―――暖かいような、鮮やかような、
初めて紅色を触る一瞬だった。
一滴ずつ、指と指の間に流れる液体は肌から離れて落ち、まるで雨のように地面に水の音がする。
暖かいなのにつめたい。
生き物のではない、氷の冷たさ。
ああぁ。そうか
俺がころしたんだ
刃を振ると同時に紅雫は顔に付き、大きな紅き花が咲いていくような景色に青眸はただただ見つめることしかできない。
花びらは飛んだ。

初めて、俺は命を奪った。
奪った命は人間のモノだ。
俺は自分に約束した。約束したのに、自ら破ってしまった。
他の世界に関わらないって。関わるとなれば、それはきっと自分の義務さえ捨てるって。
あっさりと、捨てたんだ。
「『ごめん、なさい…ヨハン……、ゴメンッ…』」
「『お前が謝ることじゃないんだ。泣くな』」
俺は人間が嫌いなのにこの子を嫌うことができない。
この子を助けるために命を奪った。
何故だろう。ころすまでしなくてもいいのに、俺はころしてしまった。
本当は俺だって怖いんだ。あいつらの命を奪った瞬間に俺は何も考えられなくなった。頭が真っ白で、つい先程まで生きている命は今、息を失ったと気付いた同時に後悔が一気に表れた。
指先や腕が震え、体が殻になったみたいな気分だ。
この子の前でなければ俺はきっと立つ力さえ失うんだろう。
今更だが感じる。
命は、重いんだ。

あっさりと命を奪う俺は竜王になる資格がない。俺にはない。
もう、戻ることができない。
「『…十代』」
「『ヨハン…っ』」
「『もう泣くなって。…あぁ、言い忘れたんだな』」
それでもこの子は応えてくれるなら、俺はそれでいい。
「『遅くなってごめんな?―――ただいま、十代』」
「『ヒっク……うん、ヨハァ…おかえりなさい』」

(俺は最期までこの子を守ることを、誓う)
ゆっくりで、少年の切なさ眸は開いた。

 

 

詠唱・ の五章目
告げられる足音

 

「『…よ、はぁ……』」
「……んぁ?おはよう、十代…」
「『ヨハン!』」
「うわっ!」
目覚めて初めに大きな琥珀色の瞳は自分を見つめ、声を掛けた後に安心したように少年はヨハンを抱きしめる。
思わず目を瞬く時に悲鳴が耳に伝わった。
「あぁ―――!ヨハン君!早くその手を離せー!」
「えっ翔?!」
「アニキ!早くこのフリルから離し、」
「落ち着け、翔!今の十代は貴様の言葉なんて分かるもんか」
「ボクのアニキが穢れるっスよぉー!」
『ボクの』ってなんだ?!
「翔、落ち着け」
「でも兄さん!」
「ヘルカイザーの言うとおりだ。今は落ち着こう」
「翔に万丈目、エドやヘルカイザーまで何故ここに…?」
疑問を抱きながら青髪の少年は『十代』の背中に腕を回す。だがヨハンの質問を聞いた彼らは軽くため息をつけ、後ろから止められている翔は再び暴動を起こした。
「このフリルめぇえええ」
「だから落ち着けってんだよ、翔!」
「このブラックサンダー、放せー!!」
「ヨハン・アンデルセン」
後ろの騒ぎを気にせずにエドはヨハンを見る。
「話をしたいだが、先に彼を放して貰えるか?」
「あ、ああぁ。そうだな。十代、少し離してくれな…」
言葉の意味が分かり、胸の中の少年にヨハンは声を掛けるが、話しが終わる前に彼は既に嫌と頭を左右へ振り返った。
「えっと…じゅーだい?」
自分の背中に回す腕を動いてみるが、やはり力強く掴められている。
「どうした?らしくねぇぞ?」
沈黙のままに頭を振り続ける。
少し苦くクスっと笑い、ヨハンは彼の背中を撫でた。
「安心しろ。俺はここに居るぜ?」
肩は小さく跳ねる。
「どこもいかないから、な?」
ちょっとだけ話させてくんないか?
ヨハンの願いに応え、『十代』は頷きながら背中に回す手を離した。
「『…外で待ってやる』」
「おう!外で待ってもいいけどさ、勝手にどっかに行くなよ?」
「『オレは子供かよ!』」
「十代はまだ子供じゃん?」
「『〜〜方向音痴のヨハンに言われたくねぇー!』」
「って悪かったな、方向音痴で!」
「『ヨハンだってこどものくせ…』」
既に周りの目線を気付かず、いつの間にか喧嘩し始めた二人に亮はこっそりと隣のエドに問う。
「…分かるか、エド」
「わかる訳がないだろ?でも対話は大体想像できる」
「奇遇。俺もだ」
「兄さんにエド!今は二人を止めるべきっスよ!」
「それでもなーんだ?」
あっという間にヨハンは『十代』の顔に近づき、突然大きくなっていた視線に少年は緊張する。
ヨハンはニコリと笑った。
「十代はまだ子供だから寂しくて留守番もできねぇーか?」
「『………。』」
瞬間、頭が打たれた音と走り去った足音が部屋に回っていた。
「いってぇー十代の奴!手加減しろよ!」
「「自業自得だ」」
ヘルカイザーとエド!お前達は一体いつからこんな仲良くなったんだぁぁあ!
思わずツッコミたくなるヨハン&万丈目達であった。
「本題に戻ろう。ヨハン・アンデルセン。さっき……、…」
「?」
珍しく相手が言い難そうな表情を出し、ヨハンは頭を傾ける。
エドをチラリと覗き、亮は口を開いた。
「さっき、夢でも見たか?ヨハン」
「え?夢?」
「あぁ。随分と魘された」
「ゆめ…」
ふと手を額に置き、ヨハンは先ほどのことを思い出す。
少しの沈黙の後、何かを気付いたように碧緑色の眸は見開いた。
「…十代に、会った」
「どこに」
「別の世界、…人間の世界に」
「お前はどこの世界から来た」
「……精霊界」
雷が人々の心に降っていく。
「何故人間の世界に向かった」
「…、……王位を受け継ぐため、人間界で自分を磨くためだ」
「そうか。ならば最後の質問だ」
段々開かれる両眸に少年は動けず、最後の発言が冷たい汗と共に彼に向かう。
「お前は、誰だ」
まるで審判のように。
「―――…がぁ、ちがう!違っ!」
少年は頭を抱いた。
「俺は竜王なんかじゃない!俺はヨハン・アンデルセンだ!俺は、―――精霊界の竜王じゃねぇ!」

俺は、あんな資格なんてない!

 

 

―――――……。
衝撃。
もし精神的な衝撃というなら、正にその時を言っているだろう。
翔、万丈目、亮とエドは万丈目の特設ルームに座り、先程に知らされた事実に疲れ果てたか、四人とも体が重く感じた。
「…信じられるか」
兆しもなく、拳をテーブルに撃つ万丈目は沈黙を破る。
「信じられるか!こんな話!」
だが彼の叫びを止める人は居なかった。
彼達にとって、知らされた事実は既に精一杯だ。
「……とりあえず、先に知っている事をまとめてみよう」
「エド!何故お前なこんな冷静に…」
「万丈目サンダー!」
より大きな声でエドは万丈目の言葉を止める。
彼は相手を睨んだ。
「混乱しているのは君一人じゃない」
「っ……」
「今は十代を元に戻すことが先だ。そうだろ?」
視線をそらす万丈目を気にせず、エドはメモとペンを取り出し、メモの上に書き始めた。

 

◇ ◆ ◇

オジャマ三兄弟の話によって、彼らは知った。
古代には人間界と精霊界があり、精霊界にはそれを統べる王者・竜王が居た。だが竜王は竜王になる前に人間界のある人に恋を落ちてしまい、相手は『闇』に操られたため、竜王はその人間の代わりに『闇』を受け入れた。結果、竜王になった竜王はある日、『闇』に操られて精霊界は滅びた。自分の世界を滅ぼした竜王はこの事件の後に人間界に落ちたらしいが、本当のことは誰にも分からなかった。
ただ人間界に隠し暮していた精霊達は精霊界が滅ぼされた日、大きな光の中に竜が翼に包み込まれながら消えてゆく姿を見掛けた。
次に万丈目グループの調査と十代の事件。
年に一度、十代が不思議な言葉を喋る日が来るが、あの日に十代は必ずある名前を呼び続ける。
その名前の発音は『ヨハン』を意味し、万丈目グループが調査してきたレポートの中に、伝説の宝玉獣達の主・レインボードラゴン(虹の竜)を意味する名前(人物)でもあった。
そして、ヨハンが寝ている間に魘された言葉と先ほど答えた疑問。
ヨハンには弟が居て、名前は『エド』らしく、彼らの母上はあの頃の竜王らしい。
ヨハンは竜王の王位を受け継ぐために人間界で自分を磨くが、彼は人間界で十代と出会った。

もし以上の情報を纏めるなら、一つの可能性がみえる。
ヨハンはかつて精霊界を滅ぼした竜王・レインボードラゴン(虹の竜)。彼は竜王になる前に人間界で自分を磨く時、『十代』と出会ったため十代はヨハンの名前を知っていて、十代が年に一度だけ喋る言葉は前世に使われている言葉であり、彼も古代の『ヨハン』の名前を知っていてもおかしくないし、例え人間界と精霊界の言葉が違っても人間界に暮してきた『ヨハン』なら言葉に問題がない。
それなら、エドは『十代』が喋った『ヨハン』の発音しかわからなくて当然だ。
だがここに思いつく別の質問が現れる。
竜王である『ヨハン』は精霊界を滅ぼす理由は竜王が『闇』に操られたためだ。だがその『闇』は竜王が恋に落ちた『ある人間』のモノの筈だ。竜王はこの『人間』を守りたいため、自ら闇を代わりに受け入れた。
ならば、この『人間』は一体『誰』だろう?

「もしかして、アニキ…」
思わず全員の視線が翔に向かう。
「アニキがヨハン君…竜王の大切な人なんスか?」
「有り得るか!?十代は男だぞ!」
「でも前世なら女の子の可能性もあるでしょ?!
だったら通じると思うスよっ万丈目君!」
「サンダーだ!例え十代は前世の時が女の子だとしてもヨハ…、竜王が恋している人間だと限らない、」
「前世の『十代』は男の子だ」
いきなり声を出すエドに二人はハッと彼を睨んだ。
「…それだけは、はっきり言っとく」
「……、やはりヨハンが言っていた『弟』ってお前のことか、エド」
「今の僕とは関係ないんだ!それに僕は何も知らない、ただの直感だ」
「――――…待て」
何かを思い付いた様に、亮は語る。
「もし竜王の弟である『エド』が前世の『十代』の性別を知っているなら、…つまり

前世の『エド』と『ヨハン』にとって『十代』の存在はこれほど強いではないか?」

「っそうか!あの人にとって相手が大切だからこそ、今になっても記憶が残されているんだ!」
「なるほど。全ての謎が解けた!」
手を握り込みながら万丈目は立ち上がる。
「おじゃま三兄弟の記憶や歴史の記録に残されなくても分かる話だ。かつての竜王は恋に落ちた『人間』は男の子『十代』だ!だが身分は違い、しかも相手は自分と同じ男を思う竜王は『十代』から離れた。そのせいか、『十代』の体から『闇』が現れ、申し訳ないと思っている竜王は最後に彼の代わりに『闇』を受け入れ、自分の世界に戻った!だが、弟である『エド』は竜王の気持ちに気付き、興味深いと思った彼は人間界に『十代』に会いに行き、兄と同じく彼に恋をした!だから今の時代のエドとヨハンも前世の『十代』のことを覚えてい…」
「アニキィ〜…申し訳ないけどさぁ…」
段々話がおかしくなって、聞くだけで思わず頭が撃たれたように暈す全員だが、まったく気付いていない万丈目におじゃまイエローは後ろから現れ、彼の耳に近づく。
「エドのダンナはまだともかくさぁ、ヨハンのダンナは何も覚えていないらしいよ?」
「くっ……」
「それにねぇ、精霊界の事件の前に竜王様は王妃が居ましたよぉー?しかも子供もすぐに生まれる頃だって兄さん達が言ってたわー」
「ああああああやかましいー!!じゃあ言ってみろ!以上の流れでなきゃ、どうやって十代とヨハンとエドの事を繋げればいいんだ!ちくしょぉ!誰でもいいから昔と今のことも覚えていれば話が早く解決できるんじゃかー!」
「おおお、お落ち着けてくださいよぉ万丈目のアニキィ〜」
昔と今のことを覚えている人。
ではさっきの…
「どうした?翔」
弟がかわった気配に気付き、亮は翔に聞く。
「実はさっき、アニキの様相だけど…」
「話してみろ」

ふと先ほどのことを思い出す。
ヨハンの叫びが聞こえた『十代』はすぐに部屋に入り、心配そうにヨハンに声を掛けた。自分達に気付いていないと分かった亮達は無言のままに部屋を出て、翔は顔を下げながら独り言を話す。
とっても小さな呟き声で。
『アニキ、本当にボク達のことを覚えていないスね』
だが扉を閉める前の瞬間、何故か翔は中を覗いてみたいと思い、部屋の中に視線を向ける。
そして彼は見た。
『…―――っ?!』
宝石より澄む琥珀の両眸は彼を見つめている。
観察しているような、相手の本質を理解したいような、水色の瞳の奥まで少年は翔を見つめていた。
(なんで?今のアニキはボク達の言葉なんて分かる筈がないのに)
知りたいと思ったが、扉がすぐに閉められ、翔は再び扉を開くことはなかった。
だが最後に、彼は見えてきた気がした。

「アニキは笑ったスよ」
一瞬しかなくても翔ははっきり答える。扉が閉める前に十代は確かに自分に向かって小さく笑った。ヨハンへの『十代』の笑顔ではなく、彼が知っている『遊城 十代』のモノだ。
「だがこうなると、今の十代は実際、俺達の言葉が分かることになるぞ?」
もし今の十代が『前世の十代』ではなく、彼らが知っている『遊城 十代』なら、

何故言わずに隠すのだろう?

 

「『はい』」
「サンキュー、十代」
『十代』から水を取り、カップの水を喉に通り、少しだが青髪の少年は冷静を戻した。
「『大丈夫か?』」
「あぁ。わりィな、急に大きな声を出しちゃって」
「『いいんだよ。オレもよくヨハンに世話させているし』」
思わず苦く微笑するヨハン。
「でさ、十代」
カップを床の上に置き、ヨハンは着替えながら言葉を出す。
「何か思い出したことあるか?」
「『思い出すって何を?』」
「いや、だからさ」
慣れた動きで着替える十代を見て、再び続く。
「例えばさぁーさっき会った人達は誰なのか分かるか?」
「『さっきって…』」
うーんと呟きながら『十代』は考え込む。
ヨハンは目を細めた。
「なぁ」
少年の手を取り上げる。
「ちょっと散歩しようぜ」
「『?…おう!』」
二人は手を繋いでレッド寮を出た。昨日もずっと外に居たのにまるで久しぶりに出かけていない子供の様に、紅髪の少年は嬉しくヨハンと一緒に森へ向かう。
だが森に入った直後、ヨハンは『十代』の手を放した。
「『?』」
「十代」
突然、足を停めたヨハンに『十代』は頭を傾ける。
「『?どうした?ヨハン』」
「十代」
「『だからどうしたんだ?ヨハン』」
「今のお前はどっちの十代だ」
兆しもなく、少年の目は少しずつにゆれていきながら見開いた。
「『…っ、なに 言ってんだよ、ヨハン』」
「今のお前は『前世の十代』じゃない。もしお前が『前世の十代』ならお前はパジャマの着替え方がわからない筈だ。昨晩の十代はまったく分からなかったから、俺がアイツのために着替えさせた」
「『!?』」
「他にもある。俺が叫んだ時、お前は翔の言葉に反応して彼を見てた。俺から言うのも変だけど、昨日まで『前世の十代』はオレしか目に入ってないらしいぜ?そして俺以外の言葉がわからない。――――俺はもっと早く気付くべきだ」

全てを統べる王者の視線。世界を見つめる空のような、世界を守る海のような、青い両眸は静かく、でも鋭く厳粛な目線は見通す。
「お前の言葉をわかる俺はともかく、俺からの言葉に何故お前は分かる?もし『記憶が混乱している』理由なら俺はすぐに否認できるぜ。『記憶が混乱している』…それを知っている時点で、お前はすでに自分の立場が分かっている筈だ。もしかしたら昨日までのお前はただ記憶が混乱していて言葉が分かるかもしれんけど、今日のお前は違う。今のお前は、覚えているのに覚えてない振りをしているんだ」
「――――」
「お前は、」
王者である・竜王の瞳が少年に入り込んだ。
「誰だ?」

…静かにゆれていく。
五月の風は少し寒いが、その冷たさは氷のような寒さではなく、涼しい感覚に暖かさが伝わってくる。
あぁ、もうすぐ夏がくるんだ。少年は思う。
「『…ヨハン』」
一歩前へ進み、少年はヨハンの名前を呼んだ。
「『オレはただ、お前と一緒に居たい』」
指先は一瞬迷って肌を触り、十本の指はヨハンの顔を撫でる。
「『確かに今のヨハンにとって、今のオレはお前が知っている十代じゃないかもしれんが、オレ達が思っていることは同じだ』」
「思っていること?」
自分より少し暖かい指先。
「『お前と一緒にいたい。』」
ヨハンが知っている、十代の指の温度だ。
「『もう独りになりたくないんだ。…ヨハン、』」
だが彼の顔は緩やかに悲しんでいる。いつもより元気で笑顔を与えてくれる彼と違って。
「『早く、思い出してくれ』」
(オレにはもう時間がないんだ)
彼は、辛いだと…
「『ヨハン』」

―――おれをとめてくれ

光は現れた。
「?!」
「『っ!この光は…』」
ヨハンに近づく同時に眩しい輝きは彼の後ろから現れ、唐突な光は視線を覆って『十代』は青髪の少年から離れた。
疑問を抱くヨハンは後ろに手を伸ばす。腰のところに置いているモノを取り出すと、デッキが瞳に映る。
「宝玉獣のデッキが…」
『ドクン』
と、心臓が大きく跳ねたともに、
「『くぁああああぁあぁぁああ――――!!』」
「っ?!」
大きな悲鳴がした。
神の罰が降臨して頭が裂けそうに少年は頭を抱きながら苦しく叫び、音の衝撃はヨハンにも与えられた。
「十代?!オイ、どうしたんだ!十代!」
ヨハンは彼に手を伸ばして触ろうとする刹那、肌に触った指先から一瞬の波は彼に入り込み、映像は風のように再生していく。
そして最後の映像をヨハンは見た。

「『―――ヨハン』」
切なく、でも優しく泣きながら笑顔を咲いてくれる十代が、

「っく……」
衝撃に二人はゆっくりと地面に腰を下ろし、
草の上で意識を失った。

カードの輝きは、続く。

 

(オレを止めてくれ、ヨハン)

 

「ペガサス会長!例の島が見えました!」
高速で空を飛んでいるヘリ。一人の男がヘリの扉を開き、向かう方向を見つめる。
遠いところに小さな島が視線に入り込む。男が気付いたか、光は島の奥から空へ飛び掛け、左と右から大きな光の羽が空に表す。
「…ようやく、見つけましたデース!」
まるで遥かな時に、翼を持つ光の竜が長い眠り目覚めた瞬間のようだ。
男は興奮に口元を上げ、銀色の長髪は気流の中に舞い始めた。
「宝玉獣の主であり、伝説の竜王・―――レインボードラゴン(虹の竜)!」

(オレに約束の言葉をくれ。お願いだ)
(オレを、止めてくれ…)


詠唱・ の五章目
告げられる足音
一歩一歩。緩やかに近づいているソレは始まりを意味する音。悲劇、の始まり