あなたはバラをどう思う?


いきなりだった。
二人はずっと無言のまま地面に座り、少し冷たい草の触感は肌に伝えた。
何か話そうと思っても、何を話せばいいのか遊星には分からず、二人はずっと黙ったままだ。
公園はいいところだ。
緑の景色を見ると心は安らかくなる。昔、ラリーが本でそれを読んで教えてくれた。
サテライトには公園がない。元々工場などの建物しかないあそこは、昔の『事故』で色んなところが破壊され、緑を見るのは難しいところだった。
ふと、今座る公園を見て遊星は小さく笑う。
シティとサテライト、本当に違う世界のようだ。

その時、ずっと側で黙っていたアキは口をあけた。
「あなたはバラをどう思う?」
バラ。
植物の一つ。
「…赤くて、綺麗な花と言われてる」
「ええ。そうね」
この言葉を語る語気はとても優しく、柔かい口調だった。
まるで花に愛情を捧げ、花と共に生きるようなリズムだった。だが、遊星は見えていた。
あの瞳は、瞳に映る物が憎いと言っている。
「バラは綺麗ね。だって、バラはその美しい姿で人を惹かせるモノだもの」
「…アキ」
「かつて、吸血鬼もバラに通して精力を回復するって噂もあったわね」
「アキ」
「人々を誘惑し、人間の生気を吸い込んで開花するバラ。赤い花びらはまるで生気が取られた人間共の血…」
「アキ!」
「いつか私もバラと同じことをするわ!」
私は周りの人を傷付けてしまう
彼らの命を奪ってしまう
バラは美しい?違う、バラは醜い。
人を傷付けなければ生きられない 汚い生き物なの!
「私と居れば不幸になるわよ。あなた分かってるの?私といればあなたもしぬ…」
はっと止めた言葉。
遊星は手袋を外し、直の温度でアキの腕を包んでいた。
「…冷たいか?」
「……、いいえ」
寧ろ暖か過ぎて火傷しそうなくらいだ。
「これが、生きる人間の温度だ。そうだろ?」
君は人を不幸にするバラではない。君は自分を不幸にしているんだ。
「俺は『ここ』にいるだろ」
少女はゆっくりと頷く。
「俺はお前の側にいる、お前を触っている。でも俺は不幸になっていない、命を失っていない」
(信じてくれ。人間を、自分を)
「だからアキ。…もう自分を責めるな」
(俺はお前と一緒に居ても、大切な物を失っていないんだ)

ゆっくり、優しく鮮やかな紅髪を撫でる。まるで慈愛に満ちたように、指先から心暖かい気持ちが伝わってくる。
遊星は立ち上げ、アキに手を伸ばす。
「病室に戻ろう。立てるか」
彼女も手を遊星に伸ばそうとした。だが指の肌に触る前の刹那、再び迷いが湧いたのか彼女は一旦動きを止め、再び手を収めた。
だが次の瞬間にアキは絶句した。
「………っ?!」
「無理もない。意識が戻ったばかりだ」
「ちょっ…遊星」
彼女は今、目の前の青年に抱上げられている。
まさか歩けないと勘違いされ、抱き上げられるとは…。
いきなり伝わってきた暖かさにアキは焦った。
「一人で歩けるわ!離し……」

――――触るな!化け物め!

ふと過去を思い出してしまった。
今思うと、彼女が最後に抱きしめられた時はいつだったんだろう?
「…バラの香りがする」
「え?」
「いや。なんでもない」
元々心遣い人なのか、自分を抱きしめながら彼の歩き方はいつもと違い、自分の体調を気遣ってくれた。
思わずアキは口元を緩める。
何年ぶりの暖かさが彼女の心に満たした。


赤くて美しい薔薇の少女。
棘に包み込まれたバラを受け止めたのは、その赤い悲しみを見つけたひとつの星でしょうか


(俺は必ず、お前を守って生き残る)




遊アキ『バラ』   修正:Yさん

妹さんに捧げたSSでした ^^ いつもお疲れ様で…本当にお世話になりました……><
妹の十アキ←遊星を楽しみしていますよ(笑


2009.01.04