげんの
せかいに、にげてったの

 

「『――…んな馬鹿な!』」
思わずトパーズは否定した。
確かに信じられない話だ。

次元を開く力。
それは精霊界の中にも僅かの者しかない力だ。歴史によると、確かに時間を過去に戻す精霊は居たが、自由に次元を開く者は…特に、竜族でありながら次元を開ける者はいなかった。
竜王は、初めて次元を開いた者だった。
竜王は次元の力を使い、繋がったことがなかった人間界に新たな道を開いた。あの頃の人間界と精霊界の関係はかなり酷かった。お互いのことを信用できない人間と精霊、彼らの不安の中に事件が起きた。
『闇』の力が現れたのだ。
突然両方の世界に現した『闇』は人々の心を傷付け、彼らを操りながら力を奪ってきた。事態が悪化している間に、人間界の王族・世界王は精霊界に頼みを申し込んだ。
彼らの世界の技術の引き換えに『闇』の力を一緒に封印してほしいと。
竜王は承諾し、二つの王族は『闇』を封印できる飾りを作って『闇』を中に封印した。
一つは竜王の証である・虹の鈴。
もう一つは人間界の王族に預けた。
だがある日、人間界の王族・世界王は行方不明となった。世界王は子供がいないため、『闇』の封印の義務を継げる人間はいない。『闇』は封印から表した。
封印は不可能と気付いた竜王は次元の扉を閉じ、『闇』を人間界に残したが、竜王はまだ義務を続けているため、体は弱くなったが『闇』は強く暴動していなかった。

次元を開ける力を持つ者は竜王のみだが、竜王の子供や精霊の中で一人だけ竜王の次元の力を継いだ者。
その子は竜王の第一長子・ヨハンだった。

つまり、次元の力を持つ者は竜王とヨハンしかいなかった。
「『ちくしょっ!エドも竜王様の子供であってもこの力を継げられなかったぞ?!』」
「『だがルビーの言うとおりなら、今は次元を開ける三番目の者が居る』」
「『待て』」
サファイアの言葉にあることを気付いただろう、少し考え込みながらアメジストは喋る。
「『闇は力を奪うことにより力が成長するでしょう?』」
「『?あぁ。確かに、闇はずっと人々の心を操りながら彼らの力を奪ってきた……、…アメジスト。まさか、』」
続いて気付くサファイアとトパーズにコバルト。瞳は段々大きく揺れていた。
「『竜王様以外に次元を開ける者はヨハンしかいないわよ!闇は人間界に行ったって、…あの世界にヨハンはいるじゃないか!』」
「『くっ!トパーズ、もう一回『闇』に関した者の共同点を調べ!
コバルト、俺が書信を準備している間にアンバーに連絡しろ!今からアンバーに精霊界全体の防壁を頼むってな!あと、鷲を借りてくれ!
アメジスト、竜王様のところに血を貰いに行ってくれ!少しでいい!鳥が飛び込めるくらい扉を開けばいいんだ!』」
「『了解だ!』」
「『任せろ!』」
「『わかったわ!』」
「『エメラルドにも連絡してくれ!竜王様が倒れている間に勤めはエドとエメラルドに頼む!…ルビー、聞こえるか』」
〈はい〉
「『すまないが、アンバーを手伝ってくれないか!今だけでいい。お前の力が必要だ』」
ルビーは他の宝玉獣と違い、普段の彼…彼女は竜王様の言葉しか聞かないし、竜王様のための行動ではないと判断した場合、ルビーは拒む権利はある。
精霊界の中でも特別な種族であるため、彼女の特別な能力や姿と共にカーバンクル(未確認の不思議生物)と呼ばれた。
〈……うん。わかった。あたし、竜王様がだいすきから、アンバーをてつだう〉
「『ありがとう。もし変なところが見つかったら俺に教えてくれ』」
〈うん。………ねぇ、サファイア〉
急いで走りながらサファイアはルビーに応える。
滅多に言葉を喋らないルビーがサファイアと話し続け、サファイアは少し疑問を抱いた。
「『どうした、ルビー』」
〈こわい〉
「『?』」
〈あたし、あの闇がこわい〉
頭に入ってくる声に震えが感じる。
まるで目の前に小さな子供が体を抱きしめながら震える様、サファイアは目を瞬いた。
〈だって、あの闇〉

〈あたまがふたつがあるよ〉

…かがやいている

ちらりと十代を見て、ヨハンは視線をそらす。
だが暫く手を握りこみ、決心したようにヨハンは目を開いた。
「十代」
「ん?どうした?ヨハン」
いつも通りに自分に向かってくれる笑顔にヨハンの心は痛む。
「なぁ、十代。お前の腕輪のことなんだけど」
「ん。……あれが、どうかしたか?」
「あの腕輪、お前の親が残してくれたモノだよな?じゃあお前の親はどんなひ…」
一片の羽は落ちてくる。
羽根が二人の間に落ち、ヨハンは拾って顔を上げると、見覚えがある鷲の姿が空に飛んでいた。
「あれは確か、コバルトの鷲?」
腕を上げて鷲はヨハンの腕に止まり、彼は鷲の足に付いている紙を取る。
だが同時にヨハンの不安は思いつく。
(なんのための、緊急連絡だろう)
彼は書信を開いた。
「…………」
突然、沈黙の時間。
不安げに頭を傾け、十代がヨハンに近づこうとする時だった。
「―――…母上が倒れた、だと…?」

少年は聞こえた。

「竜王様…母上が、倒れた。と、同時に『闇』が精霊界に現れたんだと…っ?!」

知ってはいけない事実を彼は聞き、
知ってしまった。

ヨハンは 竜王のこど、も…

輝いている。
少し小さな、静かな、黒かな
恐ろしい輝き。

闇の 胎動。


恋歌・ の三章目
『幸せ』は一時であり、永遠である
そして、それは思い出のみ